バードリサーチニュース

鳥類学大会2021を開催しました

バードリサーチニュース 2022年1月: 4 【活動報告】
著者:植村慎吾

2021年12月18日に、鳥類学大会2021を開催しました。2020年、新型コロナウイルス感染症によって多くの学会大会が中止になったことを受けてオンラインで学会的なものをやってみようということで開催した鳥類学大会2020オンラインに続く大会です。
この記事では大会の様子を報告します。

 今回の大会には、昨年とほぼ同じくらいの481名の方の申し込みがありました。ご参加くださった皆様ありがとうございました。

 午前の部は、バードリサーチ賞の授賞式と受賞講演をYouTubeのライブ配信で配信しました。今回は第3回バードリサーチ賞ということで、2017年度から2019年度に実施された調査研究支援プロジェクト27件の中から選ばれた4件について、授賞式と受賞講演を行いました。リアルタイムでの最大同時視聴者数は240名で、少し遅れて視聴した人もいるので半数以上は参加してくださったようです。受賞講演はどれも素晴らしく、質問や感想を受け付けたチャット欄も終始盛り上がっていました。オンラインの大会は、従来の大会以上に参加者が大会の空気をつくるような気がしていて、こうしたチャット欄の盛り上がりや午後の部でのzoomでの発言はとても重要でありがたいものです。

 午後の部は、まず13時からは2021年度の調査研究支援プロジェクトに採用された研究のプレゼンテーションをしました。見逃した方、もう一度内容を確認したいという方はこちらから。素敵な研究プランが揃っています。皆様のご支援をよろしくお願いします!

 その後、14時から3時間半にわたってスライド発表を行いました。発表時間は3つのコアタイムに分かれ、発表者はそのうち割り当てられた1つの時間枠で発表と質問対応をするという形式です。昨年の大会ではYouTubeライブ配信を使った口頭発表と、YouTubeに発表スライドをあげてコメント欄で議論をしてもらうスライド発表の形式を取りましたが、今回はスライド発表のみとし、大会ページに発表スライドを貼り、zoomのブレイクアウトルーム機能というものを使って質問や議論をしていただきました。昨年は全部で28件の発表がありましたが、今年はなんと46件もの発表が集まりました。内容も多様で、楽しんでいただけたかなと思います。

 Zoomのブレイクアウトルーム機能を使った発表中には、参加者が部屋間を移動できなくなるという不具合が多発し、何度かzoomを立ち上げ直すことになってしまいました。参加者の皆さんには申し訳ありません。音声やビデオをONにした状態で大勢が同時に移動しようとすると、こういう不具合が起きることがあるようです。今後のzoom側の改善を待ちたいと思います。

 このプログラムの後には人気投票を行い、参加者の皆さんにそれぞれの基準でいちばん気に入った発表を選んでもらいました。一番多くの票を集めたのは香川裕之さんによる「アオシギは普通種か?」でした。香川さんには協賛の一般社団法人ヒマラボから「発表が人気だったで賞」が授与され、副賞として5000円分のアマゾンギフトカードが送られました。香川さん、おめでとうございます!

発表ピックアップ紹介

今回のスライド発表はどれもそれぞれに面白さがあったのですが、その中からいくつかをご紹介します。

「アオシギは普通種か?」
発表者:香川裕之

まずは今回の「発表が人気だったで賞」の受賞発表をご紹介します。
なかなか観察が難しいイメージがあるアオシギについて、仙台近郊でアオシギの生息数や生息環境の特徴を調べた発表です。アオシギの目視の他に、糞による同定もしておられました。アオシギの糞は直径3 mmから4 mm程度、長さは15 mmから20 mm程度の太い円筒状で、同じような環境に生息するカワガラスやセキレイ類とは異なっているそうです。香川さんの研究では、アオシギは森林内の沢に加え、農地や住宅地に隣接する河川などにも生息し、緩勾配の開けたところを選好するようだということがわかりました。今回の調査では全調査区間の4割で生息が確認され、少なくとも仙台近郊ではそれなりに分布していそうだけど、生息密度はかなり低く、普通種というよりは希少種といったところか、ということでした。


「高速道路周辺に営巣するサギコロニー〜10年に及ぶ調査結果とコロニー移設案について〜」
発表者:芳賀大

この発表は、日本野鳥の会愛知県支部が、高速道路周辺にあるサギとの共生を目指しているNEXCO中日本と愛知県弥富野鳥園と共に行ってきたモニタリング調査についての発表でした。複数の種が同時に飛来するサギのねぐら入りでは、複数名でのカウントが必要で、長く継続するためには新しい調査員の確保も問題になってきます。飛翔するサギを3段階で識別する方法を愛知県支部内の有志で開発し、勉強会を通じて識別技術を共有することで調査員確保の問題に対処してこられた様子が紹介されました。2012年以降10年間にわたってカウントを継続され、種別の個体数変化やコロニーの消失、コロニーが集約されて高密度になったことに伴う地上営巣の出現など、サギ調査員の皆さんによってサギ類のコロニーの動態がよく記録されていました。
 また、現存コロニーの一部の場所に工事が入るというNEXCO中日本からの相談を受け、コロニーを移設するためにデコイを置いて誘致を試みている様子も紹介されました。コロニーの誘致には苦戦されているようですが、サギ調査員や高速道路事業者が協力してサギコロニーの保全に取り組まれている記録を共有してくださった貴重な発表だったと思います。

高速道路横のサギコロニーの様子


「山形県酒田市国指定最上川河口鳥獣保護区域における探鳥マップの作成と活用法」
発表者:歌岡大祐、井上稜也、増子圭吾、佐藤陸玖、若山奈月、岩城勇太、海谷一彰、梅津美瑳、荘司風輝、長船裕紀、広瀬雄二

VR野鳥観察の様子。赤丸が自分の視点を表し、画面内の森林を見回すことができる。赤丸を緑の球体のところに合わせると、そこにいる(と設定される)例えばシジュウカラなどの鳥の情報が表示される

東北公益文科大学の学生である歌岡さんたちは、酒田市でどのような野鳥を観察できるのかを楽しみながら学べる、ウェブ地図を作成するプロジェクトを立ち上げました。今回の発表では、その地図のシステムの紹介と、実際に作成した探鳥マップの紹介をされました。さらに、360度カメラで撮影した森林内の写真の中に入って探鳥する様子を体験できるweb VR画面の紹介もありました。画面の中で鳥を模した緑色のところに視点を合わせると、そこにいる(と設定されている)鳥の図鑑ページが表示されるというものです。家にいながら学会に参加し、その学会の発表の中で野鳥観察を体験できるという、新時代を感じさせる発表でした。

 

その他にもたくさんの発表がありましたが、全てを紹介しきれないので、ご興味のある方は要旨集(pdf直リンク)をご覧ください。

 大会後のアンケートで、さまざまな項目について大会の感想などをお聞きしました。発表の形式について、YouTubeでスライドを見ながらコメント欄で質問等する昨年のスライド発表方式、従来の口頭発表のように発表者がスライドを進めてチャット欄で質問等する昨年の口頭発表方式、大会ページの発表スライドを見ながらzoomを使って口頭で質問等する今年の方式についてどれが良いかを聞いた項目では、今年の形式が良いという回答が最多でした。一方で、発表件数に比べて発表時間が短く、全部を見回れないという意見がたくさんありました。今後の大会では、発表件数によっては日程を長くする、登録者は会期前にも発表ファイルを見られるようにするなどしようと思います。

開催形式についてのアンケート結果
昨年と今年の両方に参加された方からの回答

 懇親会の前に、食性データベースについての告知とテーマ別談話会を行いました。これについて詳しくは省略します。ホームページを公開しましたのでぜひご覧ください。(食性データベース http://www.bird-research.jp/1_katsudo/shokusei/shokusei.html

仮想空間での前夜祭

今回は初めての試みとして仮想空間を前夜祭会場に使ってみました。コロナ禍で様々なイベントがオンラインで開催されるようになり、全国どこからでも時間や経費の制限をあまり受けずに参加できる仕組みが広まってきました。オンラインのイベントは気軽に参加することができて、これまでなら参加しづらかった層の方も参加できたり、これまで年に1回くらいしか会えなかった人と年に何度も話せたりすることも増えました。一方で、学会のような大きなイベントをオンラインで開催しても、対面で会うときのような1対1またはごく少人数間での気楽な会話や反対にすごく込み入った質疑は生まれづらいなと感じることがありました。今回や前回の大会で使ったzoomによる「人前」での音声会話やYouTubeでのチャットの会話、オンラインで開催された他の学会で使われるような大規模な学会運営用の他のサービスで使われるチャットや1対多または多対多のビデオ通話による方法は、良くも悪くも平均的で当たり障りのない内容に会話が終始しがちな気がしています。1対1のような場面を作れたら、もっと入り口的な会話もしやすいだろうし、むしろ狭く深い話もできるのではと思います。

今回使ったような仮想空間では、仮想空間内(パソコンやスマホでは画面上)に人と人との物理的な距離を再現することができます。距離があると、遠くの人の会話は聞こえづらく、近くの人の会話はよく聞こえます。この方法なら、いわゆる対面での会話と同じように、広い「同じ空間」にいて周りの様子が分かりながらも1対1または少人数での会話をすることができます。近い将来にこうした仮想空間を使った学会やオンラインのイベントはもっと一般的になると思っています。バードリサーチの鳥類学大会に参加してくださった皆さんとは一足お先にこのシステムを共有し、まずは主催者も参加者ともに心理的な障壁になりやすい初回のお試しを済ませるのと、こられた方の様子を知りたくて今回の会場を用意してみました。

仮想空間の鳥瞰図
この中に10箇所の部屋を設置した

 仮想空間にはスライド発表を要約したものや要旨を設置し、入室した人が音声かチャットでやりとりできる仕組みです。今回は、1部屋に25人程度までしか入れない方法を使いました。参加者が前夜祭会場にどのくらい来られるかわからなかったので、全部で10会場を作って会場同士をつなげるようにしたのです。アンケートでは回答者の約半分が入室してくださったようですが、17時ごろに案内メールを送って入室時間を限定しなかったため、時間や入った部屋がばらばらで、仮想空間内での交流はごく一部にとどまってしまい、課題が残りました。多くの人に使っていただいて様々な感想を得ることができたので、今後の参考にさせていただきます。
 今後はこうしたものを使って、小規模なイベント(食性データベースの研究テーマごとの定期的な集まりなど)を実施することがあるかもしれません。

仮想空間会場の内部の様子 参加者はアバターを使って音声でやりとりができる。話したい人に近づくと声がよく聞こえるようになり、離れると聞こえない。発表を簡単にまとめたポスターを使って発表もできるようにした。

鳥類学大会2021で使用した仮想空間会場にご興味がある方はこちらより入室していただけるようにしました。大会のときのポスターは撤去して、バードリサーチの活動紹介ポスターを貼っています。mozilla hubs というものを使ってます。入室したら「Join Roon」をクリック、アバターの表示名や見た目を適宜入力・選択して「Accept」をクリック、音声の設定をして(初期設定で大丈夫なことが多いと思います)「Enter Room」を押すと入れます。操作方法は公式ページや「mozilla hubs 操作方法」などで検索されて下さい。移動はキーボードのカーソルキー(←↑↓→)やA, W, S, Dで前後左右に動けます。見る方向はマウスで画面をドラッグするか、キーボードのQ, Eで変更できます。

もっと良い大会名にしたい

前回の大会名はバードリサーチ鳥類学大会2020オンライン、今回の大会名はバードリサーチ鳥類学大会2021でした。2020年の大会はオンラインでの新しい試みということで「オンライン」を大会名につけましたが、今回は、そもそもオンライン開催が前提の大会ということでオンラインを名前から外したのです。大会後アンケートへの記述回答でも、時間や経費を考えるとオンラインでないと参加できないという意見が多くありました。「来年も大会があれば参加したいですか?」の項目への回答はありがたいことに100%が「参加したい」を選んで下さりました。来年以降も大会するとしたらオンラインを前提にと考えています。

 ところで、今回の大会は普段から鳥を見るけど自分で調査研究をすることはない、という方にも調査研究発表を楽しんでもらい、実践してもらうきっかけにしたいというのが大きなテーマの一つでした。食性データベースも今後は一つのきっかけになるようにしようと思っています。それにしては 鳥類学大会 なんて名前が堅苦しいなと思っているのですが、何かもっと良い大会名はないでしょうか。いい案がありましたら教えてください。

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