2016年にスタートした全国鳥類繁殖分布調査。2年目を終え,約半分のコースを調査することができました。
1年目の調査からは大型の魚食性の鳥類の分布拡大と小型の魚食性鳥類の縮小,そして外来鳥の分布拡大と夏鳥の復活が見えてきたことを過去のニュースでご報告しました(2016年8月号)。その傾向は2年目も変わりありませんでしたが,新たに湿地や河原の鳥が減っていることや,それらに当てはまらないハシブトガラ,ビンズイ,アカハラといった鳥の減少も見えてきました。そしてレッドリスト種の中ではコアジサシの減少が顕著なことも見えてきました。
減少率・増加率上位メンバー
去年と今年で調査できた1160コースのうち,1990年代からほぼルートを変更せずに調査できたコースの記録をもとに,過去からの鳥の増減をみてみました。
50コース以上で記録できた鳥について,増減の上位10種を見てみると,減少が顕著な種は,小型の魚を食べる鳥(ゴイサギ,ヤマセミなど),湿地や河原などへの依存の強い鳥(コヨシキリ,イソシギなど)といった共通点がありました(表1)。そして,増加が顕著な種は,外来鳥(ガビチョウ,ソウシチョウ),大型の魚食性の鳥(カワウ,ミサゴなど),森林性の鳥(クロジ,アオバトなど),夏鳥(サンショウクイ,サンコウチョウ)といった共通点がありました。
減少した種については,おそらく,小型の魚が減っていたり,湿地や河原の環境が悪くなっていたりといった変化が減少をもたらしているのだと思われます。しかし,減少した鳥にはハシブトガラ,ビンズイ,アカハラといったこの共通点に当てはまらない種もいました。現時点ではなぜ減少しているのかわかりませんが,これからさらに情報を蓄積していき,見られなくなった場所と,現在も見られている場所のあいだの共通点や相違点から原因を探っていきたいと思います。
レッドリスト種の状況
レッドリストに選定されているような種は分布範囲が狭いため,まだ現段階では動向を評価できない種が多いのですが,シマアオジ,チゴモズ,アカモズといった種は,1990年代に記録できた場所で今回は記録できておらず,減少が心配されます。
記録コース数がある程度多い種の中では,コアジサシの減少が顕著でした(図1)。今回の調査で小型の魚食性の鳥の減少が示されているので,コアジサシも同様に減少している可能性があり注意が必要です。
一方、増加している種もいました。ミサゴとサンショウクイは,前述の増加率ベスト10に入るほど増加していました。これらの鳥たちは絶滅の危険性が下がっていると言えるのかもしれません。
減少の顕著な鳥のレッドリストへの追加そして,絶滅の危険性が低くなった鳥についてのランクの見直しなど,レッドリストの選定にも貢献していきたいと思います。
本格化する詳細調査
全国調査では20㎞メッシュで分布図を描きます。でも,このスケールでは1つのメッシュにいろいろな環境が入ってしまうので,もう少し細かいスケールの調査ができたら,さらに鳥の分布変化やその理由について明らかにできることが多そうです。そこで,より詳細な分布調査を茨城県と東京都で始めました。
・茨城県繁殖分布調査
茨城県では今年から5㎞メッシュの調査を始めます。現在,調査コースの登録を開始したところです。茨城県在住の方,近隣県在住の方はぜひ登録ページをご覧いただき,調査できそうなコースがあれば,調査登録をお願いします。
http://www.bird-atlas.jp/ibaraki.html
・東京都繁殖分布調査
東京都では,昨年から調査を行なっています。こちらは1㎞メッシュでできるだけ多くのメッシュを調査しようと企画しており,無数のメッシュを攻略しなければなりません。東京在住,在勤の方,自宅や職場のまわりのメッシュでの調査をぜひお願いします。
http://www.bird-atlas.jp/tokyo/
・その他の地域
全国調査も,まだ,調査担当者が決まっていないコースがたくさんあります。また,すでに調査担当者が決まっている地域でも,そこに生息しているにもかかわらず,現地調査で記録できなかった鳥もいるので,アンケート調査でそれを補っていく必要があります。 まだ調査参加登録されていない方は,全国鳥類繁殖分布調査ホームページの「参加者登録」のページから,ぜひ参加登録してください。
https://db3.bird-research.jp/~birdatlas/volunteer.html