バードリサーチニュース

図書紹介:目立ちたがり屋の鳥たち 面白い鳥の行動生態 江口和洋 著

バードリサーチニュース2017年4月: 3 【図書紹介】
著者:佐藤望

 長年、第一線で鳥類の行動生態学を研究されていた江口和洋氏による本が出版されました。オーストラリアやニューカレドニアの調査で大変お世話になった者として、本書の出版は大変嬉しいと同時に、是非会員の皆様にも読んで頂きたく、ここで紹介します。

 本書は副題に”面白い鳥の行動生態”とついている通り、鳥の様々な行動が話題に出てきます。たとえば、オーストラリアやニューギニアに生息しているニワシドリ類たち。雄たちは巣ではなく、あずまやという”舞台”を作り、雌を誘います。本書ではニワシドリについて長期にわたり調査されてきた江口氏の研究を中心に、最新の研究がまとめられています。また、このような世界的にみても珍しい行動だけでなく、多くの鳥類で知られるつがい外交尾や、日本ではオナガなどで知られるヘルパーについて(協同繁殖)など、行動生態学の中でもホットなテーマの最新の研究が紹介されています。

 これらの面白い行動を知るだけでも十分に楽しめますが、それらの行動がなぜ進化したのかを行動生態学的なアプローチから本書は説明しています。たとえばつがい外交尾。ツバメなど多くの鳥類は一夫一妻で子育てをしますが、分子生物学の発展によって、つがい相手以外と交尾をすることが分かってきました(ツバメの巣の中にいるヒナと餌を運んでくる父親のDNAを調べると親子かどうかが分かります)。鳥がつがい外交尾、つまり浮気をする事だけでも興味深いのですが、なぜ鳥が浮気をするのかはまだ結論がでていない、現在進行中の研究テーマです。本書では、浮気による利益とコストを説明して、なぜ浮気をするのかに迫ります。

 行動生態学を扱った本はたくさんあり、もっとも有名な本は、行動生態学の教科書ともいえるデイビス・クレブス・ウェストの「行動生態学(第4版)」で、鳥類の研究も多く登場しますが、他の生物と共通しているテーマが多いです。一方、本書は鳥の行動や形質に絞っているので、鳥類についてより深く知る事ができます。たとえば、鳥類の特徴の1つとして、卵を産む事があげられます(鳥類は例外なく卵を産みます)が、卵は種によって様々です。ニワトリの卵には模様はありませんが、ウズラの卵にはありますし、青い卵や緑の卵などを産む鳥もいます。本書ではこのような卵の色や模様が進化したのがなぜかを考える上で様々な仮説を紹介しています(大きく分けても9つも仮説があるそうです)。たとえば脅迫仮説。青い卵はなんと、メスがオスに抱卵させるために卵が青く進化したという仮説です。こういった鳥類の特徴に焦点をあてられるのが鳥類に限定している本書のメリットだと思います。

 本書で一番、驚いたのは情報の新しさです。各章ごとに参考にした文献リストが最後に掲載されていますが、新しい文献が網羅しています。そのため、鳥類の行動生態学を専門としていた私でも知らない情報がたくさんありました。新しい知見をこれだけ取り入れていて、かつ体系的にまとまった日本語の本はなかなか出合う事ができません。

 一点、注意しておきたい点として、本書は学術書ではないのですが、一部、専門的な知識が必要なところもあるように思えます。専門用語も出てくるので、ある程度の知識がないと読みにくいかもしれません。多少難しくても、鳥類の不思議の数々が紹介されているので、そこだけ目を通して、難しいところはとりあえず読み飛ばしても良いと思います。その中から興味があるところは本腰を入れて読めば、理解した時の喜びも大きいと思います。

【書名】目立ちたがり屋の鳥たち-面白い鳥の行動生態
【著者】江口和洋
【体裁】A5変形,254頁,並製
【定価】3024円 (税込)
【発 行】東海大学出版部
【ISBN】ISBN978-4-486-02140-7

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