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キジバトのバードバス利用には季節性がある? ー ハトウォッチ -

バードリサーチニュース 2021年10月: 1 【活動報告】
著者:山﨑優佑・守屋年史

写真1:静岡のバードバスに飛来したキジバト(協力:川口直希氏)

 2018年からバードバス調査を開始し、水場にセンサーカメラを設置する方法と、皆さんにアンケートに回答していただく方法で調査を進めてきました。その中でメジロやシジュウカラなどスズメ目の小鳥が中心に多く観察されていますが、ハト目のキジバトとドバトに関する情報も多く寄せられています。

 アンケート情報を整理すると、興味深いことにドバトとキジバトは、家の周辺では両種ともよく見られている留鳥であるものの、バードバスをよく利用しているのはキジバトで、ドバトはほとんど利用していないようでした(図1)。

図1.ドバトとキジバトの情報件数

 この様な結果になった理由の一つは、群れで行動するかに関係している可能性があります。ドバトは群れで行動することが多く(三上 2016)、群れが一度に水浴びや水分補給をしようとすると、ある程度大きな水場が必要ではないかと考えられます。調査協力者が使用されているバードバスの大きさは、多くの場合が直径20~30㎝くらいで、ドバトの群れが利用するには小さすぎると考えられます。そのためドバトはバードバスをほとんど利用せず、より広い環境で水浴びや給水をしているかもしれません。
 ただ、大きなバードバスが置けるということは、庭が広く生け垣や塀に囲まれていない状況も考えられ、ドバトは、そのようなバードバス周辺の開放的な空間の広さを好む習性があるとも考えられます。ちなみに、ドバトが見られたという報告がアンケート調査で1件ありますが、そのバードバスは博物館の中庭に設置された60×40cm四方の比較的大きいバードバスとのことでした。

 一方、キジバトは、夏季はつがいで行動し、冬季は小群を作ります(清棲 1965)。少数で行動するキジバトは、水場がそれほど大きくなくても利用するのかもしれません。また、キジバトは森林性であることから、ベランダなどやや閉鎖的な環境にあるバードバスも利用できるという事も考えられます。

年中利用しているわけではないキジバト

 キジバトを詳しくみてみると、いつもバードバスに来ているとは限らないようです。バードリサーチのベランダバードウォッチの「家の周りの調査」で、2005年2月~2020年9月までに収集された東京と静岡データでは、どちらとも一年を通してキジバトは観察されています。しかし、バードバスカメラを設置した東京では3年間で12月~5月に、静岡については、夏から秋のカメラの稼働日が少なかったのですが2月~4月に、よく利用していました(図2)。また、アンケート調査でも関東地方にバードバスを設置されている方の中には「12~3月ごろ見かける」といったコメントも複数あり、キジバトがバードバスを利用する時期の偏りがありそうです。

 

図2.センサーカメラ調査による東京都清瀬市と静岡県静岡市のキジバトの年間バードバス出現状況

 一方で、石川県の報告(手井2019)では、キジバトだけではなく他種も含めて12~2月はほとんどバードバスに飛来しておらず、そのほかの時期に利用していました。この場合、場所の影響が強いかもしれませんが、ここでもキジバトは留鳥ながらもよく利用する時期があるようです。

食べ物?周囲の環境?地域による違いもあるかも。

 なにが影響しているのでしょうか?私たちのセンサーカメラ調査(水場の大きさ直径30cm程度)で記録された244件の動画で、キジバトが何をしているかというと、水浴びは0回、飲水は160回確認され飲水のためだけに訪れていました。石川県の報告(水場の大きさ60×20×330cm)もキジバトは水浴びに44回、飲水は157回と3倍観察(手井 2019)されており、他種では飲水が水浴びを上回った小鳥はカワラヒワ(6:1)だけでした。ニューカレドニアの水場を調査した報告でもハト類の訪問は飲水が目的で、これは種子食であることから種子に含まれる水分量が他の餌に比べて少ないので飲水のために飛来していると考察されています(Okahisa et al. 2015)。また、大阪の都市公園での死亡個体のそのう内容分析では、キジバトは4~8月は草本の種子を採餌し、11~1月は樹木の種子を採餌しているとのことで(和田 1996)、季節による餌の種類や含水率の違いがバードバスの利用に影響している可能性が考えられます。
 それに加えて、場所による餌資源の違いや気候が影響している可能性、乾燥したり凍結したりする冬に水場を得ることが困難な地域の事情などがあるかもしれません。

 

ハト類の水場利用の調査のご協力ください!

 まだ情報量が少ないため、水場の利用や季節性が異なるかはっきりとは言えない状況です。特に、ドバトについては広い場所にある水場を利用するのかどうか、キジバトについては季節による飲水と何を食べていたかといった採食行動の情報を収集していきたいと考えています。また群れの大きさ、その周辺の環境も下記の方法で情報収集を行おうと考えていますので、是非、ご協力ください。

 

☆ご家庭や近所に水場がある方

 水場の利用の季節性を確認したいので、月に一度、バードリサーチから質問メールを送らせていただきますのでご返信ください(約1年程度)。

 ・水場にキジバト・ドバトが来ましたか?
 ・何をしていましたか(飲水・水浴・そのほか)?
 ・水場には来ないが、庭や家の周辺では見ましたか?
 ・水場や庭の環境を教えてください(初回のみ)

 

☆ハトの採食もしくは、水場の飲水・水浴を目撃した方

 ・ハトの種類と群れの大きさ
 ・いつ見ましたか?
 ・どこで見ましたか?(水場の位置と周辺環境)
 ・何を食べていましたか?
 ・飲水と水浴のどちらを見ましたか?
 ・飲水や水浴をしていた水場の広さ?

 

 また、センサーカメラ調査も引き続き設置場所を募集し、長期間観察のデータも収集していきたいと考えていますので、下記ホームページの条件に適う方はご連絡いただければ幸いです。

 

引用文献

清棲幸保(1965) 日本鳥類大図鑑増補改訂版第Ⅱ巻 講談社:488-491.
三上 修(2016)生態図鑑ドバト(カワラバト). バードリサーチニュース13(3).
Okahisa Y, Nakahara T, Sato NJ, Theuerkauf J & Ueda K (2015) Puddle use of New Caledonian rainforest birds. Ornithol Science 14: 41–45.
手井修三(2019) 住宅地における鳥類の水浴び・砂浴び・飲水の季節変化と日周変化 日本鳥学会誌 68 2 335–341.
和田岳(1996)都市公園に生息するキジバトの食性. 1996年度日本鳥学会 要旨集 沖縄国際大.

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