バードリサーチニュース

日本の森の鳥の変化:ゴジュウカラ

バードリサーチニュース 2023年8月: 1 【レポート】
著者:植田睦之

一年中ほぼ同じ場所に生息

図1 2010年代のゴジュウカラの分布状況。:繁殖を確認,:繁殖の可能性高い,:生息を確認,:越冬期に分布。植田・植村(2021),植田ほか(2023)を改変。写真:内田博

 ゴジュウカラはユーラシア大陸に広く分布する鳥です。日本には,3亜種が生息し,本州に亜種ゴジュウカラが,北海道に亜種シロハラゴジュウカラが,九州に亜種キュウシュウゴジュウカラが生息します。亜種ゴジュウカラはわき腹から下腹部にかけてがオレンジで,亜種シロハラゴジュウカラはそこが白いという特徴があります。亜種キュウシュウゴジュウカラの外見は亜種ゴジュウカラと同じですが,その分布域等はよくわかっていないようです。ゴジュウカラは留鳥性が強く,ブナ帯などの広葉樹林を主要な生息地とし,冬にはやや標高の低い森でも見られるようになるものの,繁殖期も越冬期もほぼ同じ場所に生息しています(図1)。

 

早春に活発にさえずる

 ゴジュウカラは,フィフィフィフィあるいはフィーフィーフィーと大きな声でさえずります,かなり特徴的な声なので,初心者の方でも,比較的覚えやすい声です。

 

 そんなゴジュウカラのさえずりですが,よく聞ける時期は意外と短く,早春のみです。関東地方では4月中旬から,北海道でも5月にはいると徐々に不活発になっていってしまいます(図2)。同様に早春の短い期間にしか活発にさえずらない種にはキバシリなどがいます。普通,さえずりを聞きに行く4月下旬や5月には,これらの種はもうあまりさえずっていませんので,ぜひ,早春の早朝の森にも行ってみて,これらの鳥のさえずりを楽しんでみてください。

図2 森の鳥の聞き取り調査(バードリサーチ online)に基づくゴジュウカラのさえずり頻度の季節変化。さえずり頻度は秩父では日の出10分前から1時間後までのあいだにゴジュウカラがさえずっていた時間の割合の2011年から2023年までの13年間の平均値,富良野では日の出10分前から5分後までの割合の2015年から2013年までの9年間の平均値を示した。

 

本州中部では高標高帯で分布拡大

 全国鳥類繁殖分布調査(植田・植村 2021)で記録されたゴジュウカラの記録メッシュ数は1970年代の267メッシュから1990年代には328メッシュ,2010年代には408メッシュと増加していました。6月号で紹介したキクイタダキ,7月で紹介したヒガラもゴジュウカラと同様に寒冷な森林に生息し,分布が拡大している鳥です。これらの種の分布の拡大は低標高の場所で顕著でしたが(ただし,ヒガラは高標高域で個体が増加),ゴジュウカラも低標高の場所に分布を拡大しているのでしょうか?

図3 全国鳥類繁殖分布調査における関東から近畿にかけての標高別のゴジュウカラの出現状況と1990年代から2010年代にかけての分布の変化。1000m以上の調査コースで記録率が高く,高標高域に主に分布していること,分布拡大しているのは,そうした記録率の高い標高域であることがわかる。

 そこで全国鳥類繁殖分布調査の現地調査の結果を使って,標高別の分布変化について集計してみました。垂直分布は緯度によって異なります(同じ種でも北の地域では低標高の場所に生息する)。そこで,ここでは,関東から近畿の範囲で1990年代と2010年代にほぼ同じルートで行なわれた現地調査地の結果を比較してみました。
 すると,キクイタダキなどとは違う傾向が見られました(図3)。1000m未満の比較的低標高の森でも2010年代に新たに確認された調査ルートはありましたが,それ以上に90年代のみにしか記録されず「確認されなくなった」調査ルートがあり,低標高域では分布を拡げているというわけではなく,いたり・いなかったり安定しない分布域ということのようです。反面,1000m以上の高標高域では,新たに確認された場所が多く,かつ,「確認されなくなった」調査地はほとんどなく,高標高域で分布が拡大していました。

 なぜ,ゴジュウカラはキクイタダキなどとは分布の拡大している標高域が違うのでしょうか? 5月号で紹介したようにキクイタダキは低標高域では人工林に定着していました。人工林が生長して生息地として好適になっていることがその原因として考えられますが,ブナ林に生息するゴジュウカラは人工林には生息しません。このような環境選択性の違いが,分布拡大様式の違いに影響したのではないかと思われます。そこで,同様におもにブナ林に生息しているコガラについても分布変化の様式を見てみましたが,ゴジュウカラと同様に,低標高域では分布拡大をしておらず,高標高域で分布拡大していました。このことからもブナ林の鳥は関東から近畿にかけてのエリアでは,低標高域での分布拡大が難しい可能性が高そうです。
 では,低標高域がブナ帯にあたる北の他地域ではどうなのでしょうか? 試みに,北東北での分布変化を見てみると,ゴジュウカラは分布の高標高の部分で分布を拡大するのとともに,低標高域でも分布を拡大していて,低標高域にブナ帯がある場所ではゴジュウカラも低標高で分布を拡大できるのかもしれません。
 森林性鳥類の標高分布の変化は,温暖化による分布の高標高化とともにこれまで開発圧の高かった低標高域での森林の回復が影響していると考えられます。高標高域での分布の拡大は多くの種に共通で見られる現象ですが,低標高での分布の拡大は,地域によって,低標高域がどのような植生かが異なり,それによって種や地域による分布変化の差が出てきているのではないかと思われます。

 

引用文献

植田睦之・植村慎吾 (2021) 全国鳥類繁殖分布調査報告 日本の鳥の今を描こう 2016-2021年.鳥類繁殖分布調査会,府中市.
植田睦之・奴賀俊光・山﨑優佑 (2023) 全国鳥類越冬分布調査報告2016-2022年.バードリサーチ・日本野鳥の会,国立市・東京.