バードリサーチニュース

鳥類学大会2022を開催しました

バードリサーチニュース 2023年2月: 1 【活動報告】
著者:植村慎吾・高木憲太郎

 2023年1月7, 8日に、バードリサーチ鳥類学大会2022を開催しました。2020年に始めてから3回目の大会です。2022年中の開催をと考えていたのですが、他の色々な鳥のイベントと被らないように、年が明けてからの開催としました。

 今回の大会には、過去最多の560名の方から参加申し込みをいただきました。発表数も過去最多で、ポスター発表40題、口頭発表23題、自由集会3件でした。今回も全国各地から色々な調査研究の成果を持ち寄ってくださいました。いろいろな立場で研究をする人、調査研究に興味をもつ人、研究成果から学びたい人など多様な人が鳥の調査や研究について、気軽に見聞きしたり議論したり、仲間を増やしたりできる場を提供する、という大会にしたいと思っていましたが、皆さまのおかげでそういう大会にすることができたのではないかと思います。ご参加いただき、ありがとうございました!

ヒマラボ賞と最優秀ポスター賞の紹介

 高価な機器や特殊な技術がなくても、ちょっとした好奇心や行動力でチャレンジできる(こともある)のは鳥類学の良いところです。鳥類学大会では、この鳥類学の分野で、発表者が仕事や学業、家事など日々の生活をしながら空いた時間に取り組んだ調査や研究、研究者がメインテーマとは別にちょっとやってみた研究にもスポットライトを当てたいと考えています。この考えに共感してくださった一般社団法人ヒマラボより大会への協賛をいただき、ポスター賞の発表者を対象に、ヒマラボ賞を設けました。参加者が発表を聞いて、「自分でも空き時間に調査研究をやってみよう!」という意欲をかき立てられた発表に1票を投じてもらいました。その結果、最も多くの票を集めた、加藤ゆきさん(神奈川県立生命の星・地球博物館)による発表「“落とし物”から推測するハヤブサの食性」がヒマラボ賞に選ばれました! 通勤経路の駅で鳥の羽やペレット、死体が落ちているのを見つけたら状況を確認し、餌になった鳥を同定。その場所を食事処にしているハヤブサの飛来状況や落ちていた羽の噛み跡などから、落とし主がハヤブサであることを確かめ、ハヤブサが餌にしている鳥種や数と頻度、季節変化を調べた研究です。加藤さんには表彰状と共に副賞として一般社団法人ヒマラボからAmazonギフトカード5,000円分が贈られました。

加藤ゆきさんからの受賞コメント

  • 鳥類学大会2022において、ヒマラボ賞を受賞できたことを非常にうれしく思います。すきま時間を利用したテーマではありましたが、まさか自分が?と驚きで一杯です。投票していただいた方々にお礼申し上げます。
     このテーマに取り組んだきっかけとなったのは、10年以上前に息子と一緒に拾ったトケン類の羽根です。なぜこんなところに羽根が?と不思議に思い、朝のすきま時間を利用して周りからの冷たい視線を浴びつつ羽根を拾い、昼休みに種同定を試み、休日に落とし主を特定してまとめました。
     発表を聞かれた方々も羽根を手がかりに鳥の生活を調べてみませんか。落ちている羽根はいつでも拾えて整理も簡単、特別な機材も必要ありません。羽根をしまう袋と種同定のための参考資料(『羽根識別マニュアル』や『野鳥の羽ハンドブック』など)、そしてちょっとした好奇心があれば取り組めます。

 

 そして、全てのポスター発表を対象に、参加者がそれぞれの基準で最もおもしろいと思った発表に対して1票を投じてもらい、最多得票を集めた発表に対して最優秀ポスター賞を授与しました。最優秀ポスター賞に選ばれたのは、原星一さんによる発表「夜に渡る鳥の目視による種別カウント調査」でした! ライトアップされた鳥たちの写真や、膨大な記録から見えてきた傾向などが配されたポスターで、たくさんの参加者が発表を聞きに集まっていました。どんな鳥が渡っているのか普段見えないものが見えるというわくわくが伝わったのではないかと思います。原さんには、表彰状と共に副賞として、バードリサーチが寄付金付きTシャツやサポートカードによる支援をいただいている株式会社モンベルの製品の中から、ご本人の希望の品をお贈りしました。


原星一さんからの受賞コメント

  • 夜渡りの調査研究は数年前から進めておりましたが、昨年は調査研究支援プロジェクトによる皆様のご支援のおかげで大きく発展できました。さらにこのような賞もいただけて、夜渡り観察の面白さが知られるようになり嬉しい限りです。ありがとうございました。当調査研究は本年も継続予定ですので、引き続きご支援応援をよろしくお願いいたします。


発表ピックアップ紹介

今回の大会では、ちょっとした気づきや方法の工夫で実施できるわくわくする調査の発表がたくさんありました。アンケートでも、その点を評価してくださった意見が多数ありました。参加できなかった皆さんにいくつかご紹介します。

ポスター発表
街角で見かけるドバトの趾(あしゆび)切断
西田澄子

左脚の趾が欠損しているドバト(兵庫県)

ドバトは身近な鳥ですが、じっくり観察したことはありますか?フランスのパリではドバトを、しかも特に趾(あしゆび)に注目してじっくり観察した人がいて、人口が多く汚い場所ほど趾が欠損しているドバトが多いことを発見しました(Jiguetら 2019)。趾に糸状のゴミなどが絡まることなどが原因で欠損が起こるようです。西田さんの研究は、これを日本の神奈川県で調べてみた研究です。研究は現在進行中ですが、予想以上に多くのドバトで趾の欠損がみられたそうです。他にはハクセキレイでも趾の欠損が発見されました。今後は観察数を増やして環境条件などと併せて解析を行うということでした。西田さんの発表を見て、私(植村)もドバトを見かけたときに観察してみていますが、趾が欠損している個体はすぐに見つかりました(右写真)。自分でやってみた感じでは、肉眼や双眼鏡でも確認できるものの、撮影して調べる方が良さそうです。

趾を失ったドバトや他の鳥の情報を募集中です!ご近所で観察したら、何羽観察してうち何羽で欠損が見られたか、または見られなかったかを、日時、場所の情報と合わせて西田さん(animal@tcu.ac.jp)まで!

 

ポスター発表
鳥類におけるハビタットとしての農業用水路の利用 -水路形態と水稲栽培時期が鳥類の利用に及ぼす影響-
鈴木涼太

鳥がどのような水路を餌場として利用しているかは、意外と研究例が多くありません。鈴木さんの研究では、水田の周りにある水路をコンクリート水路と素掘りの水路に分類し、稲を栽培している時期とそのほかの時期でどのような鳥がどのような水路を利用しているかを調べました。直感的に素掘りの水路は水生生物が多そうですが、実際、稲を栽培している時期には素掘り水路で採餌する種数と個体数が多かったそうです。ところが、稲を栽培していない時期(田んぼに水がない時期)には素掘りの水路の多くが干上がっていた一方で、コンクリート水路は水が残っていることが比較的多く、そういう場所で採餌をするサギ類が多いという結果が得られていました。

口頭発表
フライトコールによるヤイロチョウの渡り調査 〜5年間の渡来時期の傾向〜
植松永至ほか

2022年は悪天候が影響してこれまでよりも1週間から2週間ほど渡来が遅かったとみられる(植松さん提供)

植松さんたちの研究は、渡来時期や渡り経路がよくわかっていないヤイロチョウについて、沖縄から本州中部にかけての16県と韓国南部の島で30名が共同で行った研究です。野外にタイマー機能付きのICレコーダーを設置してヤイロチョウの特徴的な鳴き声を録音し、調査地点ごとの確認日を記録しました。ヤイロチョウの渡来は5月中旬から下旬がピークであること、地点によって初認日の早い遅いに特徴があることなどがわかりつつあるようです(右図)。バードリサーチの季節前線ではウグイスやモズ、ヒバリなど比較的目立つさえずりをする鳥の情報を収集していますが、録音機をうまく使うことで、身近な環境で聞くことはほとんどないヤイロチョウでも、飛来状況を調べることができるのですね。

 

なお、発表者のうち希望があった方の発表をバードリサーチのページで公開しています。ぜひご覧ください。最優秀ポスター賞受賞された原さんのポスターも公開しています。

試行錯誤中の大会形式

 さて、今回の大会では、ポスター発表会場にoViceというサービスを利用しました。oViceは、Web画面上の自分のアイコンを移動させて他の参加者のアイコンに近づくことで、声が聞こえるようになる仕組みです。距離や密度を画面上に再現することで、より対面の学会のポスター発表に近い環境を作ることができます。最初は操作に戸惑うかもしれないとも思いつつ、きっと皆さんに楽しんでもらえるに違いない、と思ってこの方法を採用しました。大会後のアンケートでは、やはり初めは操作に戸惑った方が多くいたようですが、ほとんどの方からoViceを使った方法に高評価をいただけたようで安心しました。

鳥類学大会には、調査や研究に慣れていない方にもたくさん参加してもらいたいので、研究発表以外でも楽しんでもらえるようにと思い、oViceの機能を使ったクイズ大会を企画しました。参加申し込み時に皆さんに出題をお願いし、事務局チョイスで選ばせていただいて、大会直前に解説も寄せていただきました。知識の有無に関わらず皆が同じように頭をひねることができる問題、ほほうっと思える知識が得られる問題など、工夫されたものが多くありました。ご協力いただいた皆さま、ありがとうございました。採用させていただいたクイズは、後日、Webで公開したいと思っています。当日のクイズ大会の際は、ドラムや挙手、×マークなどで皆さん反応して盛り上げていただき、楽しい雰囲気づくりにもご協力いただき感謝しています。ただ、oVice会場のいろんな制限の中で、クイズを実施した場所がポスターなどのコンテンツと重なってしまったことや、大勢が一斉に操作することで動作に不具合が起きたりと課題が見えた企画になりました。経験を踏まえて、次回の大会の企画に活かしていきたいと思います。

オンラインイベントの開催方法はまだ発展の途上です。バードリサーチでは、より良い方法を常に探し、新しことにチャレンジしていきますので、これからもどうぞお付き合いください。アンケートでいただいたご意見の中に「様々なことが試行錯誤できる場として素晴らしいと思います。開催のスタイルが定まっていないこともまた良い点だと思います。」というお言葉をいただきました。背中を押していただいたようで、とても嬉しかったです。

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