バードリサーチニュース

研究誌新着論文:水位がオオハクチョウの採食場所に及ぼす影響

バードリサーチニュース2017年5月: 1 【研究誌】
著者:植田睦之

逆立ち採食するオオハクチョウ(北海道野付:神山和夫)


 「届きそうで届かない」イラっとすることありますよね。奥歯に挟まったエノキ,シートの隙間に落ちてしまった鍵,コピー機の奥に詰まった紙・・・。
 池で水草を食べているオオハクチョウ。彼らもそんなことを感じているかもしれません。水深が浅い時は良いですが,水位が上がってくると水草まで嘴が・・・。さあ,どうしましょう。そんなときのハクチョウの行動を調べた論文がBird Research誌に掲載されました。

嶋田哲郎・植田健稔・星 雅俊・森 晃:水位変動がオオハクチョウの採食場所選択に及ぼす影響.Bird Research 13: S5-S9.

 嶋田さんたちは伊豆沼で沼の水位とオオハクチョウの採食場所の関係を調べました。伊豆沼のオオハクチョウはハス群落,マコモ群落,水田,給餌場などで採食しているのですが,水位が上昇すると採餌しにくくなるハス群落とマコモ群落では,伊豆沼の水位の上昇とともに採食する個体が少なくなり,水田で採食するようになることがわかりました。
 また,自然再生事業の一環で(オオハクチョウのためではないですが)越冬期の水位を下げたところ,オオハクチョウの越冬数が増えたということです。このことからも水位がオオハクチョウの採食条件に影響していることがわかります。

 先月のニュースレターで紹介しましたが,中国の長江中流にあるソデグロヅルの最大の越冬地でもあるポーヤン湖にダムの建設が計画されています。それがつくられると通常は越冬期に下がる水位が下がらなくなると予想されています。水位が下がらないと潜水できない鳥は採食が難しくなってしまうと思われます。中国では農地に食物が少ないということなので,周囲の水田で採食ができる伊豆沼よりもさらに大きな影響が出そうで心配ですね。

論文の閲覧 http://doi.org/10.11211/birdresearch.13.S5