全国鳥類繁殖分布調査によると、ツバメとアマツバメの仲間は多くの種が減少傾向にあり、共通の食物である飛翔性昆虫の減少が疑われています。しかし実際にどんな昆虫を食べているかはあまり分かっていません。少数例の観察ですが、ヒメアマツバメのフンに含まれる昆虫の破片を調べたので、それを報告したいと思います。
ヒメアマツバメは比較的最近になって日本で見られるようになった種です。1960年代から関東以西の太平洋岸で見つかるようになり、現在は関東から九州までの太平洋岸で留鳥として繁殖しています。南西諸島では一部留鳥もいるようですが、大部分は渡り時期に見られる旅鳥のようです。海外では中国南部と東南アジアに分布しています。
ヒメアマツバメの食物については、バードリサーチの生態図鑑で堀田昌伸さんが、親鳥がヒナに給餌する昆虫を調べたところ「昆虫類とクモ類の10 目35 科からなり、そのうちの17 科(48.6%)はハエ目であった」と記述しています。香港でヒメアマツバメのヒナのフンに含まれる餌昆虫のDNAを調べた研究では、163サンプル中に見つかった割合(DNAが検出されたフンの数÷163)が、ハチ目(42%)、カメムシ目(37%)、ハエ目(26%)、コウチュウ目(8.4%)、ゴキブリ目(5.1%)でした。ハチ目のうち84%はアリで、これはフン全体でも最も高頻度で検出された昆虫でした。ゴキブリ目はすべてがシロアリでした。
さて、私たちは東京都と神奈川県それぞれ1カ所ずつのヒメアマツバメのコロニーで2021年秋にフンを採集し、それを水洗いしてから顕微鏡で観察しました。野鳥の繁殖時期としては遅い季節ですが、ヒメアマツバメの繁殖期間は長く、4月から11月頃まで続きます。フンから識別できた昆虫の分類名と写真を以下に紹介します。定量的な分析はしていませんが、カメムシ、甲虫、アリが多かったのは香港の調査と似ていました。フンは2カ所のコロニーで1回ずつの採集すし、消化されやすい種類の昆虫はフンに残っていないかもしれませんが、日本のヒメアマツバメの食性の一端を知ることができたと思います。フンから見つかった昆虫の外骨格は、宝石のようにキラキラしていました。スマートフォンを顕微鏡代わりにするレンズキットなども販売されていますので、身近な野鳥が何を食べているのかフンを見て調べてみると楽しいかもしれませんね。
神奈川県真鶴町(2021/9/28採集)
東京都千代田区 三井住友海上駿河台ビル(2021/10/14採集)
同定できた分類名
神奈川県真鶴町
- カメムシ目カメムシ科頭部・上翅・脚
- カメムシ目カメムシ科頭部拡大
- カメムシ目サシガメ類頭部
- コウチュウ目脚・胸部腹面1部
- コウチュウ目上翅
- コウチュウ目脚・胸部腹面1部
- ハチ目頭部・胸部
- ハチ目アリ科頭部
- ハチ目アリ科頭部拡大
- ハチ目アリ科大顎
- ハチ目アリ科大顎拡大
- ハチ目アリ科触角
- ハチ目アリ科脚
- ハチ目アリ科胸部前胸背板
- ハチ目アリ科腹柄
- ハチ目アリ科腹部
東京都千代田区 三井住友海上駿河台ビル
- カメムシ目カメムシ科頭部・上翅・脚
- コウチュウ目ゾウムシ科頭部
- コウチュウ目ゾウムシ科頭部拡大
- コウチュウ目ゾウムシ科上翅
- コウチュウ目ゾウムシ科上翅
- コウチュウ目ゾウムシ科脚
- ハチ目頭部・胸部
- ハチ目アリ科頭部・腹部・腹柄
参考文献
堀田昌伸. 2012. 生態図鑑ヒメアマツバメ. バードリサーチ. 東京.
Chung, C.T., Wong, H.S., Kwok, M.L. et al. 2021. Dietary analysis of the House Swift (Apus nipalensis) in Hong Kong using prey DNA in faecal samples. Avian Res 12:2-16. https://doi.org/10.1186/s40657-021-00242-z