バードリサーチニュース

日本鳥学会2019年度大会参加報告

バードリサーチニュース2019年9月: 2 【参加報告】
著者:熊田那央(バードリサーチ嘱託研究員)

 9月13~16日に帝京科学大学千住キャンパスで開かれた日本鳥学会2019年度大会に参加してきました。北千住駅から会場までは徒歩20分ほどかかりましたが、暑さも落ち着いてきた中、東京の下町の商店街をぶらぶらしながら会場に向かうのも楽しかったです。大会中の週末はちょうど地元のお祭りだったようで、お昼を食べに外に出るとあちこちでお神輿を担いているのがみられ、夏の名残をおすそ分けしてもらいました。
 今大会は全ての会場が大学の建物1つにまとまっており、移動に一切迷うことなく目的の会場に向かうことができました。毎年、会場がわからず、うろうろすることが多かったので大変たすかりました。

 口頭発表は2会場57題、ポスター発表が137題、高校生発表が9題、自由集会が11題、その他に黒田賞受賞講演や公開シンポジウム「ペンギンを通して学ぶ生物の環境適応と生物多様性保全」がありました。今年の黒田賞は鳥と植物の関係について取り組んでこられた吉川徹朗さんが受賞されました。講演では、イカルが種子を採食するという身近な観察からはじまり、神奈川県鳥類目録の市民調査のデータを利用して鳥類と植物のネットワークをひもとく一連の研究についてお話されました。現在、吉川さんは私と同じ職場で働いていますが、お昼休みなどよく外を散歩していて、鳥や地面におちた実などを観察しています。こういった地道な観察の積み重ねがこれまでの研究の礎となったんだろうなあ、と講演を聞きながら感じました。たくさんあった口頭発表とポスター発表の中から、いくつかご紹介します。

 ■日本鳥学会2019年度大会のホームページ
http://osj2019.ornithology.jp

■口頭発表

 コウノトリは何をどこで食べている? -ミートソースみたいな秋のペリットから-
 伊﨑実那・江崎保男

 対象種がなにを食べているかは、最も基本的な興味の対象です。伊﨑さんたちは、コウノトリが吐き出すペリットからわかる食性について発表をしていました。みなさんはコウノトリといえばなにを食べているイメージでしょうか。
 私はやっぱり魚を食べているのかなと思って話を聞いていました。実際、ポスターで同じフィールドでコウノトリの採食行動について調べた武田さんの発表では、ドジョウなどの魚が多かったという結果も示されていました。魚も食べていたのではないかと思うのですが、伊﨑さんたちの調べたペリットからはなんと魚の骨などは出てこず、昆虫の体が多く出てきた、という結果でした。
 目視観察ではみることのできない昆虫の情報が、ペリットから得られ、逆に目視観察によれば、メインの食物であるはずの魚については、全く出てこない、というのは面白かったです。様々な情報をあわせることで、補完的にコウノトリの食性の全容が明らかにされていくのかと思います。
 また、発表内で、コウノトリやサギは魚をたくさんたべてもほとんどペリットを吐かない、という話がありました。一方、私が以前集めていたカワウでは、かなりの頻度でペリットを吐いていて、中には魚の骨がたっぷりはいっていました。同じ魚食性鳥類でも魚の消化能力がかなり異なっているのかもしれないということがとても興味深かったです。

 ■ポスター発表

アオシギは里山の身近な冬鳥です。(茨城県における生息状況とその生態)
岸 久司

 みなさんはアオシギをみたことがありますか?図鑑には数が少ない冬鳥とかかれていて、私は簡単には見られない鳥なんだろうなあというイメージをもっていました。ところが、岸さんは10年以上観察をつづけ、アオシギが実は身近な里山の沢にいる鳥なんだよ、ということを教えてくれる発表をしていました。茨城県の里山で沢を1つ1つ観察し、アオシギの生態について紹介されていました。
 面白かったのがポスターの下半分に並べられたアオシギの写真です。絶対に写っていると教えられているのに、なかなか見つかりません。私は住んでいるのが茨城県なのでこの発表を参考に自分でもアオシギを探そうと張り切ってポスターを見に行ったのですが、写真で自信を喪失しました(笑)。気軽にいける範囲にも生息しているようですが、なかなか見つけるのは難しそうです。

 

長期間録音の声紋自動生成と声確認による効率的な鳥の鳴き声抽出
大坂英樹

自作したソフト「toriR(トリル)」によるスペクトログラム画像表示と音再生を含む鳴き声抽出画面と操作手順(ポスターより、許可を得て掲載)。

 鳥の分布を調べる手段の1つとして、音声を録音するというのは有効な手段です。特に人が直接観察しにくい場所や時間、例えば夜間の鳥の声の調査には録音は有効です。しかし、そこで問題になってくるのが録音した音をどう確認するかです。大坂さんは70日間、毎晩12時間も音声を録音し、その中で鳴いていた鳥の声をデータ化しました。トラツグミやヨタカ、ヤブサメなどを確認できたそうです。
 ここで驚きなのが、今年の4月から7月までに録音したデータを使って今回発表されていることです。たったの2ヶ月しかない中、800時間以上もの音声を全部聞いたのでしょうか?さすがにそうではありません。大坂さんは、録音した音声をPC上で処理し、目で確認できるソノグラムへの変換、ソノグラムで気になった部分で画像をクリックすると該当部分の音声が再生され、確認できたら種名をデータ入力する、という一連の流れをPC上で処理できるようにRやsoxといったプログラムを活用されてシステムを作られました。これによって1時間の音声を2-3分で処理できるので、たくさんの録音を効率的に確認できたそうです。
 眼の前で実際にパソコン上のシステムが動くところを見せてくださり、その便利さに感動しました。夜間の音声は雑音も少なく1度に鳴く鳥が1羽なことが多いため、このようにソノグラムを目で確認することで確認時間を短縮するというのは有効な手段になりますね。

 

 このほかにもたくさんの発表があり、とても勉強になりました。また、バードリサーチ調査研究支援プロジェクトの支援を受けた研究も多数発表されていました。参加者は900名以上あったそうですが、窮屈な感じもなく懇親会ではライブクッキングもありとても楽しい時間を過ごせました。このような有意義で楽しい時間を過ごせたのは、大会実行委員会のスタッフの皆様のおかげです。素晴らしい大会をありがとうございました。

 

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