バードリサーチニュース

2016-17年冬、野鳥に広まった鳥インフルエンザ

バードリサーチニュース2017年6月: 4 【その他】
著者:神山和夫
伊豆沼石灰S

写真1. 宮城県の伊豆沼・内沼で給餌場の出入り口に撒かれた石灰。糞の付着したタイヤを石灰で消毒する。(撮影 嶋田哲郎)

 2016-17年の冬は、これまでになく野鳥に鳥インフルエンザ感染が広まりました。感染死した野鳥の多くはハクチョウ類でしたが、ウイルスに感染しても発症しないカモ類がウイルスを広めたと考えられています。さらに動物園の飼育鳥にも鳥インフルエンザが感染して、二か所の動物園が一時閉鎖されきましたが、こうした野鳥飼育施設での経験を今後の対策に活かしていく必要があるでしょう。 

 

高病原性鳥インフルエンザとは

 鳥インフルエンザは古くから野生のガンカモ類と共生してきたウイルスで、それが家禽(ニワトリやアヒル)に感染して突然変異を起こした結果、致死性が高まったものを高病原性鳥インフルエンザと呼んでいます。もともと野生のガンカモ類が持っていたウイルスは低病原性インフルエンザと呼ばれ、野生のカモ類の数%~十数%が感染していますが、宿主への害は低く、それだけが原因で死亡するような病気ではありません。他の鳥類に比べるとガンカモ類には高病原性インフルエンザにも一定の耐性があり、「不顕性感染」と言って鳥インフルエンザウイルスに感染しても病気の症状が出ない場合や、症状が出ても死ぬほどひどいことにはならない場合があります。高病原性鳥インフルエンザに感染しても比較的元気なガンカモが、養鶏場の糞尿などが流れ込んでいる池などでウイルスに感染したあとにも遠くまで移動して、ウイルスを各地に広めることになったと考えられます。

 なお、高病原性鳥インフルエンザは鳥が感染する病気で、日本では養鶏場に感染させないことを目的として対策が行われています。ニュースで大きく報道されるせいで人に危険があるように誤解されることがありますが、人への感染が起きるのは鳥インフルエンザに感染した家禽に濃密な接触があるような特殊な場合です。日本では1羽でも家禽が感染した養鶏場では全羽を殺処分するため、家禽から人へウイルスが感染する可能性は低く、ましてや野鳥から人に感染した事例は世界的にも見つかっていないので、野鳥を過度に警戒する必要はありません。

 

ウイルスに感染した養鶏場は比較的少なかった

 昨冬は12か所の養鶏場で家禽への感染が起こり、ニワトリ165万羽とアヒル2万羽が殺処分されました。殺処分された家禽の数さには驚きますが、2010-11年に24か所の養鶏場が感染して185万羽が殺処分されたことに比べると感染した養鶏場の数は少なく、鶏舎での防除対策が奏功しているようです。ちなみに農林水産省の畜産統計によれば、2014年度の食用ブロイラー出荷羽数は6億5千万羽、採卵のため飼育されている成鶏メスの数は1億3千羽ですから、昨冬に殺処分されたニワトリは飼育数の約0.2%ということになります。日本養鶏協会に話を聞いたところ、鳥インフルエンザで殺処分されたニワトリの数は鶏肉や卵の価格に影響するほどではなかったということです。殺処分されたニワトリの数が膨大なことに驚いて、日本の養鶏場にどれくらいのニワトリがいるのかを調べたのですが、鳥インフルエンザで殺処分されたニワトリの数よりも、むしろ私たちが日常的に殺して食べているニワトリの数に複雑な思いを感じました。

 

野鳥への感染死の6割はハクチョウ類

図1.鳥インフルエンザで死亡した野鳥の種と数

 一方の野鳥では、環境省が把握しているだけで、全国で211羽が感染死しました。死亡した野鳥(飼育個体を含む)の数を種別にまとめたグラフを図1に示します。上位5種はナベヅルを除いてすべてハクチョウ類で、全死亡個体の6割を占めています。ハクチョウ類は大型で、人の関心が高く、人口の多い場所の近くに生息地があることから、他の種に比べて死体が見つかりやすいでしょう。人が気づかない場所で他の種も数多く死んでいるのかもしれません。しかし、ハクチョウの大量死が起きた茨城県水戸市の千波湖や大塚池、それから兵庫県伊丹市の昆陽池では、同じ場所に生息している他の種には、ユリカモメを除いて、それほど多くの感染死が起きていないことを見ると、ハクチョウ類は高病原性鳥インフルエンザに対して抵抗力が弱いのではないかと思われます。ただし鳥インフルエンザウイルスの変異は早いため、将来流行するウイルスが昨冬は被害の少なかった種に対して猛威を振るう可能性はあります。

 

図2.鳥インフルエンザで死亡した野鳥が見つかった時期。同一地点でも新しい感染個体が見つかるたびに件数に加えている。

 次に、2016-17年に野鳥の感染死が起きた時期を図2に、感染死が見つかった地点を図3に示します。感染死はガンカモ類の飛来が本格化する11月上旬から始まり、12月にピークを迎え、徐々に減りながら3月まで続きました。感染場所は全国各地に広がっており、渡ってきたガンカモ類がウイルスを広めたと推測できます。ただし、ガンカモ類は鳥インフルエンザに感染しても、死亡しなければおよそ一ヶ月で完治して、ウイルスを他の鳥に感染させることがなくなります。越冬期を通して感染が続いたということは、ウイルスが次々と新たな鳥に感染して、感染力を持った鳥が常に存在していたからだと考えられそうです。おそらく、ニュースで報道される鳥インフルエンザが発生した湖沼の他にも、多くの場所でカモからカモへのウイルス感染が起きていたのでしょう。これは別に、一般の人にとって危険なことではありません。ただしウイルスを持ったガンカモ類は各地の湖沼に生息していて、さらにカモ類は夜間に農地や草地で採食していますから、養鶏場で働く人はそうした場所を歩いてカモの糞を踏みつけないよう注意が必要でしょう。

図3.鳥インフルエンザに感染した野鳥が見つかった地点(青丸)と感染が起きた養鶏場(橙色)。

動物園や公園の飼育鳥が死亡

 昨冬は動物園で感染死が起きたことも大きなニュースになりました。秋田市の大森山動物園では11月15日から23日にかけて、コクチョウ3羽とシロフクロウ2羽が死亡。名古屋市の東山動物園では11月29日から12月14日にかけて、コクチョウ3羽、シジュウカラガン3羽、マガモ1羽が死亡しました。両園とも感染拡大を防ぐために一定数の飼育鳥を殺処分せざるを得ませんでしたが、動物園は養鶏場と違って飼育個体の隔離ができるため、適切な対応で感染の広がりを防止することが可能です。東山動物園では鳥インフルエンザ発生時の対応マニュアルを作成中だということでで、今後他園で感染が起きたときに、昨冬の経験が活かされることを願います。

 

記事中で使用した野鳥への鳥インフルエンザの感染記録は環境省野生生物課から提供していただきました。政府が提供する鳥インフルエンザの情報は、以下のホームページで参照することができます。

環境省:http://www.env.go.jp/nature/dobutsu/bird_flu/

農林水産省:http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/tori/

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