冬の北海道北部の苫前町。日本海に面したこの場所は西からの季節風が吹き荒れます。
気温は海に面しているだけにそれほど寒くなく,マイナス5度程度。風がなければダウンの上下で完全武装したぼくらにとっては,快適なくらいの温度です。しかし風が吹くとそれも一変。地吹雪で地面の雪や氷が吹き上げられ,顔は痛いほど。せっかく昼食に「セイコーマート」から暖かいカツ丼を買ってきてもらっても,食べ終わる前に凍ってしまいます。
すでにニュースレターでも何度か紹介していますが,私たちは,ここ苫前で,オジロワシとオオワシのバードストライクについての調査を実施してきました。調査に行って,風のない日にあたると,最初は「快適でいいな」と思うのですが,すぐに「早く季節風が吹かないかな」と思ってしまいます。
「あんた,Mだね」そう思いましたよね。
違います。季節風が吹くとワシがよく飛ぶからです。
これまで行なわれた研究から,海岸の崖に季節風があたってできる上昇流を使ってオジロワシやオオワシが飛行するため,季節風が吹くとワシがよく飛ぶのだと考えられてきました(植田・福田 2010)。しかし,季節風でどの程度の上昇流が生じるのか,そしてそれをどのようにワシが利用しているのかは,よくわかっていませんでした。そのことをセオドライトという三次元でワシの移動を追跡できる機器を使った飛行経路追跡と気流シミュレーションによって検討したのがこの論文です。
島田泰夫・井上 実・植田睦之(2017)断崖における強制上昇流とオジロワシの飛翔特性.Bird Research 13: A29-A40.
調査地の地形と季節風の吹く風向を基に,風の強さを変えて気流シミュレーションをしてみました。すると海岸の崖付近に発生する上昇流は,風速が大きくなるにつれて強くなり,そして海側へと拡がっていくことがわかりました。
風が弱い時(3m/s)は,オジロワシは崖付近をほとんど飛びません。シミュレーションでも断崖付近で発生する上昇流は微弱なので,ワシにとっての利用価値が小さいのだと考えられます。
少し風が強くなると(6m/s),ワシが崖付近を飛翔することが観察されるようになります。しかし,すぐに崖を離れていってしまう事も多く,上昇流の利用価値はまだそれほど高くないのかもしれません。そしてワシが崖のそばを飛ぶ場合は崖のかなり近くを飛んでいました。この風速では,上昇流は崖の直近でしか発達しないため,崖の近くを飛ぶのだと考えられます。
そして,さらに風が強くなると(9m/s),上昇流は海方向へと発達しました。ワシは崖付近を頻繁に飛翔するようになり,飛翔空間も海側へと広がり,その飛翔位置はシミュレーションによる上昇流の発生状況と一致していました。
調査地には海岸沿いに3基の風車が並んでいます。植田ほか(2015)により,ワシは風車を海側に避けて飛んでいることが明らかにされています。風が弱く崖近くにしか上昇流が発生しないときは,やむを得ず,風車付近を飛びますが,崖から離れた海上にも上昇流が発達するようになると,ワシは十分に風車を避けて飛ぶようになるのかもしれませんね。
論文の閲覧 http://doi.org/10.11211/birdresearch.13.A29
引用文献
植田睦之・福田佳弘(2010)オジロワシおよびオオワシの海岸飛翔頻度と気象状況の関係.Bird Research 6: S21-S26.
植田睦之・島田泰夫・福田佳弘・三上かつら(2015)オジロワシとオオワシは風車を避けて飛ぶ? Strix 31: 67-75.