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生態図鑑 オオヒシクイ

【生態図鑑】
著者:向井喜果

オオヒシクイ

○英名 Middendorf’s Bean Goose

○学名 Anser fabalis middendorffii

○分類 カモ目 カモ科

○鳴き声
 ガハハンとマガンよりも少し低い声で飛翔中によく鳴く.

○生息環境
 繁殖地では,ツンドラのマツ,モミ,カバが植生する森林地帯や木がまばらに生えた砂礫の高地の川や湖沼で営巣する.越冬地では,周囲を水田に囲まれた湖沼や河川を利用し,基本的には夜間にねぐらや採餌場所として湖沼環境を,昼間は採餌場所として周辺農地で過ごす.

○繁殖システム
 一夫一妻でペアは生涯続く.繁殖開始齢は2-3齢とされ,メスが抱卵を行い,オスは周囲の警戒を行う.基本的に両親で育雛を行う.

○食性と採食行動
 植食性.繁殖地では主にスゲ類を採食し,ヒナは昆虫やエビや魚などの動物質のものも採食する.オオヒシクイは越冬地では,湖沼内でマコモやヨシの地下茎,オニバス,オニビシなどを採食する(向井 2017).オオヒシクイは時に逆立ちしながら水中もしくは半分土の中に頭を入れて、これらの浮葉植物・沈水植物を採食する .オニビシの実は結実後水底に沈んで越冬するが,オオヒシクイは上述の索餌行動により実を一つずつ拾い取り,鋭い4本の棘を嘴の基部を用いて除去した後,喉に近い部分で砕いてから呑み込む.稲刈り後の水田でイネの落穂や再生稈(二番穂)も採食する(千葉ら1993).特に,イネの再生稈では,嘴で引き抜いたのち,嘴ですり合わせるように茎基部を採食し,茎上部は食べ残す採食行動が観察されている(千葉ら1993).また水田面や畦,農道に繁茂しているスカシタゴボウ,タネツケバナやイヌビエ,メヒシバといったイネ科草本を採食する(向井ら2017).渡りの時期には青森県や北海道でムギやデントコーン,牧草などの採食も確認されている. 

水田の集約化と餌場の劣化
 
越冬地では,夜明け頃,ねぐらである湖沼から一斉に飛び立ち,周辺水田へと採食に出かける.オオヒシクイは50~3,000羽ほどの群れを形成し,ねぐらに近い水田を特に好んで利用する.食性解析の結果から,越冬期間を通じてイネが食物構成の60%以上を占めていることが明らかとなっており(向井ら2017),収穫後の稲株から生えてくる再生稈は本種が越冬する上で必要不可欠な餌種となっている.しかし近年,水田の集約化が進んでおり,暗渠排水の設置による乾田化や,稲刈り後に稲株を土壌に鋤き込む秋耕起の実施は,再生稈や落穂の資源量の減少を引き起こす.また,福島潟ではオオヒシクイが圃場整備により大区画化した水田を避けて小区画水田を選好しているのが観察されており,これらの水田環境の改変によりオオヒシクイの好適な採餌環境が失われつつある可能性がある.越冬個体群が必要とする生息環境を保障するためには,周辺水田における潜在的に好適な採餌環境を明らかにした上で優先的保全区域を指定し,保全区域内における環境整備や餌種の生育を推進することが重要である.

◆その他掲載記事
 ・全長,翼長,尾長,嘴峰長,ふしょ長,体重
 ・羽色
 ・分布
 ・巣
 ・卵
 ・抱卵・育雛期間
 ・渡り
 ・発電事情に越冬や渡りが脅かされる??

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