バードリサーチニュース

研究誌新着論文:オオハクチョウ,カモ類の環境選択

バードリサーチニュース2018年5月: 3 【研究誌】
著者:植田睦之

 昼に池で見られたり,給餌場で足元までやってきたりするのを見ることが多いので,昼行性のように思われることも多いカモ類ですが,実は多くの種は夜行性です。昼は休息していて,夜になると水田などに採食に向かいます。こんな夜行性のカモや広い範囲を移動するハクチョウ類がどこで採食しているのかを知ることは,最近話題になることも多い鳥インフルエンザ対策などのために重要なことです。しかし夜の調査の難しさ故,日本で越冬するカモ類の夜の行動はあまり明らかにされていませんでした。GPS発信機を使ってそれを明らかにした研究が掲載されました。


嶋田哲郎・植田睦之・高橋佑亮・内田 聖・時田賢一・杉野目 斉・三上かつら・矢澤正人(2018)GPS-TXによって明らかとなった越冬期のオオハクチョウ,カモ類の環境選択.Bird Research 14: A1-A12.

 

 今回使ったGPS-TXは発信機内のGPSにより得た位置情報を無線で受信機に送信し,記録を残すシステムです。位置精度の誤差は6mで,測定範囲は平地など開けた環境では受信機の位置を中心に半径10km以上の範囲をカバーします。開けた環境で活動するガンカモ類を詳細に追跡するには有効なシステムです。またGPS-TXではリアルタイムに位置情報を取得することができるので,位置情報をえられた時点の環境をすみやかに確認できる利点もあります。こうした特性を生かして,2015/16年と2017/18年の越冬期における伊豆沼・内沼周辺のオオハクチョウ,オナガガモ,マガモの滞在位置を追跡し続けることで,その行動や環境選択を明らかにしました。
 その結果,オオハクチョウは昼行性で,夜は水面で休み,日中にハス群落の分布する岸よりの水面や給餌場所に滞在したほか,沼周辺の水田でも採食していることがわかりました。マガモは夜行性で,昼間は水面で休んでいいました。そして,夜間に水田で採食しました。面白かったのはオナガガモで,昼行性・夜行性いずれの特徴もみられました。おそらく観光客による給餌で十分に食物を賄えると給餌に依存して昼行性になり,夜は休んでいるのに対して,そうでないと夜間に水田へ採食しに行くようでした。
 また,利用している水田のタイプが種によって違い,オオハクチョウとオナガガモは周囲にたくさんある乾田で採食していたのに対して,マガモは湛水田を選択的に利用していました。さらに多くの個体・種の追跡を行うことでカモ類の越冬生態の違いを明らかにし,鳥インフルエンザの対策,あるいは風車の影響調査などに役立てていきたいと考えています。

日中と夜間のマガモの滞在位置

 

論文の閲覧 http://doi.org/10.11211/birdresearch.14.A1

 

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