バードリサーチニュース

研究誌新着論文:積算気温をもちいたウグイスの初鳴き日の推定

バードリサーチニュース 2020年12月: 2 【研究誌】
著者:植田睦之

新聞などニュースでご覧になった方も多いと思いますが,気象庁の生物季節観測が大幅に縮小されました。その結果,これまで調べ続けてきた鳥の生物季節観測は,来年からはすべて終了することになります。長く続いてきた調査がなくなってしまうのは悲しいことですが,日本にはまだバードリサーチの「季節前線ウォッチ」があります。歴史こそ2005年からと浅いですが,たくさんの鳥に興味のある人による各種鳥類の初認情報を集約したものです(参加していただいた皆さん,ありがとうございます)。必ずしも鳥に興味のある人ばかりではない気象台の人がとった気象庁のデータより,鳥好きたちがとった「季節前線ウォッチ」の方が質的には上だと自負しています。そのデータのうちウグイスの初鳴き情報をまとめたのが今回掲載された論文です。

太田佳似・植田睦之 (2020) 積算気温をもちいたウグイスの初鳴き日の推定. Bird Research 16: A39-A46.

論文の閲覧:http://doi.org/10.11211/birdresearch.16.A39

 

 この研究では,ウグイスの初鳴きと積算気温との関係に注目して,初鳴きデータが周囲に十分ある全国39地点の気象観測所の気象データを使って,ウグイスの初鳴きが始まる有効積算気温(1月1日から,日平均気温の0℃以上の温度を積算したもの)を求めました。さらにその有効積算気温とそれぞれの場所の平均気温の関係をもとに,全国各地のウグイスの初鳴き日を推定する予測式を作成しました.この初鳴き推定は各年のウグイスの実際の初鳴き日をよく予測できていて,ウグイスの初鳴きには積算気温が影響していることがわかりました。 

図1 試行的に行ってみたウグイスの初鳴きの1か月前予報と,実際の初鳴き日との関係

 この研究結果には,いくつかの発展が考えられます。1つはウグイスの初鳴き予報です。試みに2020年の東京の気温をもとに,平年のさえずり時期の1か月前にウグイスの初鳴きの予報を出すことを試してみると,予報(図1赤線)は平年値(灰色線)よりも早く,初鳴きが例年より早いことはうまく予測できました。ただ,実際の初鳴き(●)は予報よりもさらに早かったのです。予報を出した後も暖かい日が続いたため,このようなことが起きたようです。暖かい年はその後も暖かいだろうことや,寒い年はその後も寒いだろうことを考慮するように予報をするなど改善が必要ですし,30日前予報の後も,20日前予報,15日前予報と出し続けていけばよいことなのかもしれません。こうした,予報がマスコミに取り上げられたら,ウグイスの初鳴きに興味を持つ人も増えるでしょう。それは「季節前線ウォッチ」の発展にもつながりますので,改良方法を考えつつ,将来は「予報」を実現したいと思います。

図2 積算気温をもとにした過去のウグイスの初鳴き日の推定

 もう1つは過去の初鳴き日の復元や,未来の初鳴き日の予想です。過去の気象情報をもとに,初鳴き日を復元したのが図2です。1980年代後半以前に特に青森では初鳴きが遅くなっているのがわかります。これは本当なのでしょうか? 過去の初鳴き情報があればこのあたりは検証することが可能です。全国どこでも構いませんので,古くからのウグイスの初鳴き情報をお持ちの方がいらっしゃったらご連絡ください。その場所の気象情報から過去の初鳴き日を推定して,実際の記録と比べてみたいと思います。

情報送付先:mj-ueta@bird-research.jp

 また,この研究の紹介を含めた季節前線ウォッチの紹介をYouTubeライブでお話ししました。こちらもご覧ください。