季節前線ウオッチの2015〜2025年の11年分のデータを用いて、対象種の初鳴き・初認時期の変化を解析しました。
実際の初認日は偶発的な観察の影響を受けやすいため、本報告では初認報告の集中時期を表す指標として「5日間ピーク日」を用いました。解析には、各観察日を1月1日を1とする年通日(DOY: Day of Year)に換算した値を用いました。各種・各年・各季節について、連続する5日間の初認・初鳴き報告数合計を算出し、5日間合計値が最大となる期間をピーク期間としました。その中心となる年通日をピーク日として定義しました。なお、最大値を示す期間が複数存在する場合は、最初と最後のピーク年通日の平均値を用いました。
本研究では、この5日間ピーク日を用いて年ごとの変化を解析しました。
2025年シーズンの初認時期
まず、2015〜2024年の基準として各年について算出した5日間ピーク日を平均して算出し、2025年との差を比較した(図1)。図中では、春の対象種を緑色、秋の対象種を橙色で示しています。なお、ミヤマガラス、アオバズク、カルガモ(図1の淡色表示)は年間の報告数が比較的少なく、ピーク日の推定精度が十分ではない可能性があるため、解釈には注意が必要です。
解析の結果、2025年のピークは種によって大きな変化が見られました。特に、メジロ(春,+15.7日)、モズ(秋,+11.3日)は平均より遅く一方、ツグミ(秋,-11日)は平均より早くなっており、2015〜2024年平均から±10日以上の変化が確認されました(図1)。ここで正の値は平均より遅いこと、負の値は平均より早いことを示しています。
初認ピークは毎年のように早まったり遅くなったりしているのでしょうか。2025年に変化が大きかった種のうち、特に報告件数が多いモズとツグミについて、最近11年の変化を調べてみました。
2015~2025年の初認ピークの年変化
モズとツグミについて毎年の初認ピークの変化を調べました。初認ピークは毎年早まったり、遅くな
ったりしており、各年と変化の傾向は両種で一致していませんでした。
- モズの年変化
モズは、秋から冬にかけては「高鳴き」と呼ばれる特徴的な縄張り行動を行います。木のてっぺんなど目立つ場所で鳴く姿は、秋の風景として印象に残っている人も多いかもしれません。
今回の解析では、2015〜2024年平均と比較して、2025年の高鳴きピークが約11.3日遅くなっていました(図2)。
【図の見方】
点は初認記録です。バイオリン図の幅が広い時期ほど、観察報告が集中していたことを示します。ひし形は各年のピーク日、点線は2015〜2024年の平均的なピーク日です。緑色は2015〜2024年、赤色は2025年の記録を表しています。
- ツグミの年変化
ツグミは、シベリア方面から日本へ渡来し、秋から春にかけて越冬する代表的な冬鳥です。
今回の解析では、2025年の秋季ピーク日は2015〜2024年平均より約11日早いことが確認されました(図3)。この傾向は、初認報告の年別分布を示したバイオリン図とピークの両方から確認されました。
年によるモズとツグミ初認ピークの変化方向は一致していないのは、両種に影響する要因が違う からでしょうか。続いて地域別の記録を使って、さらに詳しく分析してみました。
地域別の報告数
季節前線ウオッチのデータは市民参加型調査であり、年ごとに地域ごとの報告数が偏る可能性があります。そのため、全国で見られたピーク変化が鳥そのものの変化を反映しているのか、それとも報告地域の変化の影響を受けているのかを確認するため、各年の報告の地域構成と地域別ピーク変化を解析しました。
各年の地域構成を解析した結果、全体として関東甲信地方からの報告割合が大きい傾向が見られました(図4)。
さらに、地域別に2025年のピーク日偏差を比較したところ、モズでは関東甲信・近畿の両地域でピークが平年より遅くなり、ツグミでは関東甲信地域で平年より早まる傾向が見られました(図5)。これらの傾向は全国データから得られた結果(図1)とも一致しており、「今年のモズは遅い」「今年のツグミは早い」という変化が、全国レベルだけでなく地域レベルでも確認されたことを示しています。
モズは気温が高いと遅くなり、ツグミは気温と無関係
ここまでの解析では、モズとツグミの初鳴き・初認ピーク日の変化が確認されました。では、その違いを生み出している要因は何なのでしょうか。そこで次に、地域ごとの気温偏差と観察時期との関係を解析しました。
地域別に2025年のピーク日偏差(図5)を比較した結果、報告が少ない地域によっては利用可能な年数が少なく(図5, 表1)、気温との関係を統計的に評価するには不安定となる場合があることが分かりました。特にピーク日は5日単位集計に基づく計算値であるため、十分な報告数や継続年数が確保されていない地域では、年ごとの変動の影響を受けやすいと考えられます。
そこで、9~12月の報告数の中央日を指標にした解析を行いました。観察日の中央値(q50)は観察時期分布の中心を示す指標であり、年ごとの記録数の変動や局所的なピークの影響を受けにくいため、気温との関係を検討する際の補助指標として用いました。
その結果、モズでは関東甲信地方の気温偏差と観察日の中央値との間に有意な正の関係が確認されました(表1)。関東甲信地方の気温が1℃上昇すると、観察日の中央値は約6日遅くなる傾向が見られました(R² = 0.37, p = 0.047)。一方、ピーク日についても同様に遅延傾向は見られたものの、統計的に明瞭な関係は確認されませんでした。これは、気温変化が観察の最盛期そのものよりも、観察時期分布全体の前後移動として現れていることを示しています。
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表1. モズ(秋冬)における地域気温偏差と観察時期の関係 |
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指標 |
地域 |
気温が1℃高い年の変化 |
R² |
p値 |
解析年数 |
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観察日の中央値(q50) |
関東甲信 |
約6日遅い |
0.37 |
0.047 |
11 |
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観察日の中央値(q50) |
近畿 |
約6日遅い |
0.13 |
0.28 |
11 |
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ピーク |
関東甲信 |
約5日遅い |
0.13 |
0.283 |
11 |
|
ピーク |
近畿 |
約18日遅い |
0.73 |
0.064 |
5 |
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R²は気温偏差によって説明できる変動割合を示します。 |
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先行研究により、繁殖地に近い場所で越冬する短距離移動性の鳥類ほど、地域の気候変化の影響を受けやすいことが指摘されています。今回、関東甲信では気温偏差とモズの出現時期との間に有意な関係がみられ、暖かい年ほど観察時期全体が後方へ移動する傾向が確認されました。これは単年度のピーク変動ではなく、11年間を通しての変化として現れている点で重要であり、関東甲信におけるモズの秋冬期の出現時期が地域の気候条件の影響を受けていることを示しています。一方、近畿では有意な関係は確認されず、同じモズであっても地域によって気温との関係性が異なることが示されました。
一方、ツグミでは地域気温偏差と観察時期との間に明瞭な関係は確認されませんでした(表2)。ピーク日および観察日中央値のいずれについても有意な相関は見られず、地域気温だけでは2025年に見られた観察時期の変化を十分に説明できませんでした。
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表2. ツグミ(秋冬)における関東甲信の気温偏差と観察時期の関係 |
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指標 |
地域 |
気温が1℃高い年の変化 |
R² |
p値 |
解析年数 |
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観察日の中央値(q50) |
関東甲信 |
約3日早い |
0.07 |
0.418 |
11 |
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ピーク |
関東甲信 |
約2日早い |
0.02 |
0.647 |
11 |
ツグミはシベリア方面から渡来する長距離移動性の冬鳥であり、モズのような短距離移動性の種とは異なり、日本国内の地域気温よりも、渡り経路上や繁殖地を含む広域的な環境条件の影響を受けている可能性があります。また、ツグミの移動や越冬分布には、気温だけでなく、果実資源の利用状況なども影響していると考えられています。今回確認された観察時期の経年変化については、地域気温のみでは説明できず、複数の環境要因が関与している可能性が示唆されました。ツグミの秋季移動や越冬分布の変化については、今後さらに詳細な解析が必要です。
まとめ
今回の解析では、季節前線ウオッチの長期データを用いることで、対象種の季節変化を実際に捉えられることが分かってきました。特に2025年は、モズやツグミで大きなピーク変化が確認され、さらに地域別解析を行うことで、地域ごとの違いや気温との関係も見えてきました。
このような解析が可能になった背景には、長年にわたって全国から観察報告が積み重ねられてきたことです。特に今回のデータでは、関東甲信地方から多くの報告が集まっており、その蓄積によって地域別解析や気温との比較まで行うことができました。日々観察を続け、記録を投稿してくださっているみなさんに感謝します。
一方で今回の解析からは、地域によってデータ量に大きな差があり、十分な報告数がないためにピーク日を安定して算出できない地域も多いことが分かりました。つまり、現在見えている季節変化は、日本全体の傾向を示している可能性がある一方で、観察報告が多く集まっている地域の影響も受けています。
鳥たちの季節変化を全国規模でより正確に理解するためには、これまで以上にさまざまな地域から継続的な観察記録が集まることが重要です。「今年は少し遅い気がする」「いつもより早く見た気がする」――そんな日々の小さな気づきの積み重ねが、10年後、20年後の大きな変化を読み解く貴重な手がかりになります。
季節前線ウオッチは、みなさん一人ひとりの観察によって支えられています。ぜひ、これからも観察報告へのご協力をお願いいたします。
参考文献
Knudsen, E., et al. (2011). Challenging claims in the study of migratory birds and climate change. Biological Reviews, 86(4), 928–946.
手井修三 (2018) 石川県金沢市西部におけるモズ類の個体数の経年変化 - 1990 年代と2010 年代の比較-. 石川県立自然史資料館研究報告, 8: 7-19.
松田道生(2008)『日本の野鳥図鑑』ナツメ社、p.39.





