「足元にテケテケ歩いている小さい鳥がいるんだけど,あれは何?」
コンビニの駐車場などで見られることも多くなり,関東ではハクセキレイは,一般の人にとっても最も身近な鳥の一つになっています。関東で繁殖するようになったのはもうずいぶんと前のことですが,それがどんどんと南へと進み,全国を席巻しようとしている様子が,現在行なっている全国鳥類繁殖分布調査で見えてきています。そして,北から南への分布拡大の流れとは別に九州からの分布拡大の流れもあるようです。
南へと拡がるハクセキレイの分布
2016年から始まった全国鳥類繁殖分布調査は現時点で1626コースの調査が終了しています。1970年代と1990年代にも同様の調査が行なわれており,当時のコースの71%を調査することができました。20年もたつと,道がなくなったりして必ずしも同じコースを調査できているわけではありません。そこで,調査コースの変更が軽微なコースを選び,ハクセキレイの分布変化を見てみました。
北海道,東北,関東,…と地域別に,1990年代の調査と比べて「新たにハクセキレイが出現した場所」,「両年代共に記録できた場所」,「今回記録できなかった場所」に分けて集計すると,北から南へと「新たに出現した場所」の割合が高くなっていました(図1)。このことは,ハクセキレイの分布拡大が北から南へ進んでいることを示しています。その中で,九州だけは中国・四国地方よりも先に記録されたコースが現れています。何が起きているのでしょうか? 1970年代,1990年代,そしてまだ途中の段階ですが今回の調査の分布図を比べてみました。
内陸への分布拡大と西からの分布拡大?
現在調査中の2016年からの分布図は,まだ未完成で穴だらけではありますが,それでも分布図から,いくつかのことが読み取りることができます(図2)。1つは前述したとおりの北から南への分布の拡大。そして,分布が海岸から内陸へと拡がっていることです。また,西の方では1970年代にすでに九州北部に分布の核があり,そこから分布が徐々に拡がってきているようです。つまり北からの分布拡大とは別に,九州北部からの分布拡大があるようなのです。朝鮮半島経由でハクセキレイの繁殖群が日本に入ってきて,それが分布を拡大しているのでしょうか? 九州北部とともに朝鮮半島と近接している鳥取・島根(ミヤマガラスがここから朝鮮半島へと旅立つことがレーダ調査からわかっています)に小規模ながら1970年代からハクセキレイが分布しているのも,その可能性を示しているのかもしれません。
もし朝鮮半島から入ってきたハクセキレイが分布を拡大しているとすると,北からのハクセキレイとこのハクセキレイは別の個体群なのでしょうか,それとも,サハリン経由,朝鮮半島経由と日本への入り口が違うだけで,同じ大陸の個体群なのでしょうか? 違う個体群だとすると形態や習性に違いがあるのでしょうか? これらのハクセキレイたちはやがて中国地方で出会いそうですが,何事もなく同化が進むのか,それとも住み分け的なことが起きるのでしょうか? いろいろ想像が膨らみますね。今のうちに九州とそれ以外の地域のハクセキレイの形態や行動など,情報収集しておきたいなと思いました。