バードリサーチニュース

生態図鑑 ヒドリガモ

バードリサーチニュース2016年1月:3 【生態図鑑】
著者:神山和夫
ヒドリnewsletter

写真1.上:オス成鳥.  中:オス第一回生殖羽. 下:メス成鳥.

○英名 Eurasian Wigeon
 学名 Anas penelope

○分類 カモ目 カモ科

○羽色
 オス:頭部は赤茶色で額部分がクリーム色.体の上面と脇腹は灰色.飛翔時に雨覆の白色部分が目立つ.オスの第一回生殖羽は,翼と脇腹の境に見える雨覆の羽が白い縁取りのある灰褐色をしていて成鳥と区別できる.
 メス:頭と脇腹は赤茶色.上面の羽は黒に茶色の縁取りがある.

○鳴き声
 オスはピューピューと高い声で鳴く.メスはガーガーと低い声で鳴く.

○分布と生息環境
 ユーラシア大陸全体.繁殖地は北緯50~70度の地域で,東は極東ロシア,西はスカンジナビア半島とアイスランドまで.越冬地の東は日本から韓国,中国,東南アジア,西はヨーロッパからアフリカ北部まで.日本の越冬地では,河川や湖沼,都市域の池,沿岸部などを休息地にしている.同じ場所で水草などを採食することもあるが,夜間に陸に上がり,草地や農耕地などで採食することも多い.繁殖地では,開けた場所にある湖沼の周辺を好む.

○繁殖システム
 4~5月にかけて繁殖地に到着し,水辺近くの藪で営巣する.一夫一婦制で卵は8~9個.抱卵期間は24~25日.育雛期間は40~45日.

○渡り
 モニタリングサイト1000ガンカモ類調査(環境省)の秋と春の渡り時期の記録では,北海道東部の風蓮湖,濤沸湖,コムケ湖などで最大1万羽を越える数が記録され,この地域がロシアとの渡りの主要経路だと思われる.2007年2月に宮崎県で衛星追跡用の発信器を装着したヒドリガモには,本州に沿って北上してロシアに向かう個体と,真北に飛んで日本海を越えてロシアに向かう個体とがいた.

 

P1140724土手で採食

写真2. 草を食べるヒドリガモの群れ

○食性と採食行動
 日本では,1954/55年の越冬期に諏訪湖で採集された成鳥18個体の胃内容物の調査では,稲籾,浮葉植物,沈水植物,果実,ユスリカの幼虫などが見つかっている.野付湾ではアマモをついばむ姿が見られるが,首の短いヒドリガモは水中のアマモに届きにくいため,ちぎれて流れているアマモを食べている可能性がある.本種の短い嘴は草本植物をついばむ速度を高め,食物の摂取量を増やすこと役立っていると考えられている.実験によると,草丈が3cmのときに最もついばみ速度が速くなり,採食効率が最もよいと考えられる.陸上での採食中は天敵に襲われる危険が高まる.採食中のヒドリガモは警戒のために時々頭を持ち上げるが,その時間は水域から離れるほど,そして群れの個体数が少なくなるほど長くなる.またオスの方がメスよりも警戒時間が長く,これはペアになっている場合にオスが配偶者防衛をしているからだと考えられる.

○アメリカヒドリとの雑種
 本種とアメリカヒドリとの中間的な特徴を持つ雑種が日本で見られることがある.アメリカヒドリは主にアラスカからカナダ北部にかけての地域で繁殖しているが,極東ロシアのアナディール川流域でも少数が繁殖しており,この地域で採集された外見的特徴はヒドリガモである個体からアメリカヒドリの遺伝子が見つかっているため,両種の分布の境界で交雑が起きていると考えられる.

○食害
 有明海では養殖海苔(葉体)への食害が報告されている.麦の食害は埼玉県,石川県,香川県などから報告がある.

○イギリスの幼鳥率調査
 ヒドリガモは雨覆の色でオス幼鳥の識別が可能であるため,野外観察によって幼鳥率を調べることができる.イギリスで狩猟,標識調査のための捕獲,野外観察の3種類の方法で得られたオスの幼鳥率を比較したところ,狩猟データの幼鳥率が最も大きな値で、これは幼鳥の方が撃たれやすいためだと考えられる.他の2つの方法による幼鳥率の値は近かった.いずれの方法でも幼鳥率の年変動は相関しており、個体群中の幼鳥割合の変化に応じた数値が得られていると考えられるため,異なる調査方法で幼鳥率を調べている地域間でも幼鳥率の増減傾向の比較が可能である.

○日本の越冬個体数
 ガンカモ類の生息調査によると,2015年1月に国内で記録されたヒドリガモの総数は164,494羽で,マガモ,コガモ,カルガモに次いで四番目に記録数の多い種であった.同調査の1996~2009年の個体数変化の分析では,数の増減は小さく個体数は安定していた.

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