冬鳥がやってくる季節になりました。みなさんのまわりの今年の冬鳥の様子はいかがでしょうか?
夏鳥が減っているとか,繁殖期の鳥の変化についてはよく話題にのぼります。しかし,越冬期の鳥の変化についてのそんな報告はあまりありません。それは越冬期の鳥の個体数の変化を把握するのが難しいためです。冬鳥の渡来状況は,年により地域により大きく変ります。そのため1地点で観察していると,たくさん渡来する年と少ししか渡来しない年の変動が大きく,減少傾向にあるのか,それとも増加傾向にあるのかを知るのは容易ではありません。また留鳥も冬には群れをつくって移動する種が多いため,センサスをしても,その群れに会うかどうかで記録できる数が大きくかわってしまい,個体数の増減を知ることが難しいのです。
こうした難点を解決し,冬の鳥たちの増減を明らかにするためには,長期的,多地点広域の調査が必要です。環境省は日本の様々な生態系に約1000か所の調査地を設定し,長期にわたってモニタリングする「モニタリングサイト1000事業」を行なっています。この調査はまさにそんな調査です。これまでの調査の結果から,この「モニ1000」で越冬期の鳥の個体数の増減がモニタリングできそうなこと,そしてルリビタキが減少している可能性があることが見えてきました。
モニタリングサイト1000の森林と草原の鳥類調査では,2009年から全国の15か所(2013年からは17か所)の調査地で毎年,越冬期の鳥の調査を行なっています(図1)。各調査地点には5か所の定点が設置されていて,冬期に10分間の調査を2日に分けて合計4回行なっています。この調査で記録された各種鳥類の個体数をTRIMというソフトウェアを使って解析してみました。このソフトは,Statistics Netherlandsがヨーロッパの鳥類の個体数変化を解析するために開発したソフトウェアで,どなたでもダウンロードして使うことができます。英語のソフトウェアですが,日本語版のマニュアルをバードリサーチで整備して公開していますので,もしご興味のある方は使ってみて下さい。
モニ1000の手法で個体数の動向の把握が可能
少ない調査地点ではなかなか増減の傾向をつかみにくい冬の鳥のデータですが,多くの地点で継続してデータを集めることで,増減の傾向をつかめるようです。2009年の記録数を1とした各種鳥類の相対的な個体数の変化とその信頼区間(点線)を見てみると,アオゲラ,アカゲラは信頼区間の幅が広く,増減の傾向をつかむことが難しそうなことがわかります(図2)。しかしヒヨドリ,エナガ,ヤマガラ,ルリビタキなど,それ以外の多くの主要種は信頼区間の幅が狭く,個体数が増減した場合に,それを把握することができそうです。
減っている可能性のあるルリビタキ
こうして把握できた多くの種には,2009年から2014年のあいだに個体数に有意な増減はありませんでした。その中で,ルリビタキだけは減少している傾向がありました。ルリビタキが繁殖しているのは鳥の調査があまり行なわれていない亜高山帯なので,これまでルリビタキが減少しているという報告はありませんでした。モニタリングサイト1000の調査地でルリビタキが繁殖期に多く記録されている長野志賀高原の繁殖期の記録を見ると,個体数が2009年から13羽→7羽→8羽→8羽→7羽→5羽と推移しており,やや減少しているようにもみえます。しかし,富士山で調査している人から話を聞くと,あまり変化はないとのことでした。今後も越冬期,繁殖期の記録の変化を注視していき,減少しているようならその原因について考えていきたいと思います。
個体数の変化の大きい鳥に見られる共通点
もう1つわかったのは,個体数の年変化の大きい鳥たちの多くに共通のパターンが見られたことです。年により観察できる数が大きく変化する鳥としては,ツグミ類,アトリ類が有名ですが,ヒガラも年変化が大きいことがわかりました。そして,これらの種は2011年と2013年に多く記録され,2012年と2014年に少なかった点で一致していたのです。2011年と2013年は山の木の実が多かったと言われた年です。記録数の多少は木の実の豊凶と関係があるのかもしれません。引き続きこれらの種の記録数の年変動と木の実との関係について注目していきたいと思います。