バードリサーチニュース

宮城ハクチョウ類調査2020 鳥インフルエンザによる給餌中止で東北のハクチョウ分布が変化

バードリサーチニュース 2020年7月: 2 【参加型調査,活動報告】
著者:神山和夫・佐藤望

宮城県には何羽のハクチョウがいるのだろう?

 2019年1月に、宮城県で企業ボランティア向けのハクチョウの個体数カウント講習会をしました。ハクチョウ類は夜間は安全な水辺をねぐらとして利用し、明るくなると餌場へと飛び立ちます。そこで日の出から2時間くらいの間にハクチョウ類のねぐらを回ったところ、千羽を超えるような場所がいくつもあったので、いったい宮城県全体では何羽のハクチョウがいるのか知りたくなりました。環境省と都道府県が毎年1月に実施しているガンカモ類の生息調査(以下では通称のガンカモ一斉調査と書きます)でハクチョウ類が数えられていますが、宮城県では朝9時から調査が始まるので、その時間までにかなりのハクチョウがねぐらを飛び立ってしまい、実際には、この調査でカウントされているよりたくさんのハクチョウ類がいるはずです。さらに、気になる問題もありました。ガンカモ一斉調査によると宮城県では例年、オオハクチョウの方がコハクチョウより多いという結果が出ています。しかし主要なハクチョウねぐらでカウントした調査では、コハクチョウが多くなっているのです(平泉2017, 2018)。

図1.宮城ハクチョウ調査によるねぐら分布。白丸:両種いるが総数80羽未満は評価せず。赤丸:コハクチョウがオオハクチョウの2倍以上/コハクチョウのみ40羽以上。青丸:オオハクチョウがコハクチョウの2倍以上/オオハクチョウのみ40羽以上。

 そこで、環境省と市民団体が協力して実施しているモニタリングサイト1000の一環として、上記のねぐら調査をされた平泉さんや日本野鳥の会宮城県支部、そしてバードリサーチの会員の皆さんと共に、2020年1月18~19日に宮城県でハクチョウ類が多い県北部の河川・湖沼で、早朝の飛び立ち前に一斉調査を行いました(以下では宮城ハクチョウ調査と書きます)。

 調査の結果、宮城県には少なくともコハクチョウが13,098羽、オオハクチョウが5,415羽いることが分かり、平泉さんが指摘していたように、同時期のガンカモ一斉調査の暫定値(コハクチョウ3,198羽、オオハクチョウ6,135羽)に比べてコハクチョウの方が大幅に多い結果になりました。さらに両種の分布を見ると、オオハクチョウは湖沼と河川を同じくらい利用していますが、コハクチョウは河川をねぐらにする傾向があるようです(図1、図2)。ねぐらとして利用されている環境は、湖沼ではヨシ原などで岸から隔てられた水面、そして河川では水面に浮かぶのではなく中州でできた浅瀬で水底に体が着く場所でした。寝ているあいだに流されないよう、止水か、流水では体を固定できる場所をねぐらにしているのでしょう。

 

図2.宮城ハクチョウ調査による河川と湖沼の個体数

 

給餌中止後にコハクチョウが増加

図3.ガンカモ一斉調査による東北各県のハクチョウ類の個体数変化。縦軸は1996-2019年の県内最大値に対する相対値。

 以前のバードリサーチニュースに、鳥インフルエンザのために東北全体でハクチョウへの給餌が中止された後、給餌場でハクチョウに混ざって餌をもらっていたオナガガモが雪の少ない関東へ移動したという記事を掲載しています。では、給餌場の主役だったハクチョウ類はどうだったのでしょう? ガンカモ一斉調査で東北各県のハクチョウ類の数を見ると、東北全体で給餌が中止された年に当たる2009年1月以降に青森県、秋田県、山形県、福島県でハクチョウ類の数が減り、その減少時期に宮城県と岩手県で個体数が増える年が多くなっています(図3)。給餌を受けられなくなったために、雪深い県にいた個体が、積雪が少なく地面の餌を見つけやすい太平洋側へと移動してきているようです。では、宮城県ではどちらの種が増加しているのでしょうか? ガンカモ一斉調査でもハクチョウ類全体の個体数の変化傾向は把握できていると考え、宮城ハクチョウ調査でコハクチョウが多かったところは以前からコハクチョウが多く、オオハクチョウが多かった場所は以前からオオハクチョウが多かったと仮定して、東北で給餌がなくなり宮城県のハクチョウ類が増えた2009年以降のガンカモ一斉調査のデータを集計してみました。すると、オオハクチョウが多い場所は増減が激しく傾向がはっきりしませんでしたが、コハクチョウが多い場所では給餌がなくなってから2015年までの間は個体数の増加が起きていました。つまり、コハクチョウが増えていた可能性が高そうです。このように最近10年ほどのあいだにハクチョウ類の越冬分布が大きく変わっていますので、今後どのようになっていくのか、皆さんと一緒にモニタリングを続けていきたいと思います。

図4.宮城ハクチョウ調査でオオハクチョウ、コハクチョウそれぞれが多かった場所での、ガンカモ一斉調査によるハクチョウ類の個体数変化。

参考文献

平泉秀樹. 2017. 宮城県と岩手県一関市周辺で越冬する2種のハクチョウ類の割合(環境省ガンカモ類生息調査と比較して).日本鳥学会2017年度大会要旨.

平泉秀樹. 2018. 環境省ガンカモ類生息調査結果と異なり宮城県と岩手県南部にはコハクチョウが多数越冬する(その2). 日本鳥学会2018年度大会要旨.

図4の個体数変化傾向はTRIMというプログラムで分析しています。ブログで詳しい説明をしていますので、こちらをご覧ください。

訂正

2020/10/16。調査結果のハクチョウ個体数を訂正しました。コハクチョウ13,522羽→13,098羽(アメリカコハクチョウ含む)。オオハクチョウ5,567羽→5,415羽。