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研究誌新着論文:ミサゴの育雛期の食性

バードリサーチニュース 2020年10月: 1 【研究誌】
著者:植田睦之

海で獲物を狙うミサゴ(撮影:三木敏史)

 

最近ミサゴを見る機会が増えましたよね。現在まとめている「全国鳥類繁殖分布調査」でも分布の拡がっている鳥の上位にあがっていて,特に内陸部への分布拡大が目立っています。こうした内陸部に進出したミサゴの食性については調査されていますが(Sakakibara et al. 2020),元々の生息地である海岸部での食性については意外と情報はありません。そこで巣のそばに設置したカメラでそれを明らかにしたのがこの研究です。

森航大・榊原貴之・野口将之・吉井千晶・東淳樹 (2020) 岩手県沿岸部におけるミサゴの育雛期の食性. Bird Research 16: A15-A24.

 岩手県沿岸部の2か所の巣のそばにカメラを設置し,繁殖期に給餌のために持ち込まれる獲物を2018年に調べたところ,両つがいともにサヨリなどのダツ目の魚の搬入回数が最多で,重量ではサバ科とボラ科,コイ科,アジ科の魚が多いことがわかりました。これらの魚類は表層や浅瀬,流れが緩やかな環境に生息しているものが多く,湾内や河口部が主要な狩場だと考えられました。
 全国鳥類繁殖分布調査では大型の魚食性の鳥や猛禽類の多くが,近年増加していることがわかっています。その理由として,水質汚染や農薬の影響で1970年代に個体数が減少していた過去があり,その後に,そうした影響の緩和とともに数を回復させていることが考えられています。ミサゴは海岸の崖で営巣し,外海で採食しているものが多いと思っていたので,水質汚染や農薬の影響は小さく,同様のことは当てはまらないのかな,と思っていました。しかし,もし,この論文の調査結果の様に,ミサゴの多くが湾や河口部に採食場所を依存していたとしたら,水質汚染や農薬の影響は大きかったのかもしれないな,と思いました。


論文の閲覧 http://doi.org/10.11211/birdresearch.16.A15

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