2021年度の調査研究支援プロジェクトで支援した竹田山原楽さんたちの研究成果が論文として公表されました。1羽の追跡結果に基づいていますが、バンディングのデータなども活用して補強し、アオバズクの越冬地の環境など、示唆に富んだ成果と展望を含んでいます。論文紹介記事を寄稿していただきましたので、ぜひ。日本で繁殖する夏鳥たちの保全にとって大事な気づきが得られると思います。
高木憲太郎
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Takeda, Y., Tatani, M., Shiomi, K., & Hosoya, J. (2026). Case report: long-distance overwater migration of the Northern Boobook, Ninox japonica, revealed by year-round GPS tracking. Animal biotelemetry.
https://doi.org/10.1186/s40317-026-00469-x
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皆様、初めまして。東北大学で研究員をしております、竹田山原楽と申します。この度、バードリサーチ調査研究支援プロジェクトに端を発したアオバズクの渡り研究の成果が論文として公開されました。寄付を通じてご支援いただきましたバードリサーチ会員の皆様に本研究で得られた成果の概要をお伝えできれば幸いです。
研究の背景
渡り鳥は、遠く離れた目的地に移動する際、その経路に応じて様々な障壁に直面するリスクがあります。例えば水分補給ができない砂漠や、酸素の薄い高山など、渡りの障壁は地域によって様々で、近縁な鳥同士であっても地域が異なると移動戦略の最適解が異なる可能性があります(Dufour et al., 2026)。フクロウの仲間について、近年、その移動経路を明らかにする研究が世界的に広がりを見せています。しかしながら、これまでの研究では、大陸部での移動が記録されることがほとんどでした。一方で、四方を海で囲まれた日本で繁殖し東南アジアのスンダ列島周辺で越冬するアオバズクは、定期的に長距離の海上移動を行う可能性が示唆される種ですが、その渡り経路は長年の謎でした(図1)。そこで、私たちはGPS記録計を用いたアオバズクの移動経路追跡を実施しました。

図1.青森県沖のフェリー航路上で観察された渡り中のアオバズク(中村咲子氏提供)とその生息地。東アジアで繁殖し、東南アジアで冬を過ごすことが知られている。
分かったこと
① フクロウの常識を覆す:1,800kmにおよぶ世界最長の海上移動
アオバズクに2024∼2025年の一年間装着したGPS記録計1台を解析したところ、秋の渡りでは10月下旬に日本列島を南下したのち、鹿児島県佐多岬~フィリピン・ルソン島の間のフィリピン海上を1848kmにわたって昼夜を問わず飛行し続けていたことが分かりました(図2)。その後、11月下旬にインドネシア・カリマンタン島に到達し、そこで越冬しました。
春には、3月下旬にカリマンタン島を出発した後、海南島に到達するまで南シナ海上を1500km近く飛行しました。その後、中国大陸部を北上して東シナ海を渡り、4月下旬に前年と同一の繁殖地に帰還しました。

図2.今回追跡に成功した個体の1年間の移動経路。2024年秋に南下した際の渡り経路(青)と、2025年春に日本に戻ってきた時の渡り経路(オレンジ)を示す。(写真は細谷淳氏撮影)
② 追跡個体は伐採3年後の二次林で越冬した
越冬期間中の滞在地域について、追跡個体の分布と衛星写真を重ねると、この個体が油ヤシのプランテーションの中に残存した林を中心に生活していたことが分かりました(図3)。さらに、当該地域の衛星写真を過去に遡って解析・比較すると、この地域は1990年以降、原生林でもプランテーションでもない状態にあり、2021年に皆伐を受けましたが、2024年当時は3年間の遷移が進んだ二次林だったことがわかりました。

図3.越冬期の利用環境。2021年に伐採されたエリアが、3年後にアオバズクの越冬地として機能した。当該地域は1990年以降、原生林は残存していなかった一方で、プランテーションとして利用されていたわけでもないことが衛星写真の解析から明らかになっている。筆者は、木材の確保を目的として低頻度での伐採が行われる二次林だったのではないかと考えている。
考察
研究の位置づけ:歴史的データとの照合
1961年から2023年にかけて実施された鳥類標識調査における、アオバズクの放鳥記録と再回収記録を整理すると、63年間で放鳥された747羽のうち、1000km以上離れた場所で再回収された例はいずれもフィリピンのルソン島が関与していました(計4例:「日本国内→ルソン島」の移動が3例、「ルソン島→北朝鮮」の移動が1例)。このことは、今回得られた1個体のGPSデータが、過去の標識調査の結果とも合致する信頼性の高いものであることを意味します。
今回のGPSデータで特筆すべきは、春の北上ルートが秋の南下ルートと大きく異なる点です。なぜ春に中国大陸部を経由するのか、今のところ有力な要因は明らかになっていません。しかしながら、キビタキも同様の渡り経路を利用する点から(Yamaura et al., 2025)、アオバズクに限らず日本で繁殖し東南アジアへ渡る鳥類に共通する、気象条件や栄養補給を考慮した生存戦略が存在する可能性も考えられます。
海上移動の最長記録とそのメカニズム
今回の追跡個体が渡りの道中で行った長距離の海上移動は、フクロウ類の従来のイメージを書き換えるものだと思います。その経路が正確に記録されたフクロウ類による海上移動としては、過去にコミミズクによる850km程度の偶発的な例(Johnson et al., 2017; Calladine et al., 2024)が知られていましたが、それ以上の海上移動は世界的に見ても例がありませんでした。今回の結果からは、アオバズクが1500~1800kmにわたる海上移動を定期的に繰り返している可能性が示唆されます。アオバズクはフクロウ類のなかでも特に細長い翼を持ちますが、こうした翼形態は翼面荷重を下げエネルギー効率の良い飛行を可能にします。また、今回の追跡個体は2024年秋の海上移動において台風22号による追い風の中を飛行していた可能性が高く、気象条件を味方につけて長距離移動を実現する逞しさも見て取れます。
越冬地の保全に向けた二次林の有用性
アオバズクの越冬地については、2つの発見が得られたと考えています。ひとつは、油ヤシのプランテーションは、アオバズクの越冬地に適さないということです。インドネシアは世界随一のパーム油生産国であり、今回追跡個体の越冬地となったカリマンタン島も2010年代に「島全体の約10%が油ヤシのプランテーションとして利用されている」という推定がなされています。米国農務省の調べ(https://www.fas.usda.gov/data/production/4243000)では、直近10年間にもインドネシアにおけるパーム油の生産量は1年あたり3%の増加が続いており、こうした開発は現地の野生動物だけでなくアオバズクにとっても脅威となる可能性が高いと考えられます。これに対し、もうひとつの発見は、若い二次林がアオバズクの越冬地になり得るということです。このことから、伐採によって原生林が失われた地域であっても、小規模な二次林を再生させることでアオバズクがひと冬を越せるだけの餌資源が比較的短期間に復活する可能性が示唆されます。もしそうだとすれば、「原生林 vs. プランテーション開発」という二項対立に囚われず、「二次林の再生・維持」という保全施策を検討する余地が生じるのではないでしょうか。こうした視点はアオバズク1種に限らず、東南アジアの多くの動物群にも恩恵をもたらす可能性があります。鳥類や糞虫を対象とした過去の研究では、伐採林でも原生林で見られる種の75%以上が残存する一方、油ヤシ農園への転換ははるかに大きな生物多様性損失をもたらすことが示唆されており(Edwards et al., 2011)、今回追跡個体が示した越冬期の分布も、こうした伐採林が持つ生物多様性の高さの一端を垣間見ているのかもしれません。ただし、チメドリ科等の林床付近に生息し移動性が高くない鳥類においては、原生林と比較した際にこうした二次林において遺伝的多様性の喪失が進むことを示唆する研究もあります(Messina et al., 2026)。したがって、原生林から二次林への置換を手放しに推奨できないことも確かで、引き続き慎重な議論が必要です。
展望
今回の成果は、洋上風力発電施設・プランテーション農業・油ヤシの消費といった社会的・経済的活動の拡大と鳥類を含む野生動植物の保全・共生とのバランスを考える上で、非常に重要な知見になります。特に油ヤシを原料にして製造されるパーム油は、日本の食生活にも深く関係しています。自分自身も、身近な野鳥と日々の消費活動のつながりについて、今後関心を深めていきたいと考えています。
鳥類の渡りに関する研究は、日本周辺でも今後さらに活発になることが期待されます。アオバズクには沖縄~台湾に分布する定住性の集団、いわゆる「リュウキュウアオバズク」が知られています。沖縄周辺地域に分布する定住性集団を九州以北の渡り性集団が飛び越えるような関係を示す種(あるいは近縁種)というのは、アオバズクに限らず、キビタキ・ツミなど複数挙げられます。将来的には、アオバズクを対象とした同様の調査によって複数個体の渡り経路が解明されることを期待するとともに、リュウキュウアオバズクとの比較を通じて、「同一種内で渡りの行動が多様化する」という現象を理解する研究の展開を期待しています。様々な渡り鳥の移動経路に関する研究が進むことで、移動経路と地形条件・気象条件との関係性や、そもそも渡り鳥がなぜ繁殖期と越冬期を異なる地域で過ごすのかについて十分な説明が可能になるのではないかと考えています。
引用文献
Calladine, J., Hallgrimsson, G., T., Morrison, N., Southall, C., Gunnarsson, H., Jubete, F., Sergio, F., Mougeot, F. (2024). Remote tracking unveils intercontinental movements of nomadic Short‐eared Owls (Asio flammeus) with implications for resource tracking by irruptive specialist predators. Ibis, 166(3), 896–908. https://doi.org/10.1111/ibi.13304
Dufour, P., Nussbaumer, R., Briedis, M., Bocher, P., Conway, G., Coulomb, Y., Delacroix, R., Dagonet, T., de Franceschi, C., de Grissac, S., Jeannin, B., Monchatre, R., Rey, F., Tillo, S., Champagnon, J., Duriez, O., Jiguet, F. (2026). Ecological barrier crossing strategies in small migratory birds depend on wing morphology and plumage color. iScience, 29, 114466. https://doi.org/10.1016/j.isci.2025.114466
Edwards, D., P., Larsen, T., H., Docherty, T., D., Ansell, F., A., Hsu, W., W., Derhé, M., A., Hamer, K., C., Wilcove., D., S. 2011. Degraded lands worth protecting: the biological importance of Southeast Asia’s repeatedly logged forests. Proc. R. Soc. B, 278, 82–90. https://doi.org/10.1098/rspb.2010.1062
Messina, S., Edwards, D., P., Tomassi, S., Benedick, S., Sin, Y., C., K., Rheindt, F., E., Costantini, D. 2026. Silent erosion: impact of forest logging on genetic diversity in tropical understorey birds. Genome Biol. Evol., evag139. https://doi.org/10.1093/gbe/evag139
Yamaura, Y., Schmaljohann, H., Unno, A., Kawamura, K., Kitazawa, M., Sato, S., Aoki, D., Okahisa, Y., Senzaki, M. (2026). Loop vs. same route migrations of two songbird species between Japan and Southeast Asia. J Ornithol., 167,1–13. https://doi.org/10.1007/s10336-025-02297-x
2021年度の調査研究プラン
2021-008 アオバズクの渡り戦略における島嶼の重要性の検証
竹田山原楽1,2・細谷淳2・塩見こずえ1・田谷昌仁1(1.東北大学生命科学研究科 2.日本鳥類標識協会)