バードリサーチニュース

寒さに弱い? 寒くなると移動するマガモ

バードリサーチニュース2019年11月: 3 【活動報告】
著者:植田睦之・嶋田哲郎

 寒くなってきました。こんな季節は保温マグに入れたコーヒーがうれしいです。こんな寒い中,鳥たちはどう過ごしているのでしょうか?
 8月号のニュースレターで紹介しましたが,マガモやカルガモは湛水田やハス田で好んで採食します(嶋田ほか 2019 概要はこちら)。そんな場所は寒くなると凍結してしまいますので,良い採食場所が利用できなくなってしまい,彼らは厳しい状況に陥りそうです。
 嶋田ほか(2019)の調査で,私たちは伊豆沼でマガモとカルガモにGPS-TXという発信機をつけて,移動を追跡しました。多くの個体は追跡後,しばらくして伊豆沼を離れ追跡できなくなってしまいましたが,そのうちのマガモの雄1羽は,1か月にわたって伊豆沼に滞在し,その動きを教えてくれました。まずは,この雄の行動と気温の関係について見てみましょう。

寒い夜はマガモは伊豆沼にとどまる

 マガモは昼は伊豆沼で休息し,夜になると採食のために水田地帯へと飛び立っていきます。そこで,夜の滞在位置をもとにどんな場所で採食しているのかを調べてみました。
 その結果が表1です。最初の頃は湛水水田や蓮田で採食する日と伊豆沼に滞在し続ける日があり,後半になると池に採食しに行っていることがわかります。
 1月8日から25日までの水田や蓮田に行く日と伊豆沼に残っている日を比べると,1月24日を除けば,-5℃以上の日は,水田や蓮田にでかけ,それ以下の寒い日は伊豆沼に滞在していました。
 マガモは採食地として湛水水田や蓮田を好みますが,そのような場所は寒くなると凍結し,カモが利用できなくなってしまうと思われます。寒い日はそれを予期して伊豆沼を離れないのか,それとも,出かけて行った先が凍結していて伊豆沼に引き返してくるのかわかりませんが,マガモたちは寒い日は,あまり採食場所としては適していない伊豆沼に滞在(伊豆沼で採食しているのか,それともただ休んでいるだけなのかはよくわかりません)しているのだと思われます。
 そんな寒い日が何日も続いた後,1月26日からはマガモは,ある池に行って採食する様になりました。現地を確認してみると,ここは,湧き水がわいているのか,あるいは,単に水深が深いからなのか理由はわかりませんが寒い日でも凍結しない池でした。そして,この場所に電波がとれなくなる2月11日まで連日,通うようになりました。このような凍結しない採食場所があるかどうかが越冬できるかどうかの鍵を握っているのかもしれません。

2018年1月2日 2:26:21。気温は-1度とそれほど冷え込んでおらず,湛水水田でマガモが採食している

 

寒くなると伊豆沼を旅立つマガモ

 凍結が越冬できるかどうかの鍵になっているとすると,カモたちが伊豆沼を離れていったタイミングと気温には関係がありそうです。 先のマガモの雄の行動を見ると,-5℃が湛水水田や蓮田で採食できるかどうかの境になっていそうなので,追跡したマガモ全個体のデータをもとに,それらの個体が伊豆沼を去った(データがとれなくなった)日が-5℃以下の寒い日だったのか,それともそれ以上の暖かい日だったのかを見てみました。
 その結果は寒い日にいなくなったのが8羽,暖かい日にいなくなったのが3羽でした。飛び立つまでの寒い日と暖かい日の割合をもとに検定すると,有意に寒い日に伊豆沼を去ったことが,わかりました(χ2 検定 P=0.04)。寒くなって,おそらく採食場所が利用しづらくなったことが伊豆沼を去るきっかけになっていると言えそうです。

 さて,寒くなって伊豆沼を飛び立ったカモたちはどのあたりまで南下するのでしょうか? 広い水田があり,給餌休止以降にオナガガモが増えている茨城(佐藤 2018)あたりでしょうか? 湛水水田を好むマガモやカルガモは,乾田もよく利用するオナガガモやオオハクチョウ(嶋田ほか 2018)より寒さの影響を強く受けそうですが,そうした生態により寒くなった時の移動に差があるのでしょうか? ガンカモ調査の年変動とその年の気温を比べたら,そのあたり見えてくるかも,と思いました。

佐藤望 (2018) オナガガモの分布変化. バードリサーチニュース2018年3月:3
嶋田哲郎・植田睦之・高橋佑亮・内田 聖・時田賢一・杉野目斉・三上かつら・矢澤正人 (2018) GPS-TX によって明らかとなった越冬期のオオハクチョウ,カモ類の環境選択. Bird Research 14: A1-A12.
嶋田哲郎・植田睦之・高橋佑亮・内田 聖・時田賢一・杉野目斉・三上かつら・矢澤正人 (2019) GPS-TX による越冬期のマガモ,カルガモの行動追跡. Bird Research 15: A15-A22.