バードリサーチニュース

第7回インターネット・バードソン 2,613カ所で282種を観察 ムシクイ類とツバメ類の渡来・渡去時期

バードリサーチニュース 2022年8月: 3 【活動報告】
著者:神山和夫

 インターネット・バードソンは、全国のバードウォッチャーが期間内に見聞きした野鳥の観察記録を野鳥記録データベース「フィールドノート」に登録して種数を競う競技です。 2022年5月21日~6月5日に開催した第7回大会には285名の方が参加して、2,613カ所で3,672回の観察記録が登録されました。観察された種の総数は282種で、観察数の上位は街中にも生息している身近な野鳥が多いのですが、この季節を代表するような夏鳥たちも観察されています(表1)。

表1.インターネット・バードソンの記録回数上位40種。青は夏鳥。

 ところで、インターネット・バードソンは春の渡りが一段落して夏鳥の繁殖が始まる時期に開催していますが、夏鳥の渡来のタイミングはどのようになっているでしょう。バードリサーチでは季節前線ウォッチで身近な野鳥の渡来時期を調べてきましたが、今回は皆さんがフィールドノートに登録された2018年1月~2022年6月までの記録を使って、ムシクイ類とツバメ類の渡来・渡去時期を比較しました。グラフは横軸に観察時期、縦軸に半月ごとの総観察件数に占める該当種の割合(%)で観察頻度を示しています。観察頻度はバードウォッチングに行く人が多い時期などにも影響を受けますが、 見られる時期と見られなくなる時期を調べることで、渡来と渡去の時期を知ることができます。さらに、フィールドノートに登録されている渡り時期の記録には人口が多い平野部の緑地や河川が多く、こうした場所は皆さんが日ごろよく観察している場所なので、渡ってきたタイミングをうまく把握できていると想定しています。文中では関東以西の時期を使って比較をしていますが、種によって渡来・渡去時期に地域差が見られる場合は、北海道・東北・関東以西に分けてグラフを作成してあります。

 

ムシクイ類は北で繁殖する種が遅く渡来する

図1.センダイムシクイ(三木敏史)

 ムシクイ類4種を比べてみると、一番早くやってくるのは全国の500-1,000mの山地で繁殖するセンダイムシクイで、関東以西では4月上旬に観察頻度が高まります。続く二番手は北海道をメインの繁殖地にして、本州では標高が1000-1500m付近で繁殖するエゾムシクイで、関東以西では4月下旬に観察が増えてきます。そして次に来るのが本州の高山帯で繁殖するメボソムシクイで、5月上旬に記録が多くなります。最後にやって来るのが北海道の高山帯からサハリン、カムチャツカ半島で繁殖するオオムシクイで、5月下旬に観察されています。このように、標高が高い場所や北方で繁殖するムシクイ類ほど遅くに到着していることが分かりました。外見が似ているムシクイ類は、さえずりをしない秋には識別が難しいので種別の比較はしませんが、全体としては観察記録が少なくなる1月下旬まで渡りが続いているようです。

図2.ムシクイ類の観察頻度

図2.ムシクイ類の観察頻度(全観察件数に占める当該種の割合)。横軸は半月きざみ。

 

渡り順と繁殖地は無関係なツバメ類

図3.コシアカツバメ

 次にツバメ類を見てみましょう。ツバメ類には北海道で繁殖するショウドウツバメ、東日本中心のイワツバメ、西日本中心のコシアカツバメ、そして全国に分布するツバメがいますが、結論から言うと、ムシクイ類と違って繁殖地が北の種ほど先に渡ってくるのではなさそうです。春の渡来はツバメとイワツバメが早く、関東以西ではどちらも3月上旬に観察頻度が高まります。続いて4月上旬になるとコシアカツバメの観察が増えてきます。最後のショウドウツバメは本州では春の記録が少ないのですが、北海道では5月下旬に観察が増えます。一方、秋の渡去時期は、7月まででほぼ繁殖が終わっているツバメとイワツバメの観察頻度が9月にはだいぶ低くなります。コシアカツバメの繁殖期はそれより長く8月まであり、渡りもその分遅いようです。9~10月にコシアカツバメの観察頻度が上がるのは、渡り途中で電線にずらりと並ぶ姿を目にする季節だからでしょう。北海道で繁殖するショウドウツバメも、9~10月に本州を南下するので観察頻度が高まります。

図4.ツバメ類の観察頻度(全観察件数に占める当該種の割合)。横軸は半月きざみ。

 繁殖期は高山など行きにくい場所にいるいる野鳥も、渡り時期には低地や都市近郊の緑地で観察することができます。記録を蓄積して気候変動の影響などが分かるようにしていきたいと思いますので、インターネット・バードソンの期間以外でも、ぜひバードウォッチング記録をフィールドノートに登録してください。