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ヒドリガモの幼鳥率は春が近づくと高まる? ヒドリガモの幼鳥率調査2017年1-3月 結果報告

バードリサーチニュース2017年5月: 3 【参加型調査】
著者:神山和夫

写真1. ヒドリガモ雄の成鳥(上)と幼鳥(下)。黄色の枠内が雨覆で、成鳥は白色をしている。

 野鳥の個体数変化を考えるとき、毎年の個体数だけでなく群れに占める幼鳥(0歳個体)の比率を知ることも重要です。幼鳥が多い集団は個体数の増加速度が速いと考えらますし、逆に幼鳥が少なければ繁殖が失敗しているので個体数は増えにくいでしょう。多くの野鳥は捕獲して羽を調べなければ成鳥と幼鳥を区別することが難しいのですが、ヒドリガモのオスの場合は羽色を見て成鳥と幼鳥を区別することができます。写真1に見られるように、オスは成鳥と幼鳥で体側に横線状に見えている雨覆の色が異なります。詳しい識別方法はホームページをご覧下さい。

 昨冬から春先にかけて参加型調査で実施したヒドリガモの幼鳥率調査の記録を分析したところ、幼鳥率に東西・南北方向の地域差は見られないことと、春になるほど幼鳥率がやや高まることが分かりました。詳しくご説明しましょう。

調査期間と調査地

図1. ヒドリガモ幼鳥率調査 実施地点

 2017年1月から3月にかけてヒドリガモのオスを成鳥・幼鳥に分けて数える調査を行い、41名の調査員の皆さんから全国67カ所の調査結果が届きました。調査地は宮城県・山形県から九州にかけて分布しています(図1)。ヒドリガモは渡り時期が終わると北日本では少なくなる種なので、調査地はヒドリガモの主要な越冬地域に広がる形で配置できていると考えてよさそうです。調査する個体数は指定しなかったのですが、あまり少ないと成鳥と幼鳥の数が偶然に左右されてしまうので、以下では20羽以上の群れについての分析をしています。一カ所の調査数が20羽未満でも、近隣の調査地の合計が20羽を越える場合は分析に含めました。

幼鳥率に地域差はなく時期の差があるようです

図2. ヒドリガモ雄の月別幼鳥率。長方形の内側に全データの半分が納まっている。長方形内の横線は中央値。縦棒の上下端は最大値と最小値。

 気候の変化などにより調査期間中にヒドリガモの幼鳥が移動している可能性があるため、月ごとに幼鳥率を分析しました。モニタリングサイト1000でオオハクチョウは南へ行くほど幼鳥が多いことが分かっているので、ヒドリガモでも地域による幼鳥率の違いがあるかもしれないと予想していたのですが、今回の調査では、いずれの月も幼鳥率に東西・南北方向の地域差は見られませんでした。しかしその一方で、統計解析で差が出るほどではないのですが、月を追うごとに幼鳥率が少しずつ高まっているようでした(図2)。これは異なる群れの幼鳥率を比較しているので、同じ群の幼鳥率が変化しているかを見るため、同じ調査地でほぼ一ヶ月以上間隔をあけて調査した記録も調べてみました。すると4カ所中3カ所で2回目調査の幼鳥率が高くなっていました(図3)。調査時期が遅い方が幼鳥率が上がっているとしたら、1回目の調査の時に成鳥羽になっておらずメスと誤認されていたオス幼鳥が換羽して確認しやすくなった可能性と、成鳥が先に渡去したために幼鳥率が上がった可能性とが考えられます。

 

図3. 同じ場所で2回調査したときの幼鳥率

 

1月でも換羽途中の幼鳥がいるようです

写真2. オス成鳥(上)と換羽途中の幼鳥オス(下). 2015年1月 宍道湖、島根県.

 ほとんどのカモ類がそうであるように、ヒドリガモもオス幼鳥も第一回繁殖羽に換羽するまではメスとよく似た地味な色をしています。日本に飛来してしばらくはオス幼鳥がまだ成鳥の羽色になっておらずメスと区別が難しいため、調査期間を1~3月にしていました。私が住んでいる東京近郊では1月になると成鳥か幼鳥かが紛らわしい色をしたヒドリガモのオスはいないようなので、1~3月に調査すればだいじょうぶと思っていたのですが、実は2015年1月に宍道湖に行ったときは写真2のような換羽が進んでいないオスの幼鳥を見かけたことがあります。今年も鳥取県の中海や、熊本県の江津湖ではこのような換羽を終えていないオスの幼鳥が見られたそうです。このような幼鳥がある程度いるとしたら、1~2月の調査ではオスの幼鳥がメスと誤認されてしまい、幼鳥数は実際より少なく数えられてしまったかもしれません。

 

渡去時期と幼鳥率の関係

 図3に示した二回調査した地点のうち、谷津干潟(千葉県)と江津湖(熊本県)は個体数変化の記録もあるので、それを図4に示します。赤線は幼鳥調査を行った時期です。アメリカ大陸の南北を渡るモリツグミでは成鳥の方が早く越冬地を出発して繁殖地に着くという研究があるので、ヒドリガモでも成鳥は越冬地からの出発も早いのだとすれば、個体数の減少期に二回目の調査がされている場合は、オス成鳥が先に渡ったために幼鳥率が上がった可能性が考えられます。谷津干潟では最大時期から2割減少、江津湖では4割減少した時期に調査されているので、この予想は正しいかもしれません。ただし個体数が減り始めている時期には他から来た渡り途中の成鳥が流入している可能性もあるので、幼鳥率は日々変化しているのかもしれません。

図4. 幼鳥率調査地の個体数変化。赤線は幼鳥調査を実施した時期。

 

来年は幼鳥の換羽時期も調べます

 上記の二つの課題のうち幼鳥の換羽時期は継続的な観察で把握することができるので、来年の調査では幼鳥の換羽が完了するのがいつごろかの調査もやりたいと考えています。これも地域によって差があるのかもしれません。また多くの方に参加していただければありがたいです。

 

参考文献

神山和夫 (2015) オオハクチョウは南の越冬地ほど幼鳥が多い. 水鳥通信 15:1-1.
McKinnon EA, Fraser KC, Stanley CQ, Stutchbury BJM (2014) Tracking from the Tropics Reveals Behaviour of Juvenile Songbirds on Their First Spring Migration. PLoS ONE 9(8): e105605.

 

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