日本は国土が狭いわりには複雑な海岸地形を持つため、世界で6番目の約35,000kmの長い海岸線を持っています。そのうち約13%にあたる約4800kmが砂浜を含む海岸線です。砂浜は、日差しや風を遮るものもなく、潮をかぶるし、植物も少なく、生物にはなかなか厳しい環境です。しかしながら、シロチドリやコアジサシなどはこの環境に対応していて、私たちは彼らの生息状況や生態を調べています。
シロチドリは頭頂と背中が薄茶色で、胸のところに黒い横帯があり、首回りがぐるっと白色なのが特徴です。似たような環境にコチドリやメダイチドリが生息していますが、コチドリは目の周りが黄色く、メダイチドリの夏羽は胸が赤橙色をしています。シロチドリは主に全国の砂浜で走り回りながらエサを探したり、繁殖している様子などを観察できます。
シロチドリの現状
シロチドリの最近の傾向を、2004年から2019年秋期までのモニタリングサイト1000の調査によるデータで見ると、春期と秋期は、大きく増加することなく緩やかに減少傾向にあります。冬期も2005年頃減少し、2011年からほぼ横ばいの状況です(図1)。まだ個体数はある程度観察されているので、すぐに絶滅の危険はありませんが、継続している減少傾向からシロチドリは絶滅危惧Ⅱ類(環境省レッドリスト2019:環境省)に指定されています。
少なくなっている原因としては,生息・繁殖場所となる砂浜の減少、人やペットの接近、私たちも確認したノネコやカラスなどによる捕食などによる繁殖の失敗などが考えられています。
最も影響を与えていると考えられる砂浜の状況は、壱岐ら(2017)によると、1970年代と2000年代の全国(未調査である鹿児島県は含まれていません)の砂浜の面積を比較した結果、1970年代から砂浜で2,988ha、砂浜植生(砂浜と海岸林の間の草地)で719haが減少し、2000年代の砂浜面積は17,063ha、砂浜植生は9,623haとなっており、砂浜と砂浜植生合わせて年間123haが減少していると報告されています。また防波堤など人工構造物まで浸食されて、既に砂浜が無くなっている場所も多くあると報告されていました。シロチドリ生息地のこれ以上の急な減少はないかもしれませんが、放置していてはこれ以上増える余地はありません。また砂浜の緩衝がないと防災面でも高潮などによって被害を受ける可能性があります。砂浜の浸食の状況を受けて国土交通省や自治体により海岸浸食対策や養浜などの砂浜の造成などの事業も行われています。シロチドリなど砂浜に生息する生物のためにより良い環境を整備するためには、本来どのような環境を好み、造成時にどんな準備をすれば効果的な保全につながるのか、また現在も生息している場所をどのように残していくのかなど知見を増やしていく必要があります。
砂浜バードチェック!
現在実施しているシギ・チドリのモニタリング調査は、渡り時期と越冬期を中心に行っているので、繁殖期の情報はそれほど充実していません。全国的な繁殖状況については、2002年の鳥類繁殖分布調査(第6回自然環境保全基礎調査:環境省)以降実施されていませんでしたが、最新の情報を得るべく現在バードリサーチが他団体と協力して全国鳥類繁殖分布調査を実施しています。ただ、調査ルートに海岸線が含まれているとは限らないため、広く砂浜での砂浜に生息する鳥類の情報を集めたいと考え以下の入力フォームを用意しました。
http://www.bird-research.jp/1_katsudo/shiro_chidori/sand/form/SandBirdCheck.html
砂浜に生息する鳥類4種(シロチドリ、コアジサシ、ヒバリ、ミユビシギ)に焦点を絞り 、入力を簡便にして比較的だれでも参加できるアンケート調査を行います。
詳しい繁殖状況などは今後として、今回は分布の情報および報告いただいた月日から繁殖地や越冬地に分け、衛星写真や植生図を基に環境選択性などを分析する予定です。
ご協力いただき、砂浜に関係する皆さまにご紹介いただければ幸いです。
参考文献
壱岐信二、廣澤一、赤羽俊亮、磯田真紀、村田眞司、松永義徳、塚本吉雄. 2017. わが国の海岸における汀線及び後背湿地の変化とその要因. 土木学会論文集B3(海洋開発), Vol. 73, No.2 I_492-I_497.