バードリサーチニュース

ガン・ハクチョウ類を守る東アジアの多国間協力 フライウエイパートナーシップ・ガンカモワーキンググループ会議の報告

バードリサーチニュース2017年4月: 4 【活動報告】
著者:神山和夫

 2017年4月7~8日に、中国北部のフルンボイル市で東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップのガンカモワーキンググループ会議が開かれました。日本からは牛山克己さん(宮島沼水鳥湿地センター)、嶋田哲郎さん(宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団)と一緒に神山が参加してきましたので、この会議について報告したいと思います。フライウェイパートナーシップとは、極東ロシアからオーストラリアにかけての渡り性水鳥生息地の関係者が保全や環境教育のために協力を進めるための枠組で、136カ所の重要な渡来地が登録されており、各国のNGO、研究者、政府が参加しています。ガンカモワーキンググループ(Anatidae Working Group)はフライウエイパートナーシップの専門部会のひとつで、ガンカモ類の保全について検討する集まりです。

 今回の会議では、東アジアに繁殖・越冬地があるガン・ハクチョウ類について関係国の研究者が情報を共有し、さらに不足している情報について調査に取り組んで行こうという話し合いが行われました。例えば、日本や韓国で1月に行われているガンカモ類の全国調査の結果は海外にはあまり知られておらず、こうしたデータを海外の研究者が利用できるようにしていくことは重要です。さらに、繁殖個体群のまとまりで保全を行うために、発信機を使った追跡調査で繁殖地と越冬地のつながりを解明するプロジェクトについての相談が行われました。

 

中国の越冬地でガン・ハクチョウ類が減少している

図1. 日本のハクチョウ類の個体数変化(環境省のガンカモ類の生息調査のデータから作成)。

 会議では各国の状況を話し合いました。日本では増え続けていたオオハクチョウとコハクチョウの個体数が2000年代半ばに止まったのですが(図1)、日本のコハクチョウの繁殖地のひとつである北極海沿岸のチャウン湾周辺で調査をしているロシアの研究者によると、近年は一腹卵数が減っていて、繁殖密度が高すぎるせいかもしれないということでした。広大なコハクチョウ繁殖地の一地点での事例ではありますが、こうしたことが日本の越冬個体数の増加が止まったことの原因になっている可能性もあります。

 東アジアのコハクチョウの主な越冬地は日本と中国ですが、個体数が安定している日本に比べて、中国では2004年の調査開始直後に個体数が急増したものの、2006年の13万羽が2011年には5万羽に減っています(図2)。一方、ガン類では、ヒシクイの越冬数は日中韓ともに安定していますが、マガンは中国では急減し、日本と韓国では増加しています。モンゴルが主要な繁殖地であるサカツラガンはほとんどが中国で越冬しますが、こちらも数の減少が進んでいます。

図2. 日本・韓国・中国のコハクチョウ越冬数の変化(Jia et al. 2016をもとに作成)

 

中国の減少要因は生息地破壊と狩猟

中国でのガンカモ類の減少要因は、生息地破壊や狩猟(農薬を使った毒殺猟が広く行われています)、家禽との餌場の競合などが指摘されています。ガン・ハクチョウ類は日本や韓国、ヨーロッパや北米でもそうですが、自然湿地だけでなく農地で米やトウモロコシの落ち穂を採食しています。しかし、中国では自然湿地だけにしか生息していないのです。これは人間のいる場所に近づくと狩猟されてしまうことや、刈り取り後の農地に家禽が放たれるので落ち籾が残っていないのではないかということが会議では指摘されていました。さらに中国最大の湖で、サカツラガンの大半と多くの水鳥の越冬地になっている長江流域のポーヤン湖にダムの建設が計画されています。ダムによって通常は水位が下がるはずの冬期でも水位が高いままになるため、ガンやハクチョウが首を伸ばしても水草に届かなくなってエサを食べることができず、越冬地として適さなくなることが強く懸念されています(写真1)。

写真1. ポーヤン湖周辺の湿地で採食するヒシクイとハクチョウ(種不明)。(撮影:Cao Lei)

 

ヒシクイの識別で日本が貢献

図3. ヒシクイが東アジア個体数の1%以上越冬する生息地(Jia et al. 2016をもとに作成)。

会議で検討された課題の中で日本のノウハウを活かせるものとしては、ヒシクイ亜種を識別するイラストを作ることが決まりました。東アジアのヒシクイには亜種オオヒシクイと亜種ヒシクイというふたつの亜種があり、韓国東海岸から日本にかけて亜種オオヒシクイが多く、韓国西海岸から中国にかけては亜種ヒシクイが多いとされています(図3)。ただ、ヒシクイの亜種の識別は頭とクチバシの形で判別するのですが、よいフィールドガイドがないので日本の計測値から識別資料を作り、中国の調査で利用しようということになりました。

ところで、このような国際会議では調査を強化しないといけない分野がいろいろ指摘されるものの、結局はそれぞれの国の研究者が取り組むしかないので、会議で話し合ったから解決するという問題は少ないのが実情です。しかし会議そのもののテーマに加えて、このような場で出会った各国からの参加者が個人的に親しくなって共同で研究をしていくことも、会議の成果のひとつだと言えるでしょう。今回の会議で私は、日中でハクチョウの幼鳥率を比較して繁殖成績が異なるかを調べることや、韓国で日本のガンカモ類の生息調査と同じような全国調査をしている担当者とデータを交換して比較分析をすることなどを相談してきました。この記事で図を引用している中国のJiaさんの論文は日中韓のガン・ハクチョウ類の個体数変化をまとめたものですが、これは2013年に韓国で開かれたフライウエイの会議で私が出会った中国・韓国の研究者と共同で執筆したもので、この論文が今回の会議でガンカモ類の個体数を議論するときの基礎資料になっています。

 

中国でも市民参加型のモニタリング調査が必要

今回の会議で指摘された課題の中に、中国のガンカモ調査は研究者だけが行っていて、多くの越冬地を網羅することができないということがありました。広い中国でガンカモ類の越冬数を把握するには、日本や韓国、欧米諸国で行われているように、バードウォッチャーが主力になったモニタリング調査をしていくことが不可欠です。今後、ガンカモワーキンググループの会議はモンゴルや日本で開催することが計画されていますが、次回はぜひ中国のバードウォッチング団体にも参加してもらって、日本や韓国の参加者から市民参加型調査のノウハウを伝えられたらいいなと思いました。

 

参考文献

Jia, Q., Koyama, K., Choi, C.-Y., Kim, H.-J., Cao, L., Gao, D., Liu, G. and Fox, A.D. (2016) Population estimates and geographical distributions of swans and geese in East Asia based on counts during the non-breeding season. Bird Conservation International. 1–21.

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