「この囀りってルリビタキ… だよね?」
東京住まいのぼくが北海道に行って鳥を見ているときに不安に思うことがあります。東京の常識ではいないはずの鳥がいるからです。例えば,こちらでは亜高山帯に行かないと聞かれないルリビタキが,海岸からちょっと入った森でさえずっています。亜熱帯から亜寒帯まである日本では地域によって鳥のいる標高が違っていて,それで戸惑うことがままあります。図鑑には各種鳥類の面的な分布図は載っていますが,こうした垂直分布の情報はあまり見かけません。そんな図があるとよいと思いませんか? そこで,「全国鳥類繁殖分布調査」のデータを使って作ってみました。
高山までどこにでもいるウグイス
2016年から始まった全国鳥類繁殖分布調査は,現時点で7割の調査地の調査が終了しています。これらのデータを使って,垂直分布図を作ってみました。地域による違いを経度を横軸にとって表現し,縦軸に標高をとって垂直分布を示してみました。これまでに調査できたコースを灰色でプロットして調査地の分布を示し,その上に各種鳥類が記録された地点をプロットしました。
この垂直分布図をみてみると,ほとんどの鳥が標高の低い場所か高い場所と,特定の場所に生息していることがわかります。たとえば身近な場所にいるムクドリ(図1)やスズメ,水鳥などは低標高に分布していますし,森の鳥は中標高,あるいは高標高の場所に分布しています。
そんななかで,ウグイスはどこにでも分布していました。平地から高山までどこにでもです(図1)。ヒヨドリやメジロも垂直分布の広い鳥ですが,それでも標高の高い場所にはあまりいません。ウグイスはシカが笹薮を食べてしまうことで,山で個体数が減っているという一面はあるものの(植田 2018 ),日本の鳥の中では圧倒的に生息域の幅の広い鳥と言えそうです。
また,地域によって垂直分布が異なる種も多くいました。たとえば図1に示したコルリは,西の地域では標高の高いところにしか生息していませんが,東に行くにつれ低地でも生息するようになっていました。同様の分布はカッコウ類,カラ類,ムシクイ類やツグミ類など本州ではやや標高の高い場所に生息する多くの種で見られました。
現時点の全種の垂直分布図はhttps://www.bird-atlas.jp/result/hyoko.pdfで見ることができますので,興味のある方はご覧ください。この調査が完了した暁には,もう少しわかりやすい表現を考えつつ,全種について水平分布と垂直分布を示した図録を作りたいと思います。
1990年代から垂直分布が変わった鳥
全国鳥類繁殖分布調査の結果からガビチョウなど急激に分布を拡大している鳥やゴイサギなど縮小した鳥がいることがわかってきています(http://www.bird-atlas.jp/news/bunpu16-18.pdf)。これらの鳥は垂直分布も変化しているのでしょうか? 両年代の垂直分布をヒストグラムにして比較してみました。
ガビチョウとソウシチョウについては両種とも特に標高の低い方へ分布を拡げていました(図2)。ガビチョウの方が,より標高の低い場所での記録が多いのですが,標高の高い方へも分布を拡大しています。現時点では,九州以外は,水平的/垂直的に住み分けているようにも見えるのですが(図3),今後の両種の関係(競合するのか,共存するのか)に興味が持たれます。
ゴイサギは,90年代も今回も垂直分布に変化はなく,全体的に減少しているようです(図4)。標高の高い場所に生息していて分布が縮小しているビンズイについては,地域による標高の違いもあるので,本州だけのデータを使って垂直分布を見てみました。すると標高の低い場所で分布縮小が著しいことが見えてきました。標高の低い場所の生息環境が悪くなってビンズイは減少しているのでしょうか? そんなことも気にしながら今後の調査結果を見ていきたいと思います。
今回は分布の拡大/縮小した種について変化を見てみましたが,それほど分布は変わっていないものの,分布全体が高い方へとシフトしている種もいるかもしれません。そんな種がいるかどうか,今後チェックしていき,またご報告したいと思います。
植田睦之 (2018) 2017年度 コア・準コアサイト鳥類調査 繁殖期結果報告.モニタリングサイト1000 陸生鳥類調査情報 9(2): 3.