バードリサーチニュース

ソリハシセイタカシギがやってきた。

バードリサーチニュース 2021年12月: 3 【レポート】
著者:守屋年史

 ソリハシセイタカシギは、全長43cm、チドリ目セイタカシギ科ソリハシセイタカシギ属に属し、上に反った細長い嘴と長い脚、白と黒の体の模様が特徴的なシギです(写真)。日本では希な旅鳥・冬鳥として干潟や河口、池などに渡来します。

写真:鹿児島県万之瀬川河口のソリハシセイタカシギ(2021/11/11)Photo by 小園卓馬

 日本でのソリハシセイタカシギの近年の出現傾向として、モニタリングサイト1000シギ・チドリ類調査(環境省生物多様性センターHP)における秋期と冬期の合計個体数の経年変化を図1に示します。ソリハシセイタカシギのような希な種はタイミングが合わないとモニタリング調査で捕捉するのがなかなか難しいこともありますが、2017/18シーズンから観察が増えている傾向がありました。
 それを踏まえても2021年秋期は例年を上回ってソリハシセイタカシギが各地で観察されており、8月から12月下旬までの出現情報をまとめてみました。

図1:モニリングサイト1000調査におけるソリハシセイタカシギの記録(秋期・冬期合計)

 8月から現在(2021/12/24)までに、27都道県53か所で観察されており(図2)、いつもは観察が珍しい種であることを考えると、希にみる当たり年のようです。兵庫県は初記録ということで新聞記事になっていましたし、他の地域でも目立つ鳥なので新聞に取り上げられていました。

図1:ソリハシセイタカシギが確認された都道府県

図2:2021年秋にソリハシセイタカシギが確認された都道府県

 沖縄県では最多の11か所で観察され、鹿児島県9か所、茨城県・福岡県各3か所が続きました。関東地方、九州地方全県では観察されています。また、太平洋に面する県で観察される傾向があり、干潟が太平洋側に多いこともありますが、水田や池、河川中流からも報告があるため日本海側で少なかった理由は、後述する南から巻いて来た風にあるかもしれません。複数羽の観察も25か所で観察されており、最多の個体数は佐賀県の大授搦(東よか干潟)で11羽が観察されています。
 把握できた初認時期は、11月中旬(27/53例)が最も多く(図3-1)、11月中旬の中では11日に5例、12日に9例が観察されている(図3-2)ので、この辺りがピークのようです。ただ、希な渡来のソリハシセイタカシギがピークより前の9月や10月時点でも複数カ所で観察されており、今年は日本に渡来しやすい状況があったのではないかと考えられます。

図3-1:ソリハシセイタカシギの初認時期(E:初旬、M:中旬、L:下旬)

図3-2:2021年11月中旬のソリハシセイタカシギ初認日

 日本国内を秋に通過するシギ・チドリ類の多くは、8月頃から10月頃に渡来します。渡り移動中の迷行にしても、なぜこのような遅い時期なのかはっきりしませんが、越冬地である中国南東部沿岸の香港観鳥会(HKBWS)のTung氏に尋ねると、香港では、9月から翌年5月に観察される鳥で、ピークは1~2月とのことでした。他のシギに比べて遅めに移動をしているシギのようです。

大陸からの風が影響か

 2021年1月のニュースレター「流跡線解析による鳥の飛行経路推定の検証」で、迷鳥が観察された場合に、影響を与えそうな気象現象(台風、低気圧、寒冷前線、梅雨前線などの停滞前線、寒気、偏東風)が起きていた場合が83%を占めていることが報告されています(太田 2021)。今回の飛来が集中した可能性としても、大陸からの風が挙げられるのではないかと考えています。ピーク前日の2021年11月11日 0:00の高度3500m付近の風を示します(図4)。11月8日ごろから朝鮮半島北部で発生した低気圧が10日夜にかけて発達しながら北東へ移動し、11日未明にサハリンの西部アムール川付近で渦のような風の流れの中心となっています。この日、大陸からの寒波の影響で西日本の最高気温は例年に比べ2~5℃低くなり、対馬付近の海上では東南東に約55km/hの風が吹いていたと推測されていました。
 中国東北部とモンゴル北部付近のソリハシセイタカシギの繁殖地(図4の橙色枠:真木ら 2014)から、南に向かった風が巻くように日本に向かって風が吹いており、中継地や越冬地への移動のタイミングでこのような風に引き込まれた可能性があると考えられます。また、この秋には沖縄や鹿児島では比較的珍しいガン類が多数観察されており(沖縄タイムス2021/11/12記事など)、同じような理由によるものかもしれません。

図4:2021/11/11 0:00の高度3500m付近の風とソリハシセイタカシギの分布
(橙色枠:繁殖地、紫色枠:越冬地、緑色部分で約50km/h、赤色部分で約100km/hの風:Earthより作成:https://earth.nullschool.net/jp)

 今後、同様の気象条件や時期に同じようなソリハシセイタカシギの移動が起こるか検証する必要がありますが、このような例年とは変わった野鳥の挙動や迷行の頻度を観察・記録することで、鳥類の移動にどのような気象が作用するのか、繁殖地・中継地の状況などが分かってくるかもしれません。

 今回ソリハシセイタカシギの情報収集の呼びかけには、電話、メール、SNSなど多くの媒体から情報をお寄せいただきました。ありがとうございました。

参照文献
環境省生物多様性センター:モニタリングサイト1000
  データファイル「モニタリング1000シギ・チドリ類調査」24 Dec. 2021参照
   http://www.biodic.go.jp/moni1000/findings/data/index_file_shorebird.html
真木広造、大西敏一、五百沢日丸. 2014. 決定版日本の野鳥650.平凡社.
沖縄タイムズ. 2021/11/12. 「天然記念物の渡り鳥マガン 糸満で一休み」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/496679 
太田佳似. 2021. 流跡線解析による鳥の飛行経路推定の検証 | バードリサーチニュース2021年1月No.2
 https://db3.bird-research.jp/news/202101-no2/

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