バードリサーチニュース

「全国鳥類越冬分布調査」最終報告が公開されました

バードリサーチニュース 2023年2月: 2 【活動報告】
著者:植田睦之

2016年から2022年までの越冬期の鳥類分布の情報を収集してきた「全国鳥類越冬分布調査」の最終報告が公開されました。多くのボランティア調査員からの情報を基に,309種の鳥の越冬分布図を描くことができました。また,その結果から「繁殖分布調査」と同様に,小型サギ類など小型の魚食性の鳥が減少していることや,積雪や凍結の影響を受けやすい鳥の分布が,北上していることが見えてきました。この最終報告はどなたでもダウンロードすることができます。ぜひご覧ください。

https://www.bird-atlas.jp/news/wba.pdf

全国鳥類越冬分布調査

 全国鳥類越冬分布調査は,全国鳥類繁殖分布調査と並行して,2016年1月から2022年2月までの越冬期に実施したものです。繁殖期の調査は,現地調査を中心に実施しましたが,越冬期の調査は,396人の調査参加者に普段の野鳥観察の結果をアンケート形式で送ってもらったのとともに,バードリサーチの野鳥記録データベース「フィールドノート」の情報,日本野鳥の会の探鳥会データベース,eBird Japanの情報等を集計して分布図を描きました。「フィールドノート」にはこの期間に801人の方から情報をお送りいただきました。これらたくさんの方のご協力で調査を実施することができました。ありがとうございました。
 これらの情報を基に,309種の鳥の分布図を描くことができました。また,環境庁により1984-1986年に第3回自然環境保全基礎調査として同様の越冬期の鳥類の分布調査が行なわれていますので(環境庁 1988),それと比較することで,過去からの分布の変化も明らかにすることができました(図1)。

図1 分布拡大が顕著であることが明らかになったコクマルガラス

 

越冬期の優占種

上位に入った冬鳥のツグミ(三木敏史)

 今回の調査で記録メッシュ数が多かった種は多い順に,ヒヨドリ,ハシブトガラス,ツグミ,シジュウカラ,ハシボソガラスでした。これらの種は,1980年代の調査でもメッシュ数の多かった種でした。最上位の冬鳥は3位のツグミで,続くジョウビタキは17位でした。ジョウビタキは北海道や北東北にはほとんど越冬していないため,ツグミのように上位に来ないのでしょう。シロハラも同様でした。

やはり減っていた小型の魚食性の鳥

 1980年代と比較してみると,分布が縮小していた鳥はセキセイインコ,ウズラ,ササゴイ,ヤマセミ,ゴイサギなどで,全国鳥類繁殖分布調査でも減少してた種でした。特に小型の魚食性の鳥の減少については,越冬期の状況を見てもその状況の厳しさを再確認できました。

温暖化の影響で分布が北上?

 逆に,分布が拡大していた種は,ガビチョウ,ハクガン,ソウシチョウ,シジュウカラガン,コウノトリと,移入種や再導入種が上位を占めていました。こうした種以外では,水鳥類や,地上で採食する種の分布拡大が目につきました。こうした鳥たちは,積雪や凍結の影響を受けやすそうです。ただ,分布拡大イコール分布の北上ではありませんので,分布の中心がどう変化したかをもとに,分布が北上した種の特性を見てみました。日本列島は北東方向に延びていますので「記録されたメッシュの緯度と経度を加算した値」(この値が大きいと分布の中心がより北東方向であることを示す)の1980年代からの変化を計算し,その上位種をまとめました(表1)。海鳥については,1980年代はあまり海鳥の観察が活発でなかったので,変化の精度は低いと考えられ,10位のシロエリオオハムは置いておくとして,開けた場所の地上で採食する鳥,浅水域を利用する渉禽類が分布北上の上位に入り,10位未満の上位種も同様でした。2022年1月のニュースレターでも,本調査の途中経過として同様の傾向を紹介しましたが(植田 2022),やはり,積雪や凍結の減少,気温の上昇などより北でも生息しやすくなるような生態を持つ鳥たちが分布を北上させていると言えそうです。

野鳥観察情報の蓄積を継続していきます

 今回の越冬分布調査は,現地調査ではなく,普段の野鳥観察情報を集計することで,越冬鳥類の分布変化を明らかにしました。こうした情報では,現地調査の比較でできるような「個体数の変化」は明らかにできませんが,分布の変化は十分につかむことができます。1980年代に行なわれた前回の越冬分布調査から,今回の調査まで,ずいぶんと,情報の空白期間ができてしまいました。今後,バードリサーチの「フィールドノート」での野鳥観察情報の蓄積を充実させていくことができれば,ずっと短い間隔で,冬鳥の分布変化をつかむことができると考えています。ぜひ,みなさんの観察情報を「フィールドノート」に登録してください。引き続き,みんなで鳥の分布を明らかにしていきましょう。

フィールドノート:https://birdwatch.bird-research.jp/home

 

最終報告と同時公開した文献やサイト

 日本での分布調査は,将来,同様の調査をしようとしているアジア各国にとっても参考になるものです。そこでアジア各国のNGOや研究者も情報を得ることができるように,英語版も同時に公開しました。また,より詳細なメッシュで調査した東京での報告,データ公開の論文,そして各種の繁殖期の分布と越冬期の分布の違いを見ることのできるサイトも公開しました。あわせてご覧ください。

東京都鳥類越冬分布調査 https://www.bird-atlas.jp/news/wbtokyo.pdf

日本での一連の分布調査はアジアの各国でも実施が検討されています。そこで,その成果や調査方法,調査体制が海外の人にもわかるように,英語版の報告も作成しました。 東京都ではより詳細な1kmメッシュでの調査を行ないました。樹林性の鳥が越冬期は木の少ない下町でも観察されるようになったり,水辺の鳥が河川以外の場所でも観察されるようになるなどの季節変化などもわかります。 調査データを公開するために,Bird Research誌の「調査データ」の論文としてとりまとめました。
40kmメッシュの情報をj-stage dataからどなたでもダウンロードできるようになっています。

 

繁殖期と越冬期を見比べられるサイト https://www.bird-research.jp/1_shiryo/atlas.html

例)キジバトの繁殖期と越冬期の分布。留鳥だと思ってしまうキジバトも,北海道では夏鳥だということが,こうして並べてみるとよくわかります。