バードリサーチニュース

海鳥の風車への反応には視界が影響する?

バードリサーチニュース2017年5月: 2 【活動報告】
著者:植田睦之(バードリサーチ)・島田泰夫(日本気象協会)・佐藤功也(東京電力)

銚子の洋上風車(右奥)と観測タワーに設置された船舶レーダ(手前)

 近年,洋上風力発電の実証事業が行われています。これまでも2016年7月号のニュースなどで報告していますが,陸上の風車ではオジロワシの衝突が問題になっています。それを考えると洋上に風車が建った場合,海鳥にどんな影響が出るのか心配になりますよね。しかし,これまでそうした知見はヨーロッパで少しあるだけで(風間 2012),国内では全く調べられていませんでした。そこで2013年に銚子沖に設置された洋上風車の実験機を対象に風車への鳥の反応を調べました。バードリサーチはその調査のうち,船舶レーダで風車周辺の鳥を追跡する部分を担当しました。

 この調査の結果,海鳥たちが風車を避けて飛んでいそうだということがわかりましたが(島田ほか 2015,論文準備中),それ以外にも視界の良否が鳥の接近距離に影響する可能性が見えてきました。今回はそれについてご紹介します。

 

図1 視界の良否と風車の近くを飛ぶ頻度との関係.視界良否は視程計の測定値に基づき,赤が風車の200m以内を飛んだ割合を示す.

視界が悪いと風車に近づく鳥が増える?

 この調査は2013年と2016年に行なわれました。銚子の南西沖に1基設置された風車の周囲の鳥の状況をそこから約300m東側にある観測タワーに設置した船舶レーダを使って調査しました。
 2012年8月号のニュースレターで紹介しましたが,霧の日には,ハシボソミズナギドリが岸近くに寄ってくることがあります。岸が見えないので誤って寄ってきてしまうのか,ハヤブサなどの捕食者から見えないのを幸いに積極的に寄ってくるのかは分かりませんが・・・。
 風車についてはどうでしょう? 視界の良否と風車への接近距離に関係があるのでしょうか? 観測タワーに設置された視程計(見通しを測る測定器)のデータを見ると,2013年と2016年の6月の調査の際に,おそらく海霧により,視界の悪い日がありました。こうした日と視界の良かった日の海鳥の風車への接近距離を比べると,視界の悪い日には,より風車の近くを飛ぶ傾向がありました(図1)。
 近くを飛んだといっても,風車にぶつかるほど近くの記録はありませんでしたが,さらに視界が悪化したり,朝夕などやや暗くなったりして視界不良の度合いが増せば,バードストライクの危険性が高くなるかもしれません。

 

洋上風車の鳥への影響は?

 ここまでの調査から,海鳥は風車が見えていれば風車を避けることが示唆されました。視界があまりにも悪いときにはその危険性が高まるかもしれないものの,風車の海鳥への影響は鳥がぶつかって死んでしまうバードストライクの危険よりも,鳥がその場所を避けて利用しなくなる問題の方が大きく,重要な採食地などへの風車の建設は影響が大きいように思われます。
 ただし,これは海の穏やかな日のデータに基づく推測です。レーダでは波が高いと波がレーダに映ってしまい鳥を検出できなくなってしまうため,波の穏やかな日しか調査することができていないのです。したがって,波が高い日に鳥の動きが変わるならば,今回の推測は汎用性を持たない可能性があります。またレーダでは鳥の種がわかりません。鳥の種によって風車への反応が違うことがわかっているので(島田ほか 2015),種によってはバードストライクの危険性の高いものもいるのかもしれません。
 今後も機会があれば,そうしたことを調べ,明らかにしていきたいと考えています。

文献

風間健太郎 (2012) 洋上風力発電が海洋生態系におよぼす影響. 保全生態学研究 17: 107-122
島田泰夫・植田睦之・前田修 (2015) 洋上風車に対する海鳥の反応.風力エネルギー利用シンポジウム 37: 472-475.

 

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