バードリサーチでは、毎年冬に「冬鳥ウォッチ」を行っています。冬鳥ウォッチは、12~2月に皆さんがよく行く探鳥地で観察された、カシラダカ、カワラヒワ、アトリ、マヒワ、イスカ、ハギマシコの6種の最大の群れサイズを報告してもらうプロジェクトです。
冬鳥ウォッチと野鳥データベースのデータをあわせると、2010/2011年の冬季から2019/2020年の冬季まで、5年以上調査されている場所が17か所ありました。これらの情報から6種のこの期間の個体数の傾向を分析した結果、アトリは増加傾向と判定されましたが、カシラダカとカワラヒワは不明確と判定されました(図1)。マヒワ、イスカ、ハギマシコは、解析するにはまだ十分な情報が得られてなく、現状ではまだ何とも言えない状況です。これらの種は年によっては非常に大きな群れが記録される年もあれば、まったく記録されない年もあるので、傾向をつかむことに苦戦を強いられています。
しかしヨーロッパではこのように変動の大きい冬鳥についても個体数変化が明らかにされていて、その中にはこの冬鳥ウォッチの対象種も一部含まれています(Lehikoinen et al.2016)。そこでこの論文を紹介したいと思います。
ヨーロッパでアトリは減っている?
オランダ、デンマーク、スウェーデン、フィンランドでは、1980/81年から毎年、越冬する鳥の個体数を調査しています。Lehikoinen et al.(2016)は、この4か国で越冬する種の個体群の傾向が気候変動によるものかを調べるため、1980/81年の冬季から2013/14年の冬季までの34年間で、50種の個体数の傾向を分析しました。その結果、個体数が増加している種の割合が1番高いのは、北にあるフィンランドで、1番少ないのは南にあるオランダということが分かりました。この事についてこの論文では、気候変動が影響しているのではないかと考察しています。
そしてこの研究の対象種の中には、冬鳥ウォッチで調査対象でもあるアトリ、マヒワ、イスカも含まれています。アトリは4か国すべてで、減少傾向で、マヒワはフィンランドのみ増加傾向ですが、他の3か国では減少傾向にありました。また、イスカはオランダとデンマークでは増加傾向で、フィンランドとスウェーデンでは減少傾向ということが分かりました(表1)。
表1.アトリ、マヒワ、イスカの1980/81年から2013/14年までの個体群の年変化率(Lehikoinen et al.2016より)。
同じ場所で継続的に個体数を記録することが大切
各国の調査方法を表2にまとめました。オランダ、デンマーク、スウェーデンは「スポットセンサス法」という定点に決まった時間滞在し、見聞きした種と個体数を記録する方法を採用しています。一方フィンランドは「ラインセンサス法」という歩きながら見聞きした種と個体数を記録する方法を採用しています。
表2.4か国の調査方法の調査方法一覧(Lehikoinen et al.2016より)。
この研究では、冬鳥ウォッチの対象種のような、年によって観察される群れのサイズが大きく変動する種でも、継続的に同じ調査地での調査を続ければ、個体数の推移を分析できることが示されました。冬鳥ウォッチでも、今後も継続して同じ場所での調査を続けていけば、日本での越冬状況を分析できることが見込めます。ただし、この研究の対象になっている4か国と比較すると調査地点数が冬鳥ウォッチは圧倒的に少ないので、今まで以上にたくさんの方のご協力が必要です。
アトリは、少なくともヨーロッパの一部の地域では減少していることが分かりましたが、世界的も減少しているのでしょうか?それを知るには日本での越冬状況に関する情報は必要不可欠です。是非、冬鳥ウォッチにご協力ください。
また、すでに同じ場所で長期的に調査したデータがあれば、時々調査をしない年があっても、解析に用いることができますので、是非提供して頂けるとありがたいです。
紹介した論文
Lehikoinen, A., Foppen, R.P.B., Heldbjerg, H., Lindstrom, A., van Manen, W., Piirainen, S., van Turnhout, C.A.M. & Butchart, S.H.M. (2016). Large-scale climatic drivers of regional winter bird population trends. Diversity and Distributions, 22: 1163–1173.