バードリサーチニュース

ドローンで空撮したカモの群れをAIで自動カウント

バードリサーチニュース 2021年9月: 4 【活動報告】
著者:神山和夫(バードリサーチ)、川瀬英路(カミエンステクノロジー)

ガンカモ大群のカウントは心が折れそう

 今年も秋になり、冬鳥の先陣を切ってガンやカモの仲間が渡ってきました。ガンカモの群れを調査するとき、数百羽でもなかなか大変ですが、もっと大きな群れが飛来する湖沼もあります。そうした大群の調査では、「さあ、数えるぞ」と決意を固めて望遠鏡をのぞきながらカチカチとカウンターを押し始めるものの、1,500羽くらいから目が疲れて背中が痛くなり、3,000羽を過ぎると心が折れそうになります。大きな群れというのは数の問題だけでなく、個体同士が重なっていて見えづらいこともカウントを難しくしています。そこで、数年前からドローンで空撮した写真で数をカウントするという試みを始めましたが、写真に写った何千羽ものガンカモを目で数えるのは現地で数えるより骨が折れます。そうしたわけで、ドローン撮影はガンカモの群れが遠かったり、地形のせいで見えにくい場合は有効な方法ですが、実用性はいまひとつでした。

人工知能(AI)がカモを見分けてくれる

 ドローンで大群の写真は撮れるがカウントしきれないという問題に突き当たっていたところに、人工知能(AI)という賢い助っ人が現れました。AIは「深層学習」という技術を使って自動的に物体の特徴を学習して分類してくれるのです。カミエンステクノロジー株式会社の協力を受け、昨年から同社のテラシンセ・ドローンというソフトウエアを使ってカモの姿をAIに学習させてきました。カモの種と雌雄は人が見てラベル付けをしますが(図1)、そのあとはAIがたくさんの写真を読み取って、同種のカモに共通する特徴を自動的に見つけて学習していくのです。

図1.AIにカモの学習をさせるために、種と雌雄別にラベル付けしているところ。

 こうしてカモの特徴を学習させたAIにドローン(DJI Phantom4 Pro)で空撮した画像を認識させてみました。図2は茨城県の北浦で2020年12月に撮影したカモの群れです。なお、群れは写真の右上方向へも広がっていたので全体を撮影しきれていないのと、AIはまだ背景が複雑な陸上のカモの認識ができないことから、北浦のカモの大群の一部だけの認識になってしまいましたが、AIはオナガガモの雄が1,018羽、雌が2,769羽、ホシハジロの雄が74羽、そしてオオバンが19羽とカウントしてくれました。

図2.北浦のカモの群れをテラシンセ・ドローンのAI機能で自動認識した画像。左が全体(陸上のカモを除く)。右が拡大で、カモの種類と雌雄が異なる色でマークされている。

 残念ながらAIの認識精度はまだ不十分で、目で見て答え合わせをしてみると間違った認識結果もありました。ではどれくらい正しく認識できたのか、上記の北浦と夏目の堰(千葉県北部の溜池)で撮影した写真を使ってマガモとオナガガモの認識精度を検証しました。北浦はほとんどがオナガガモで他種がわずかに混じる程度で、同時に行った目視調査では水面にいるカモの総数は約8,000羽でしたが、岸から見るとカモ同士が重なって見えるため正確なカウントは難しいと感じました。夏目の堰はマガモとオナガガモが2:1くらいの構成で、総数は1万を超えていたかもしれませんが目視調査はしておらず、こちらもドローンで群れの一部だけを撮影しました。認識精度の検証には3つのスコアを使っています。ひとつめは「正答率」で、マガモの雄を例にすると、写真に写っているすべてのマガモ雄のうちAIが正しく認識できた比率です。ふたつめは誤答率で、AIがマガモ雄だと認識したうち間違っていたものの比率です。そして最後が見落率で、マガモ雄が写っているのにAIが認識できなかったものの比率です。これらのスコアを複数の写真で検証した平均値を図3に示します。

図3.AIの認識精度(複数の写真の平均値)

図4.AIに認識させたカモ類の写真(同スケール)。オナガガモは撮影高度が低い北浦の方が鮮明で背中の模様がよく分かる。夏目の堰のオナガガモには繁殖羽への換羽が完了していない雄もいた。

図5.AIに認識させたカモ類の写真。

 両湖沼の撮影高度は20m前後ですが、北浦の方がやや低い高度のため画像が鮮明だったのと、夏目の堰には換羽途中で雌と区別が付きにくい雄が少なくなかったために(図4)、北浦のオナガガモの認識精度のほうが高くなったようです。マガモは雄のほうが正答率が高く、見落率が低くなりました。雄は模様が明瞭なおかげで、雌よりも性格に認識できたのかもしれません。それから、カモのメスはどの種も似たような色をしていてオスに比べて識別が難しいのですが、AIは異なる種の雌を見分けられたでしょうか? マガモとオナガガモの両方がいた夏目の堰でメスの認識精度を調べたところ、互いの種の誤認は少なく、かなり区別が付いているようでした(図5)。

自動認識の精度向上と調査への応用

 調査に使えるレベルにするには、もう少しAIの認識精度を上げないといけませんが、改善の余地は残されています。ひとつは、もっとクリアな写真を撮影することです。小型のドローンはカメラ交換ができないのでカメラ性能の高い機種が発売されるのを待たねばなりませんが、ドローンの技術は急速に進んでいるのでカメラ性能はよくなっていくでしょう。それから、もっとたくさんのカモをAIに学習させると特徴の学習が正確になり、撮影時の光線状態がさまざまだったり、背景が水面より複雑な模様になる陸地でも、カモを正しく認識できるようになります。詳しい説明は省きますが、AIにカモを学習させる方法にも改善できるところがあります。

 最後にこのAI技術をどう使えるかです。調査のときに小型のドローンをブーンと飛ばして群れを撮影することができるといいのですが、ドローンはまだそこまで手軽に飛ばせないし、ドローンで撮影してAIに分析させることにも手間がかかるため、ガンカモが数千羽くらいまではカウンターでカチカチ数えたほうが早いと思います。当面のところ、この技術が役立つのはカウントしきれないほどの大群か、カウントに慣れた方が不足している調査地でしょう。目視でのカウントはこれからも重要ですが、近い将来、ドローンが遠くを写せるカメラ、そしてAIが写真分析のアシスタントになり、ガンカモ調査を手伝ってくれるようになるかもしれません。

(本調査は環境省のモニタリングサイト1000の一環として実施しました)