バードリサーチニュース

オオバンは全国的に増加、ところにより減少

バードリサーチニュース2018年7月: 3 【活動報告】
著者:神山和夫・加藤貴大

1980年頃からオオバンが増えている

写真1.オオバン

 オオバンは体全体がまっ黒でくちばしと額が白い水鳥です。カモに似ていますがオオバンはカモ目ではなくツル目に属しており、カモの水かきは足の指の間が膜でつながった構造をしているのに対して、オオバンの水かきは指の両側が平たく広がった構造をしています(写真1)。オオバンは1960年代までは秋田県以北で繁殖し、越冬期には西日本へ渡ってくる鳥でした。それが1980年代から日本での越冬・繁殖分布が広がり始め、1990年代以降は九州より北のほとんどの県で繁殖・越冬(沖縄は越冬のみ)するようになりました。特に越冬個体は驚くほどの急増ぶりで、最大の越冬地と考えられる琵琶湖では、野鳥の会滋賀の全域調査が始まった2005年1月に13,743羽だったのが、2016年1月には82,928羽になりました(図1)。このような急増は各地で起きているようですが、全国を網羅する環境省のガンカモ類の生息調査ではオオバンが調査対象になっていないため、国内の分布や個体数について詳しいことは分かっていません。そこで、全国を網羅とまでは言えませんが、バードリサーチに集まっているモニタリングデータを使ってオオバンの越冬個体数の変化を分析してみました。

図1.滋賀県のオオバンの個体数。棒は琵琶湖、線は滋賀県の琵琶湖以外の河川湖沼(データ提供 野鳥の会滋賀. 2004/05は2005年1月の実施)

2010年代にオオバンが増加した地点が多い

図2.分析したオオバン越冬地と増減傾向

 バードリサーチに集まっている水鳥のモニタリングデータには、会員の皆さんに参加していただいている身近なガンカモ調査や、環境省のモニタリングサイト1000・渡り鳥飛来状況調査などがあります。これらの調査では2004/05年以降の記録が多いので、この年を起点にして2017/18年までの13年間データを対象に分析しました。越冬期の個体数が安定する12-1月のオオバンの最大個体数が30羽を超えたことのある調査地を対象に、一般化線型モデルという手法を使って個体数の年変化が有意に増加した地点(増加グループ)、有意に減少した地点(減少グループ)を判定しました。それ以外の地点は個体数変化が小さいか、この分析手法では判定できなかった場所で、それらを変化なし・判定不能グループとしました(図2・記事の最後に全グラフのPDFがある)。増加グループの特徴は、2010年代に個体数が急増している地点が多いとことです。他のグループの調査地に見られるように2010年以前からオオバンが多い場所はあるのですが、増加している調査地では2010年代になってからオオバン増えた場所が多いため、オオバンが新しい生息地に進出してきているのかもしれません。一方、減少グループは今回の分析対象になっている2004/05年以前からすでにオオバンが多かった場所です。八幡川河口はオオバンが利用していた埋め立て地の淡水池に海水が入るようになったせいで数が減ったそうですが、それ以外の場所の減少要因は不明です。なお、琵琶湖は増加グループに入っていますが、最近二年では大きく数を減らしています。最後の変化なし・判定不能グループは以前からオオバンが多かった場所で、個体数の変化が小さいか、毎年の上下動が激しい場所です。一般化線型モデルという手法は年変化の上下動が激しいと個体数傾向を判定できないので、グラフの見た目では増減傾向がありそうな調査地がこのグループに含まれているケースもあります。

繁殖成功率の高まりと、越冬湖沼間の移動が増加の原因か?

 2010年代にオオバンが増加した越冬地が多いことには二つの理由が考えられます。ひとつめは、ロシア、モンゴルから中国北部にかけての繁殖地で繁殖成功率が高まったり、繁殖地域が広がったりしている可能性です。図3は韓国全土で1月に実施されている水鳥調査でのオオバンの総個体数で、2014年ごろから増加傾向にあります。日本の越冬地でも同じ頃から増加が始まっている地点が多いので、広範囲の越冬地で同時期に数が増えているということは、共通する繁殖地で個体数が増えている可能性が考えられます。そして二つめは、国内の越冬地間でのオオバンの移動で、個体数が減少した湖沼から別の湖沼へとオオバンの越冬地が移動していることが考えられます。例えば、琵琶湖でオオバンが減少し始めたのは2016/17年からですが、滋賀県の琵琶湖以外の河川湖沼のオオバンの数は、この年は前年の二倍になりました(図1)。翌年は減りましたが、滋賀県ではガンカモ調査の範囲外の水路などでオオバンの小群が増えており、すべてをカウントできなくなっているということです。変化なし・判定不能グループにグラフがある小川原湖でも、オオバンはピーク時期から1000羽以上も数が減っていますが、それと逆転するかのように陸奥湾の北部・南部や十和田湖で増加しています。秋に小川原湖へ飛来するオオバンは2010年代になってから増えているため(図4)、その個体が小川原湖に留まらず、周辺に移動しているとも考えられます。オオバンは水草の多い湖沼を越冬地にしているようですが、何らかの要因で水草が減少したために、他の場所へ移動しているのかもしれません。今後もオオバンの個体数が増え、新しい生息地への進出が続きそうです。身近な水辺で増えているオオバンに注目してみて下さい。

(左)図3.韓国で1月に実施されている水鳥調査でのオオバンの個体数。(右)図4.小川原湖で秋(11月)に実施している調査でのオオバンの個体数(データはモニタリングサイト1000より)。

すべての地点のグラフ(PDF)をダウンロード】

参考文献
橋本啓史. 2013. オオバン(生態図鑑). Bird Research News. Vol.10 No.2:6-7