バードリサーチニュース

繁殖分布調査をレッドリストに活かす ~東京都の事例~

バードリサーチニュース2019年1月: 2 【活動報告】
著者:植田睦之・佐藤 望

東京都のレッドリストで検討する必要があると思われるオナガ,セッカ,ホオジロ(撮影:内田博)

 

 全国鳥類繁殖分布調査も3年目を終え,70%以上の調査地で調査を実施することができました。これまでのニュースレターでも何度かご紹介してきたように,全国的な鳥の増減が見えつつあります(植田 2016)。こうした成果は学術研究や保護施策に役立つもので,その1つにレッドリストの改訂への貢献があります。ちょうど東京都では,レッドリストの改訂作業が進められています。全国鳥類繁殖分布調査と並行して「東京都鳥類繁殖分布調査」として,より詳細な調査も行なっていますので,これらのデータを集計して現在の東京都のレッドリストとの差異を見てみました。

東京都のレッドリスト

 2010年に東京都が発表した東京都レッドリストでは、東京都を4つの区画(区部、北多摩、南多摩、西多摩)に分け、それぞれランクをつけています。ランクは環境省のレッドリストに準拠していて、「絶滅(EX)」「野生絶滅(EW)」「絶滅危惧IA類(CR)」「絶滅危惧IB類(EN)」「絶滅危惧II類(VU)」「準絶滅危惧(NT)」「情報不足(DD)」があります。このうち最もランクの低い準絶滅危惧の基準は「現時点での絶滅危険度は小さいが,生息条件の変化によっては「絶滅危惧」として上位ランクに移行する要素を有するもの」とされています。具体的には分布域の一部において、個体数の減少が顕著であり,今後さらに進行するおそれがあるものなどが該当します(それ以外のランクの基準はこちらを参照)。そこで,今回は個体数を反映すると考えられる分布の増減に注目して集計してみました。

東京都で減少している鳥たち

 2010年版の東京都のレッドリストには,162種の鳥類が掲載されています。そしてその改訂作業ではランクの変更,種の追加,種の削除が行なわれますが,ここでは,現在は掲載されていないものの追加すべき種について検討してみたいと思います。
 繁殖分布調査はまだ調査途中なので,今回「東京都鳥類繁殖分布調査」のすでに調査が終わったコースのうち,前回とほとんどルート変更なく調査を行なえたコースについて,過去からの鳥の変化を見ることで各種鳥類の増減を検討してみました。記録コース数の少ない鳥は,増減の評価が偶然に左右される危険があるので,便宜的に1990年代かあるいは今回の調査で10地点以上で記録のある種を対象に減少率の大きい種を抽出してみました(表1)。すると,セッカ,セグロセキレイ,イワツバメ,オナガ,ヒバリ,ホオジロが抽出されました。このうち,現在レッドリストに掲載されていない種としてセッカ,イワツバメ,オナガ,ホオジロがあげられました。イワツバメは橋の下などに集団繁殖地をつくって繁殖していて,しばしばその場所を変えます。そうした繁殖地の移動の影響で記録されたり,されなかったりする可能性があり,本当に減少しているのかどうかはわかりません。しかし,それ以外の種については減少していると考えて良いでしょう。オナガとホオジロは記録地点数はそれぞれ77地点,35地点と,まだまだ分布が広い種なので,「減っているとはいってもまだまだ多くいるからレッドリストには掲載しない」となるかもしれませんが,少なくとも,掲載するかどうか検討すべき種だと思います。

すこし広域で見てみる

 まずは,東京都での調査結果について見てみましたが,「東京都内だけ」という評価の地理的スケールは移動能力の大きい鳥からするとちょっと狭すぎるようにも思います。東京だけで鳥たちの集団が完結しているとは考えにくく,ある年東京で繁殖した鳥が,次の年は埼玉で繁殖したり,埼玉生まれの鳥が東京に入ってきて繁殖したりと普通に交流があるでしょう。周辺近県もあわせた鳥の状況や日本全体の鳥の状況をもとに評価する必要性も高そうです。そして,たとえば周囲では減っている鳥が東京ではそれほど減っていないとしても,それはその「希少な種」にとって東京が重要な生息地だということになりますので,その種は東京でもレッドリストの対象種にするなどといったことを考える必要があるでしょう。
 そこで,「全国鳥類繁殖分布調査」のデータをつかって,東京に加え千葉,埼玉,山梨,神奈川の調査コースをもとに集計してみました。また,全国の状況もあわせて示しました(表2)。


 

 周辺県で減少傾向にある種はオナガを除き,すべて東京都のレッドリストに掲載されていました。全国で減少傾向にある種のうち,東京と関係のある種では,ゴイサギ,オナガ,ビンズイが掲載されていませんでした。ゴイサギは東京都鳥類繁殖分布調査の結果でも8地点が4地点へと減少しており,周辺県でも7地点から2地点へと減少していて,レッドリストへの掲載を検討した方がよいと思われます。ビンズイについては,周辺県では4地点から2地点へと減少していましたが,東京では前回は記録がなかった場所4地点で今回新たに記録されていました。記録地点数も少なく,結果も相反するところがあるので,慎重に検討する必要がありそうです。

 分布調査から見えるのは分布の変化で,分布が変わっていなくても個体数が減少している種がいることにも注意しなければなりませんが,レッドリストの検討のための有用なデータとなります。東京都のレッドリストの改訂作業には植田が関係していますので,こうした情報を提供して改訂へと反映させていきたいと考えています。

他県のレッドリスト改訂にも協力します

 全国鳥類繁殖分布調査では,その他の県のレッドリストの改訂にも協力したいと思っています。皆さんの中には,県のレッドリストの改訂に関係されている方もいらっしゃると思います。今回は東京について簡単にまとめてみましたが,この記事の表のような形,あるいはリクエストがあれば,別の形で結果を集計してお送りすることができます。レッドリスト関係者の方,あるいは県に働きかけたい方は,ぜひご連絡ください。

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