あけまして、おめでとうございます。
バードリサーチでは、2016年1月10~31日まで、カモの性比調査を実施します。ご近所の池や川でカモの雌雄をカウントするだけの簡単な調査ですので、どうぞご協力をお願いいたします。
調査方法やこれまでの分析結果は、こちらのページをご覧下さい。
さて、いろいろな生きもので性比は1:1ではありません。カモもそうですが、いちばん身近な例は私たち人間でしょう。日本の2014年の出生時性比は男:女=1.06:1で、生まれてくる赤ん坊は男の子の方が多いのです。これは日本だけの現象ではなく、他の国でも同じような男女比率になっているそうです。しかし男性の方が短命なため、ある年齢で男女比は1:1になり、さらに年齢が高くなるにつれて女性人口の方が多くなっていきます。
バードリサーチが行っているカモの性比調査は性比に地域差があるかを調べることが目的ですが、すべての調査地で性比を見てみると、マガモやコガモは雌雄が半々に近い調査地が多いのに対して、ホシハジロやオシドリはほとんどの調査地でオスの方が多く見られました。ただし、カモの性比調査で私たちが見ているのは卵からヒナが孵化した時の性比ではなく、その時点で生存していた個体の性比です。私たちが観察しているカモの性比は、孵化したときの性比そのままなのでしょうか、それとも雌雄どちらかが短命なために性比は変わってしまうのでしょうか?
孵化時の性比は 1:1
ラトビアのPeter Blumsさんらが野生のハシビロガモ、ホシハジロ、キンクロハジロの卵から孵化した直後のヒナを調べたところ、いずれの種でもオス・メスの比率は1:1に近く、性比の偏りは見られませんでした。繁殖時期、ヒナの体重、一腹卵数、メス親の体重、メス親の年齢を考慮して分析しても、やはり偏りはなかったそうです。
このことからBlumさんらは、カモの仲間は孵化した後の成長する過程で、メスの方が死にやすいのではないかと考えました。そしてその理由として、カモではオスの方がメスよりも優位で、よい餌場を占有している可能性を挙げています。さらに、つがい形成をしたメスは優位性が上がるのでよい餌場に行けるようになりますが、つがい形成時期が遅いホシハジロのような種では、越冬中のほとんどの期間でメスが劣位にあるためにエサ不足になるとメスの死亡が増え、そのせいでオス比率が高くなっているのではないかと推測しています。
メスの生存率が低い台湾のオシドリ
次に、実際に雌雄の生存率を調べた調査を見てみましょう。Yuan-Hsun Sunさんたちが台湾中部の大甲渓で1999~2003年に実施したオシドリの調査で、メスのオシドリはオスに比べて生存率が低いことが分かりました。幼鳥の性比はオス:メス=0.92:1でわずかにオスが少ない程度なのですが、成鳥は2.1:1で、オスの数が2倍以上になります。さらに76羽のオシドリに発信機を付けて追跡調査をしたところ、12ヶ月生存率はオスが0.8なのに、メスは約半分の0.44しかなく、最大の死亡原因は捕食でした。
メスの死亡は春から秋にかけて多くなっており、この時期のメスは、ヒナを連れている、換羽後の飛べない時期に単独でいる(オスは換羽後群でいる)、つがいのオスによる防衛がないことなどが、高い死亡率の原因ではないかと指摘しています。
バードリサーチの性比調査の結果で考えてみても、Blumさんらが指摘しているように、雌雄が半々になっているマガモやコガモは秋からつがい形成が始まっているので、メスもよい餌場にいられ、オスによって防衛されるために死亡率が低いのかもしれません。一方、オス比率が非常に高いホシハジロは、春先になって、ようやくつがいでいるところが観察されるようです。子育てをするメスの身に危険が多いことは想像が付きますが、つがい形成が早いかどうかも生存率を決める要因になるようですね。
紹介した論文
Blums P & Mednis A (1996) Secondary Sex Ratio in Anatinae. Auk 113: 505–511.
Sun Y-H, Bridgman C L, Wu H, Lee C-F, Liu M, Chiang P & Chen C (2011) Sex Ratio and Survival of Mandarin Ducks in the Tachia River of Central Taiwan. Waterbirds 34: 509–513.