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樹木が枯れると樹洞に営巣する鳥が増えるモニ1000コアサイトの森

バードリサーチニュース 2024年11月: 2 【活動報告】
著者:高木憲太郎

 バードリサーチでは、環境省が実施しているモニタリングサイト1000陸生鳥類調査を日本野鳥の会と共同で受託し実施しています。5年に一度、鳥の調査をしている一般サイトを日本野鳥の会が担当し、コアサイトと呼んでいる毎年調査するサイトをバードリサーチが担当していますが、コアサイトでは、鳥の調査だけでなく、大学の演習林の協力のもと自然環境研究センターによって樹木や徘徊性昆虫の調査も実施されています。毎年継続して森林や徘徊性昆虫の調査が実施されているその場所で鳥の調査をしていることは、詳細な分析ができるコアサイトの強みのひとつだと思います。そこで、森や昆虫の変化や地域的な違いが、鳥に与えている影響について紐解いてみました。

樹木枯死率と鳥との関係

図1.樹木の枯死が増えた時に想定される鳥への影響についてのフローチャート

 今回取り上げるのは、樹木の毎木調査で調査されている項目の一つである枯死木のデータ(前年の調査で生きていた木のうち何本が枯れたのか、という死亡率:自然環境研究センターの小川裕也氏による集計値使用)と鳥の関係です。枯死木の朽ちた材はそれを摂食する昆虫の増加を介して、それらを食物とするキツツキ類を誘引するかもしれません。立ち枯れた木には、幹折れや自然樹洞が生木よりも多く形成されていると考えられ、また、キツツキによってより多くの巣穴が掘られると考えられるので、樹洞に巣を作る鳥たちの営巣場所になります(図1)。営巣場所が増えれば、それだけ多くの鳥が繁殖できると考えられます。そこで、樹木枯死率が高いと、キツツキ類と樹洞利用種の個体数が多くなっているかどうか分析してみました。

樹木が枯れるとキツツキ類と樹洞利用種が増える森

 分析の結果、樹木の枯死木率が高い森ほど、キツツキ類の割合が高い傾向がみられ、樹洞利用種の割合も高いことがわかりました(図2)。なお、樹洞利用種のGLM分析に、キツツキ類の個体数を説明変数に加えて分析すると、枯死木率の影響が消えてしまう結果になりました。これは、キツツキ類の個体数と樹洞利用種率の間に強い相関があったためです(図3)。
 樹木枯死率と樹洞利用種率の関係にマイナスの影響を与える要因としては、立ち枯れ木ではなく倒木したものも含めた枯死木を樹洞の多さの指標として用いていること、高緯度地域と低緯度地域での枯死木の残り方の違い(気温が高いほど早く朽ちたり、台風の直撃頻度の違いによる倒木率の違いなど)などが考えられます。また、樹洞利用種は繁殖なわばりを形成するので、立ち枯れ木が増えて樹洞が多くなってもどこかで鳥の生息数は頭打ちになります。
 このように、相関が出にくくなる要因が考えられる中で、枯死木率と樹洞利用種率の間に関係が見られたことは,多地点で長期間継続して実施しているモニタリングサイト1000の調査の成果だと言えます。樹木枯死と鳥とのこの関係は、鳥類の樹洞利用を詳細に調べた既往研究で明らかにされてきたものと一致しています(例えば Martin et al. 2004)。

図2.2009年から2022年における過去3年間の平均樹木枯死率(前年調査時の生立木のうち何%が枯死したか)と鳥類の全記録個体数に占める樹洞利用種(樹洞利用種率)の割合の関係.プロットの色はサイトの違いを表す.

図3.鳥類の全記録個体数に占めるキツツキ類などの自分で樹洞が掘れる種の割合(キツツキ率)と樹洞利用種率の関係.プロットの色はサイトの違いを表す.

 

台風の影響など各地の個別の要因

図4.台風の影響を受けた与那サイトの樹木枯死率と鳥の個体数の経年変化

 樹木枯死率と樹洞利用種率の関係において、他のサイトとは少し違う傾向のあった秩父サイト(埼玉県)、与那サイト(沖縄県)、大山沢サイト(埼玉県)についてデータを詳しく見てみました。
 秩父サイトは、樹木枯死率が低いにもかかわらず、樹洞利用種率が高い傾向がありました(図2)。データを見てみると、このサイトでは樹洞を利用する種の個体数が多いわけではなく、樹洞に営巣しない鳥が少ないために、相対的に樹洞利用種率が高くなっていました。秩父サイトは標高が高いので、樹洞を利用しない代表的な鳥であるヒヨドリが記録されないのですが、より標高の高いところに生息するルリビタキやメボソムシクイなどの樹洞を利用しない高山の鳥がいるほどの標高ではありません。この他の樹洞を利用しない鳥として他のサイトで記録個体数が多いウグイスなどの林床の薮の鳥も少なく、カッコウ類の記録も少ないことが影響したようです。
 一方、与那サイトは、樹木枯死率が非常に高いのに樹洞利用種率はそこまで高くありませんでした。ここでは2012年に直撃した台風の影響で枯死木が増え、その影響は3年ほど続いていました。他のサイトに比べ枯死木に占める倒木の割合が高いことが考えられます。樹洞を作れる生木や立ち枯れ木が実際には少ないために、林床に光が届くようになったことで下層植生が繁茂したようです。台風の後の数年にわたり、コゲラと樹洞を利用するシジュウカラが一時的に増加したあと減少しており、両種が減少した時期に樹洞利用種であるキビタキ(リュウキュウキビタキ含む)が見られなくなった一方で、薮に営巣するウグイスの増加が起きていました(図4)。
 与那サイトに次いで樹木枯死率が高かった大山沢サイトでは2013-2015年と2020-2021年に枯死木率の高い期間がありました。大山沢の木々は樹齢が高くなってきているために、枯死したり、台風などで倒れやすくなっている可能性があります。コアサイトは人の手があまり入っていない天然林などが多く、大山沢以外のサイトでも樹林が成熟して年数が経ってきています。今後、大山沢サイトのように樹木の枯死が増えることが考えられますので、長期モニタリングの真価が発揮できるようになればと思います。

引用文献

Martin K, Aitken KEH, Wiebe KL (2004) Nest sites and nest webs for cavity-nesting communities in interior British Columbia, Canada: nest characteristics and niche partitioning. Condor 106: 5-19

 

コラム:分析したデータについて

もう少し詳しく知りたい、という方のために、分析したデータについて、説明します。

樹洞を利用する鳥

 樹洞を利用するのは、森林性鳥類の中では、フクロウ類、シジュウカラやヤマガラなどのカラ類やゴジュウカラ、キバシリ、アカショウビンで、幹折れした断面のような場所も利用するキビタキや岩棚も利用するオオルリも樹洞を利用します(以下、樹洞利用種)。なお、既存の樹洞も利用するコガラですが、この鳥は主に自分で巣を掘るので、キツツキ類と同様に樹洞利用種には含めないことにしました。

樹洞の数の指標としての樹木枯死率

 毎木調査では、枯れた樹木が立っているのか、倒れてしまったのかについてはデータ化されていません。そのため、樹洞の数の指標とするには不十分ですが、前年の調査で生きていた木のうち何本が枯れたのか、という死亡率のデータを用いて傾向を分析しました。樹木の枯死はすぐにキツツキ類の個体数に影響すると考えられますが、樹洞利用種の個体数に影響を及ぼすには年数がかかると思われるので、過去3年と5年の平均値も用いました。

モニタリングサイト1000陸生鳥類調査の鳥の個体数のデータ

 鳥のデータは、種数ではなく個体数を用いました。鳥の調査は、1サイトにつき5地点で繁殖期に4回のスポットセンサス調査を実施しています。そこで、地点ごとの最大値を5地点分合計した値を個体数として扱いますが、サイトごとの鳥の豊富さの違いが結果に影響しないようにするため、キツツキ類や樹洞利用種の個体数の多さは、記録された全種の個体数に対する比率で評価しました。