最近のぼくには,朝の8時と夜の8時の楽しみがあります。朝ごはんと晩ごはんかと思いましたか? 違います。追跡中のオオハクチョウがその日どこにいたのか,位置情報が送られてくるのです。
2016年11月17日,伊豆沼サンクチュアリセンターの嶋田さんと高橋さん,元我孫子市鳥の博物館の時田さん,内田さん,仙台の杉野目さん,そしてバードリサーチからは植田と三上が加わった調査チームで1羽のオオハクチョウにGPS発信機を装着し,その移動経路の追跡を開始しました。
これまで風車のバードストライクというとオジロワシやオオワシが注目されてきましたが,風車の建設が全国に広がったのに伴い,ガン類,ハクチョウ類についても注目されるようになりました。ガン類,ハクチョウ類については衛星追跡により,渡り経路は明らかにされていますが,国内の越冬地間での動きについてはあまりよくわかっていません。そこでその動きを知ろうと,今回追跡調査を行ないました。ちょうど今年から,安価で追跡ができる韓国製のGPSが国内でも使えるようになったので,その試験も兼ねて実施したのです。現在もその動きを追跡中ですが,オオハクチョウは11月23日に伊豆沼から南下を開始し,福島県,茨城県古徳沼周辺を経て,現在,水戸近くの大塚池公園に滞在しています。
新型GPS発信機 WT-300s
今回,使っているのは韓国製のGPS発信機です。これがなかなかの優れもの。これまでよく使われてきた衛星追跡用の発信機は約50万円もして,さらに衛星使用料が何十万円もかかるので,大きな研究費が手に入るか,ブルジョワでないと追跡することができませんでした。しかし,この発信機は1600$と,安くはありませんが,それでも衛星発信機と比べるとかなり安く,かつ,衛星使用料などほかの費用要らずで追跡することができるのです。もちろん,良いことばかりではありません。データの収集に携帯電話回線を使っているので,世界中どこに行っても位置がわかる衛星追跡と違い「圏外」に行ってしまうとデータを受信することができません。ただ,圏外でもGPSによる測位は続けられていて,1000個のデータを発信機内にストックしてくれて,携帯のつながるところにその鳥が来たら,その間どこにいたのか知ることができます。
水路に嵌ってさあ大変
この追跡調査,ずっと順調に進んでいたわけではありません。ハクチョウが古徳沼周辺に行ってから,一時期,位置情報が受信できなくなってしまったのです。「もしかしたら死んでしまったのでは…」と,不安になり,わずかに届いた情報を基に現地に行ってみました。位置情報の送られてきた水田に行ってみると…。いました。幅2m深さ60㎝くらいの水路に嵌ってしまい,飛び立つことも,登ることもできず,出られなくなっていたのです。水路の下流の開けた場所までハクチョウを徐々に追い立ててやると,無事水路から飛び立っていきました。
なぜこんな狭い水路に嵌りこんでしまったのでしょうか? この場所は周囲を高圧線に囲まれたような場所で,飛行中に高圧線を避けようと地上に降り,さらに地上で人かタヌキなどに脅かされ,慌てて水路に飛び込んで,そのまま出られなくなってしまったのではないかと想像しました。たった1羽の追跡しているハクチョウがこんな事態に陥ったことを考えると,全国でかなりの数のハクチョウが,水路に嵌って出られなくなっているのでは,と心配になります。
現在は水戸の大塚池公園に
水路を飛び立ったハクチョウは,現在水戸の大塚池公園にいます。今後も追跡を続けることで,越冬期のハクチョウの移動状況や渡り経路がみえてくると思いますし,新型発信機の有用性がわかったので,さらに多く追跡することで国内移動が明らかになっていくと思います。ハクチョウの様子はこのページで見られるようにしています。興味のある方はご覧ください。そして,このハクチョウをご覧になった方がいらっしゃいましたら,ぜひ,その様子をお教えいただけたら幸いです。
ハクチョウ追跡のページ:https://drive.google.com/open?id=1NWN-wRw8NXnFUCsM445Ec0ipkhM&usp=sharing