バードリサーチニュース

気候変動の影響? 越冬分布を拡げるアカハラ,オオバン…

バードリサーチニュース2018年4月: 2 【活動報告】
著者:植田睦之

図1 環境庁が1984-85年に実施した越冬分布調査の情報のあるメッシュと,今回情報の集まっているメッシュの比較

 全国鳥類越冬分布調査にご協力いただきありがとうございます。全国鳥類繁殖分布調査の派生調査として昨年から調査を開始し,これまでに,273名の方に情報収集にご協力いただきました。また野鳥データベース「フィールドノート」に入力いただいた223名の皆さんのデータと文献データも利用して,各種鳥類の越冬分布を描くことができました。特に日本海側や北の地域など情報がない地域も多く(図1),まだまだ穴だらけの分布図ではありますが,それでも,ヒクイナやリュウキュウサンショウクイが九州から東に分布を拡大していること,おそらく積雪の減少や冬の寒さの緩和でアカハラやオオジュリン,オオバンなどが日本海側や北の地域で分布を拡大していることなどが見えてきました。また,関東地方ではアカゲラが平野部へと分布を拡大するなど,ローカルな分布の変化も見えてきています。
 

西から拡がるヒクイナの越冬分布

図2 ヒクイナの越冬分布の1980年代と今回の比較.南西諸島は調査が進んでいないため情報がない。

 リュウキュウサンショウクイの分布が拡がっていることはこれまでも何度かニュースレターでご報告してきました(三上 2016)。同様にヒクイナの分布も拡大していることが今回の調査でわかりました。ヒクイナは茂みに隠れていて見つけにくい鳥です。鳴き声もクイナと勘違いされていたりして,それだけに1980年代の分布がどれくらい正しいのか心配なところもありますが,今後の動向に注目していきたいと思います。

 

積雪や温暖化の影響?

図3 アカハラの越冬分布の1980年代と今回の比較

 これまで日本海側や北の地域などで越冬していなかった鳥の分布の拡大がいくつかの種で見られました。例えばアカハラ。繁殖期の分布は縮小していることがわかっているのですが(全国鳥類繁殖分布調査 2016-17),越冬分布は北へ広がっているようです。アカハラは太平洋側で越冬する種で,1980年代は日本海側で記録があるのは福井県程度でしたが,今回はすでに富山や新潟などからも記録が寄せられています(図3)。同様にオオジュリンも1980年代には記録されていない秋田や青森からも記録が寄せられています。今回の調査では日本海側の情報が少ないので,これから記録は続々と増えていくものと思われます。日本海側での記録をお持ちの方はぜひ提供お願いします。

図4 オオバンの越冬分布の1980年代と今回の比較

 また,水鳥については,ガン類の越冬地が北上していることが有名で,今回の調査でもそれが裏付けられていますが,オオバンの分布北上も顕著でした(図4)。1980年代の北限は宮城県でしたが,今回は,秋田,青森,北海道南部でも記録されています。オオバンは全国的に個体数が増えている鳥なので,それに伴い分布を拡大していると考えられ,分布の北上にはこの増加の影響も含まれていると思います。しかし積雪の減少に伴い採食条件が良好になっていること,温暖化により水域の凍結していない場所が増え,安全な休息場所ができたことも大きく影響していると思われます。

 

アカゲラの関東での越冬分布拡大

図5 アカゲラの関東での平地への越冬分布拡大

 ローカルな分布拡大もあります。おそらくほかにもたくさんあるのだと思いますが,関東在住者がパッと気付くことができるのは関東での分布拡大。アカゲラです。アオゲラの勢力圏の関東では比較的標高の高い山の鳥というイメージのあるアカゲラですが,低山でも見られるようになり,冬期では平地の林でも記録されるようになっています(図5)。ここ数年はぼくのフィールドの多摩地域の雑木林でも冬期は割と普通に見られるようになっています。将来は繁殖分布も変わってくるのでしょうか?
 皆さんの地域でも越冬分布が変わっている鳥がいるでしょうか? 全種の越冬分布を
http://www.bird-atlas.jp/resultwin.html
で公開していますので,もし気づくことがあれば,教えてください。

越冬期の観察記録をお知らせ下さい

 繁殖分布調査は決まったコースの現地調査を中心に実施していますが,越冬分布調査は,皆さんの普段の観察記録から分布図を描いています。皆さんの記録をぜひお寄せください。野鳥記録データベース「フィールドノート」(さえずりナビでの入力も可能です)をお使いいただくか,あるいは越冬分布調査専用の情報送信フォーム(http://www.bird-atlas.jp/wba.html)からご報告ください。独自にエクセルなどで入力されているようでしたら,場所(緯度経度か住所)と日付があれば,データにできるので,そういったものがあれば,メールください。http://www.bird-atlas.jp/data/wba.xlsのエクセルフォームを使っていただくのも歓迎です。ご協力よろしくお願いいたします。 

 

対象種 留鳥,漂鳥,冬鳥など,越冬するすべての鳥類
対象期間 2016-2020年の越冬期
送っていただく情報 観察場所,種,そしてその鳥が例年越冬している鳥なのか,稀に越冬しているのか
といった越冬状況(不明でもOK)。留鳥も含めた全種の情報をお送りください。
情報の送信方法

Excelファイルで送っていただく方法とWEBフォームから送る方法があります。
 WEB: http://www.bird-atlas.jp/wba.html
 Excel: http://www.bird-atlas.jp/data/wba.xls

探鳥会の情報など,独自フォーマットの情報でも場所(緯度経度か住所)と日付があれば,データにできるので,そういったものがあれば,メールください(送付先:bbs@bird-research.jp)