バードリサーチニュース

アオジは減っている? それとも分布が北上? 全国鳥類繁殖分布調査の結果から

バードリサーチニュース2019年9月: 1 【活動報告】
著者:植田睦之

 2016年にスタートした全国鳥類繁殖分布調査は4年目のシーズンを終えました。皆さんのご協力のおかげで2022コースの調査結果が届き,全体の86%のコースの調査が終了しました。

 これまでのニュースレターでは,夏鳥や外来鳥など,分布が拡大した種について,その変化を分布図として示してきました(図1)。それは,分布の拡大している種については,たとえ調査ができていない地域があったとしても,「分布が拡大した」ことを自信をもって示すことができるからです。しかし,分布の縮小している種については,本当に分布が縮小しているのか,それともまだ調査が不十分なため,そのように見えるだけなのか判断することが難しく,示すことができずにいました。
 その後,調査が進み,この問題も小さくなってて,分布の縮小している鳥についても自信をもって示すことができるようになりました。その変化をご覧ください。

図1 分布が拡大しているサンショウクイとサンコウチョウ。:繁殖を確認,:繁殖の可能性大,:繁殖の可能性あり

 

分布が縮小している小型の魚食性の鳥たち

図2 ヤマセミの分布の変化。マークは図1と同様

 これまで,調査を実施した調査地の過去の調査結果との比較から,魚食性の小型の鳥たちが減少していることがわかっていました。ゴイサギやコサギ,ヤマセミなどですが,今年はデータが増えたことにより,これまで記録地点数が少なくて評価が難しかったコアジサシ,ササゴイなども減少傾向にあることが見えてきました。また,昆虫も多く捕る種ですが,アマサギも減少していました。図2にはヤマセミの分布変化を示しました。分布図でみても1970年代,1990年代そして今回とどんどん分布が縮小していることがわかります。ただし北海道だけは,ほかの地域のようには縮小していません。なぜ北海道のみ違うのかはわかりませんが,こうした地域差を考えていくと,彼らの減少の原因がみえてくるかもしれません。

アオジの分布は北上している?

図3 アオジの分布変化。南端から分布が縮小しているのがわかる。マークは図1と同様

 こうした全国的に減少している鳥以外にも分布が縮小している鳥がいました。アオジです。アオジの主要な生息範囲である北海道から北東北にかけてのエリアでは変化が見られませんが,それより南のエリアで分布が縮小しているのです。以前は西日本の一部でも生息が確認されていましたが,今回はほとんど記録されておらず,中部地方の分布もまばらになってきています。
 標識調査をしている人,特に北海道の人からは,アオジが今も調査でたくさん捕獲されると聞きますので,北では減っているどころか増えているのではないかと想像します。そこで,ロシアの友人,サハリンで鳥の研究をしているPavelとアムール川中流域のAlekseyにアオジの状況を聞いたところ,アオジはこれらの地域では一番の普通種で大陸側では,増加していそうだということでした。そして分布も北上していると言われているそうです。だとするとアオジの分布は北へとシフトしていて,南では分布が縮小し,北で拡大しているのかもしれません。
 その種が減っているのか,それとも分布がシフトしているのかは,狭い範囲で見ているとわかりません。それがわかるのが全国鳥類繁殖分布調査の特色の1つで,ロシアの研究者と情報交換しながらそうした違いも明らかにしていきたいと思います。そして,どのような生態特性を持つ種で分布のシフトが見られるのかなども明らかにしていきたいと思います。

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