バードリサーチニュース

シギ・チドリ類調査の交流会を神田で開催しました。

バードリサーチニュース2016年12月: 3 【活動報告】
著者:守屋年史

 バードリサーチが事務局を務めているモニタリングサイト1000シギ・チドリ類調査では、毎年場所を変えて、調査員交流会を行っています。例年は、湿地のある都市や水辺の観察施設で開催するのですが、今年は11月13日に東京の神田駅近くのホールを借りて開催しました。

 これにはシギ・チドリ類の知名度を上げるという狙いがありました。昨年度のシギ・チドリ類調査の検討会で、日本国内で減少傾向にあるシギ・チドリ類の憂うべき現状を広く知らせる必要性が指摘されました。しかしながら、シギ・チドリ類の認知度があまりにも低いため、現状を訴えるにしても、まずはシギ・チドリ類という鳥の存在を知ってもらわなければなりません。そこで今回の交流会は、シギ・チドリ類のことをあまり知らない人にも気軽に参加してもらえるように、アクセスのよい東京で交流会を開催することにしました。また内容も、モニタリング調査の枠組み、シギ・チドリ類の全国調査の結果、国内の各地域におけるシギチドリの状況、繁殖地ロシアの話、普及に携わる観察施設の方々の工夫とポスター展示、写真コンテストと様々な人に興味を持ってもらえるようにしてみました。

シギ・チドリ類の現状を伝える

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写真1:生物多様性センター大木さんによる開会の挨拶

 まずは、環境省生物多様性センターの大木庸子さんから開会挨拶をいただき、早速モニタリングサイト1000という調査の枠組みについて説明してもらいました。多様な調査分野があるモニタリングサイト1000は、年間4200人もの参加があり、そのうち市民調査員は3500人参加しています。シギ・チドリ類調査も多くの市民調査員に支えられています。また、いきものログというデータベースによりデータの集積を図って有効活用できるような体制に整えるとのことです。
 続いて、私が全国調査の結果について地域別の傾向とシギ・チドリ類各種の季節ごとの増減傾向を示しました。全体的に減少傾向にあるシギ・チドリ類ですが、シロチドリのように減少傾向が続く種もあれば、逆に増加している種もあります。秋期に減少傾向が見られる種が多く、繁殖などに問題があるのかもしれません(図)。詳細に傾向を見ていくことで原因を探っていきたいと考えています。

図:シギ・チドリ類40種の増減傾向まとめ 赤:減少傾向、青:増加傾向  2012年を基点に階層ベイズモデルにより分析。P<0.05) ー:増減の傾向が有意でなかった。 ×:データが少ないなど。過分散で収束しなかった。

図:シギ・チドリ類40種の増減傾向まとめ
  2012年を基点に分析。
  赤:減少傾向、青:増加傾向
  -:増減の傾向が有意でなかった。 
  ×:データが少ないなど。過分散で収束しなかった。

 次に各地の報告として、山城正邦さんが沖縄各地の干潟と現状、熊本の高野茂樹さんが球磨川河口におけるシギの環境の選択性とその出現のパターン、大阪の高田博さんが大阪湾・西日本の干潟におけるシギ・チドリ類の動態、千葉の桑原和之さんが千葉や東京湾の状況をそれぞれ話していただきました。各地とも干潟という環境は開発や管理などの面で厳しい状況にあります。ただ、有明海など大型の干潟はそれほど大きな変化がないという報告がありました。大規模な干潟と小規模な干潟で、影響の度合いが異なるのかもしれません。また、桑原さんから調査員自体が絶滅危機にあるという話題もしてもらいました。これは継続した市民調査を行なう上での大きな課題となっています。

湿地や水辺の鳥を知ってもらうために

写真2:ロシアのシギ・チドリについて話す佐藤さんと澤さん

写真2:ロシアのシギ・チドリについて話す佐藤さんと澤さん

 午後からは、多くの方にも興味を持っていただけるように、今年、ロシアのレナ川にコクガンの調査に行かれた行徳野鳥観察舎友の会の佐藤達夫さんとバードライフインターナショナル東京の澤祐介さんに、ロシアで観察されたシギ・チドリ類と調査についての話題をお願いしました。ロシアの自然環境や調査の工程など写真を交えて、楽しく話をしていただきました。凍土が溶けたり固まったりを繰り返した地形(バリックとポリゴン)が、日本の水田環境に似ているというのが興味深かったです。また、シギ・チドリの巣が周囲の植生によって隠れているかどうかといった調査も行なったそうです。日本国内では、繁殖しているシギ・チドリ類は限られますが、さまざまなシギ・チドリの繁殖生態の研究が可能な環境は羨ましい限りです。

後半は、「湿地や水辺の鳥を知ってもらうために」と題して、谷津干潟の芝原達也さん、葛西臨海公園鳥類園の大原庄史さん、藤前干潟の梅村幸稔、大阪南港の和田太一さんらに施設への来園者にどのようなプログラムを行っているかの事例や協同作業について紹介していただきました。体験を重視し、観察しやすいものから見せるとのことでした。初心者に観察しづらいシギ・チドリを見せようとするよりも、まずは自然全般に対する興味を持ってもらうことが重要のようです。SNSなどを使った多様な層への働きかけの事例も参考になりました。なにより人材育成などじっくり取り組める環境として観察施設の存在は重要だと感じました。千葉の行徳野鳥観察舎や大阪の南港野鳥園などの閉鎖は、将来世代にとって大きな損失ではないかと思います。

写真3:ポスター会場の様子

写真3:ポスター展示の様子

 また、ポスター発表も12点の参加がありました。ジシギ類の渡り、何度も同じ場所を通過するキアシシギ、モニタリングサイト1000のデータを用いた研究など、ポスターの前で著者と来場者が意見交換し盛況でした。口頭発表が苦手な方は、次回はポスター発表でのご参加はいかがでしょうか。お待ちしています。

 さらにシギ・チドリ類という鳥の姿を見てもらう目的で、シギ・チドリ類の写真コンテストも実施しました。募集期間があまり長くとれなかったのですが、約20名の応募があり、来場者の投票により星野七奈さんのオオソリハシシギが最優秀賞に選ばれました。写真などを使ってシギ・チドリ類の魅力を伝えることも一つの方法だと思います。

課題のアウトリーチ

全体で80名程の参加者があり、充実した交流会になりました。
反省点として、どうしても内容が専門的になるため、このような調査結果やシギ・チドリ類の現状をわかりやすく伝えるには、まだまだ工夫が必要だと感じました。我々の活動に興味を持っていただける方は、ある程度生物や自然に興味のある方だと思います。ただ、無関心・もしくは知らない層に働きかけていくことも、今後保全などを進めていく上では大切だと考えており、今回の経験を普及啓発などにも活かしていきたいと考えています。

モニタリングサイト1000シギ・チドリ類調査交流会要旨集