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研究誌新着論文:本州でエゾセンニュウ繁殖の可能性、13年間のライブ音配信聞き取りに基づく森林性鳥類の変動、秋季渡来期のコガモ個体数と水位の関係

バードリサーチニュース 2024年11月: 3 【研究誌】
著者:植村慎吾・守屋年史

バードリサーチ誌に3つの論文が掲載されました。

細谷淳・田谷昌仁・竹田山原楽・佐藤恭大・佐藤文男(2024)本州下北半島におけるエゾセンニュウの繁殖について ~繁殖の可能性が限りなく高い地域の発見~ .
Bird Research 20: A41-A53
論文の閲覧:https://doi.org/10.11211/birdresearch.20.A41

エゾセンニュウは、サハリン、千島列島、北海道でのみ繁殖することが知られていますが、本州での繁殖は今まで報告されていません。細谷さんらは、青森県下北半島の右側に突き出している尻屋崎の周辺で、ラインセンサスとIC レコーダーによる定点録音を行い、繁殖期である6 月前半から 8 月後半にかけて複数羽がさえずっていることを確認しました。さらに、さえずりの音声解析と分子系統解析を行い、これらが亜種エゾセンニュウ Locustella fasciolata amnicola であることを明らかにしました。

 

秩父演習林に設置されている鉄塔上ステレオマイク

植田睦之・黒沢令子・斎藤馨(2024)ライブ音配信の聞き取りに基づく北海道と本州中部4地点の森林性鳥類の13年間の変動.
Bird Research 20: A55-A62
論文の閲覧:https://doi.org/10.11211/birdresearch.20.A55

2012 年から 2024 年にかけての 4-6 月の 3 か月間、北海道富良野、埼玉県秩父、山梨県山中湖、長野県志賀高原の森林から配信されるライブ音を聞き取ることで、鳥類の発声行動の記録と鳥類相の変化を記述しました。各地点での増加した種、減少した種のほか、群集気温指数の変化を記述しています。また、近年、鳴き声の AI 学習が国内外で進められており、こうした長期高頻度で取得した聞き取りデータはその検証にも有用と考えられるので、データを公開しました。

 

上出貴士(2024)和歌山県の河川中流域における秋季渡来期のコガモの個体数と水位の関係.
Bird Research 20: A63-A70 
論文の閲覧:https://doi.org/10.11211/birdresearch.20.A63

和歌山県の河川中流域において、秋季渡来期におけるコガモの個体数,降雨および水位の関係を検討し、水位がコガモの個体数におよぼす影響について考察した論文です。 2014-2020 年の 9-12 月、毎朝 7-8 時に調査地でラインセンサスを行って個体数を計測し、計757 日分のデータを得ました。このデータから、降雨によって一定以上の水位上昇があった場合、水位の上昇するとその場所を採餌場所として使うコガモが個体数の減少するということが示唆されました。コガモは特に水深が浅い場所で採餌するカモで、雨などによって水深が変化する影響を強く受けるようです。