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カッコウは鳥類の多様性の指標になるか

バードリサーチニュース2018年6月: 3 【その他】
著者:佐藤望

写真:カッコウの幼鳥。子育ては他の鳥がおこなう(三木敏史撮影)

 カッコウは自身で巣作りや抱卵をせず、モズやオオヨシキリなど(宿主といいます)の巣に卵を産みこんで、子育てを押し付けます。他種に温められたカッコウは孵化すると、巣内の他の卵を巣の外に放り出します。このような繁殖方法は托卵と呼ばれていて、これまで多くの生物学者が好んで研究をしてきました。托卵は古くから知られていたようで、動物学の祖と言われているアリストテレスが書いた「動物誌」にカッコウの托卵は登場します。

カッコウが鳥類の多様性の指標になりうる

 そんなカッコウですが、最近は鳥類の多様性の指標種となるのでは、という研究が報告されています。つまり、カッコウがいる場所とそうでない場所では、カッコウのいる場所の方が多くの種数がいるという事です。たとえばポーランドの農地でカッコウの有無と鳥類の種数を調べたところ、カッコウがいる農地の方がいない農地よりも種数が多く、その傾向は同じく指標種となりうる最高位の捕食者(ヨーロッパノスリやオオタカなど)よりも強い事を示しています(TryjanowskiとMorelli 2015)。また、別の研究ではヨーロッパの7か国でも同様の結果を報告しています(Morelliら 2015)。

日本やユーラシア大陸でも指標種に?

 ヨーロッパだけではなく、ユーラシア大陸、そして日本でもその傾向はあるという研究結果も報告されています(Morelliら 2017)。ただし、Morelliら2017で使用されている日本のデータは400地点で5分間のポイントセンサスをした結果を元に分析しており、現在行われている全国鳥類繁殖分布調査などの結果を使っていないようです。そこで、現在行っている全国鳥類繁殖分布調査のデータを使って、日本でカッコウが指標種になるのかどうかを検証してみました。

全国鳥類繁殖分布調査の結果を分析

図 カッコウが確認できた調査地と確認できなかった調査地でそれぞれ何種の鳥類が観察されたのかを示している。

 2016年から開始した本調査はこれまで1185地点の結果が届いています(詳しい調査方法は特設ページでご確認ください)。各地点で見られた鳥類の種数とカッコウの有無を見てみると、カッコウのいる調査地点では平均でおよそ29種確認されたのに対し、カッコウのいない場所では、平均約25種で、カッコウのいる場所の方が多くの種数が観察されており、統計的にも有意な差がありました(U検定 p<0.001)。

カッコウの繁殖様式がカッコウの分布に関係している?

 今回の分析結果では、日本でもカッコウの有無と鳥の種数は確かに関係していそうです。カッコウのメスは子育てをしない分、多くの卵を産みますが、1つの巣に1つしか産まないので、多くの巣が必要になります。そのため、多くの宿主がいる場所を好むだろうと推測できます。また、宿主が多くいる(密度が高い)場所が、他の鳥にとっても良い場所であれば、多くの種が生息する事になるかもしれません。

 

他にも指標種になりうる鳥がいるのでは?

 今回、分析していて疑問が出てきました。それは、カッコウ以外にも、出現の有無と種数に相関がみられる種がいるのではないかと。そこで、全国鳥類繁殖分布調査の結果を改めて分析した結果、マキノセンニュウやアリスイ、オジロワシといった北日本に生息している種が出現する場所で種数が多い事が分かりました。
日本の夏鳥は温度が低い地域ほど種数が多い事が分かっています(植田ら 2011)。そしてカッコウも北日本の方が分布域が広い(リンク参照)ため、結果的にカッコウのいる場所が種数が多いかもしれません。

カッコウが指標種になるメリット

 日本でも環境の指標として、オオタカやクマタカの調査が行われていますが、見つける事が難しく、専門的な調査能力が必要です。一方、カッコウは姿が見えにくいものの、鳴き声が特徴的で遠くからも聞こえるので鳴いていれば認識する事が容易な種です。そのため、カッコウが指標種になるのであれば、市民調査によって広域的に調査する事も可能です。このようにカッコウが指標種になるかもしれないというのは、非常に魅力的ですが、今回の分析からは、もう少し詳細な検討の必要性を感じました。

 

 

参考文献

Morelli, F. et al. (2015) Cuckoo and biodiversity: Testing the correlation between species occurrence and bird species richness in Europe. Biol. Conserv. 190, 123–132. 13.

Morelli, F. et al. (2017) The common cuckoo is an effective indicator of high bird species richness in Asia and Europe. Sci. Rep. 7, 4376.

Tryjanowski, P. & Morelli, F. (2015) Presence of Cuckoo reliably indicates high bird diversity: A case study in a farmland area. Ecol. Indic. 55, 52–58.

植田睦之,福井晶子,山浦悠一,山本裕 (2011) 全国的な生態観測調査「モニタリングサイト1000」で見えてきた日本の森林性鳥類の分布状況. 日本鳥学会誌 60: 19-34

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