もう夏も終わりです。今年は夏山には行きましたか? 山の上から街を見下ろすとちょっと大きな気持ちになれます。「下々の者たちは豊かに暮らせているだろうか?」慈悲深い領主にでもなった気分。そういう気分の問題というわけではないですが,標高の高い場所で繁殖しているタヒバリは,侵入者に対して大らかに (?) 接しているという論文があったので紹介したいと思います。
この研究をしたのはスペインのBastianelliさんたちです。「ブエルタ」を見ている人には馴染み深いスペイン北西部のカンタブリア山脈でタヒバリのなわばり防衛行動を調べました。タヒバリの繁殖分布の下限にあたる標高1,000m位のところと,上限にあたる2,000m位のところで,タヒバリの侵入者に対する反応とさえずりの特性について比較したのです。
侵入者に対する反応は野外実験により調べました。タヒバリのなわばりが安定する繁殖期の最盛期に,タヒバリのさえずりを再生するプレイバック実験をして,なわばりの主がどれくらい近づいてくるかを調べました。すると,低標高の鳥の方がなわばり防衛に積極的で,プレイバックに強く反応することがわかりました。また,さえずりは,低標高の鳥の方が周波数帯の幅の広い声だということもわかりました。
なぜ,高標高のタヒバリはなわばり防衛をそれほど積極的にしないのでしょうか。Bastianelliさんたちは,高標高の場所では雪解けが遅いために,タヒバリの繁殖開始も遅くなり,かつ一斉に繁殖をはじめることがその原因の1つと考えています。一斉に繁殖を開始すると,雄たちは自分の繁殖に手いっぱいで,つがい相手以外の雌にちょっかいを出す余裕も機会もなくなります。そのため,つがい相手以外の雌と交尾して,外に子をつくる確率が減ることが知られています(たとえばWestneat 1990)。逆に言えば,ほかの雄に,自分のつがい相手がそうされる危険も低いため,標高の高いところでは,低いところほど,侵入者に対する防衛を激しくしないのではないかと考えています。
でも,標高の高いところでは,好適な繁殖地は少なく,なわばりを確保するのは大変なようにも思います。今回の研究では,なわばりが安定している時期に実験をしていますが,その時期よりも早い,なわばりを構える時期に実験をしたら違う結果がでるかもしれません。なわばり防衛の意味は時期によって変わってきます。防衛の激しさの低標高と高標高の差を季節的に見てみたら,その違いの意味もさらに見えてくるかもしれないですね。