バードリサーチニュース

調査研究支援プロジェクト2021年度 ~投票結果のご報告~

バードリサーチニュース2022年4月: 2 【活動報告】
著者:高木憲太郎

 2021年度もバードリサーチ調査研究支援プロジェクトへのご協力をいただき、ありがとうございました。その投票結果をとりまとめましたので、ご報告いたします。

 2021年度は12件の応募の中から選ばれた9件と、バードリサーチからの1件を合わせた10件の調査研究プランが支援対象でした。投票総数は2020年度の514票を上回り、プロジェクト開始後最多となる675票の投票があり、支援総額は2,031,326円になりました。このうち8割を得票数に応じて分配し、2割を10件の調査研究プランに均等割りで分配して、各調査・研究プランごとの支援額を決定し、支援先に贈呈いたしました。今年度もたくさんのご投票とご寄付をいただき、皆さまには心よりお礼申し上げます。

2021年度の投票結果

図1.得票上位5件の得票の推移(上)と得票の傾向。

 投票状況はホームページでお知らせしていましたが、北沢宗大さん、市川伸さん、青木大輔さん、先崎理之さんによる調査研究プラン「北海道のアカモズがすみやすい環境は? -アカモズの保全に配慮した森林管理の提案へ-」が2月上旬に得票数を伸ばして1位に躍り出ると、そのまま首位を守りました(図1)。原星一さんによる「新しい渡り鳥調査手法 -夜に渡る鳥の識別とカウント-」(最終得票数 2位)は、多くの方の寄付&投票に支えられてコンスタントに票を伸ばしていましたが、再逆転はなりませんでした。
 竹田山原楽さん、細谷淳さん、塩見こずえさん、田谷昌仁さんによる「アオバズクの渡り戦略における島嶼の重要性の検証」とバードリサーチによる「みんなで作る「標識コハクチョウ名簿」 -カラーマーキング調査をロシアと共同実施-」は、終盤戦で広報に力を入れて得票を重ね躍進し3位と4位に入りました。近藤雅也さんによる「メジロは何をしゃべっているのか? -メジロの音声言語と混群構成種との関係-」(最終得票数 5位)は、身近な存在のメジロを対象としていて、あの声の意味がわかったらいいな、という近藤さんの思いに共感した人が多かったのではないでしょうか。
 調査研究プランによって得票の傾向はさまざまで、大口の投票を得た調査研究プランもあれば、一人あたりの投票数は少なくても多くの方から投票を得た調査研究プランもありました。

図2.最多得票を得た北沢さんたちによる北海道のアカモズの調査研究プラン


投票総数と支援総額
の推移

図3.投票総数(上)と支援総額の推移

 初年度の2011年度は投票数が181票、支援総額が約47万円で、その後の5年間はあまり大きな変化はありませんでした。しかし、2017年度に池野進さんと安藤温子さんによる調査研究プラン「防鳥ネット羅網死根絶に向けたハス田におけるカモ類の採食方法とその頻度の解明」が220票を獲得し、投票総数と支援総額が増えると、その後は少しずつ皆さんから寄せていただく投票と寄付が増え、毎年前年を上回るようになりました。
 支援先の研究者からは、多くの方に応援してもらえていることが感じられて、研究に対するモチベーションになっているというコメントをいただきます。今後もご支援いただく皆さまと、研究者をつないでいけたらと思いますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。


夜に渡る鳥たちを追う研究のロマンス
 今年度の調査研究プランの中のひとつ、原星一さんによる「新しい渡り鳥調査手法 -夜に渡る鳥の識別とカウント-」に関連して、過去にバードリサーチで実施した調査をご紹介したいと思います。バードリサーチでは、ウィンドプロファイラと呼ばれる風を探知する気象レーダーによる渡り鳥のモニタリングが出来ないかと考えて環境省に提案し、その業務を受託したことがあります。私もこのレーダーに映る鳥らしきもの「渡り鳥エコー」の正体が本当に鳥なのか調べる調査を手伝ったのですが、この時に取った方法と、原さんの手法が似ていて、当時を懐かしく思い出しました。

 北海道室蘭にあるレーダーサイトのそばで、渡り鳥の通過状況を鳴き声や目視などで調べ、それとレーダーの結果を比べるのが目的でした。「渡り鳥エコー」は夜に多く出ることがわかっていたので、夜渡る渡り鳥を対象として、1)渡っていく時に発する鳴き声を基にした調査(鳴き声調査)、2)月面を横切る鳥の調査(月面調査)、3)早朝の目視による調査(目視調査)を行ないました(植田 2006)。

図4.月面を横切りながら高度を上げて行くように見えた鳥のシルエット(矢印の先の黒い点).画像をクリックすると動画が見れます。

 私が手伝った月面調査は、月面を横切っていく鳥を数えるために、夜通し月をビデオで撮影し続けるというものです。天体望遠鏡の中には星を自動で追ってくれるものもありますが、当時は試験的な調査だったこともあり、あまり上質ではない三脚に固定したビデオカメラで、手動で月を追いかけるということをしました。ところが、画面いっぱいに月が映るようにズームをかけて録画していると、思いのほか早く月が移動し、油断しているとすぐに画面から外れていってしまうのです。しかも、三脚の運台がカクンカクンと動き、動かした後に微妙に下にずれるので、それを計算に入れてちょっと上を狙って運台を動かす必要がありました。あとでビデオをチェックした平野さんは、きっと心の中で私のカメラワークにうんざりしたことと思います。室蘭での調査では高台からの撮影でしたが、鳥の飛行高度はそれなりに高く、月をバックに羽ばたきながら通過するシルエットが小さく黒い点として映るだけでした(図 4動 画 mpeg 753KB)。

 こんな経験をしたことがあったので、星さんの調査研究プランで夜渡る鳥の写真を見たときは心が躍りました。星さんのこれまでの調査では、ウグイス、ヤブサメ、マミチャジナイ、ノゴマ、エゾセンニュウなど、多数の種を識別し、写真に記録することができています。今年度1年間の調査によってどんなことがわかってくるのか楽しみです。

図6.多くの方の投票を得て得票数2位でフィニッシュした星さんによる夜渡る鳥の調査研究プラン


引用参考文献

植田睦之. 2005. レーダーを用いた渡り鳥調査手法開発調査 環境省より受託しました!. バードリサーチニュース 2005年10月号: 1.
http://www.bird-research.jp/1_newsletter/dl/BR_Newsletter_Vol2_10.pdf

植田睦之. 2006. レーダーを用いた渡り鳥調査手法開発調査(環境省委託調査)結果報告. バードリサーチニュース 2006年7月号: 2.
https://www.bird-research.jp/1_katsudo/rader/img/NewsVol3No7.pdf

 

調査研究支援プロジェクト2021 支援先調査研究プラン
今年度の調査研究プランの内容について、もう一度確認したいという方は、下記のリンクからどうぞ。
どれも興味深い調査や研究です。良い成果が得られることを期待したいと思います。

001 北海道のアカモズがすみやすい環境は?
 -アカモズの保全に配慮した森林管理の提案へ-

   北沢宗大1,2・市川伸2・青木大輔1,2・先崎理之1,2
   (1.北海道大学大学院 2.日本渡り鳥保全・研究グループ)
002 謎多き鳥、ケリの渡りの解明 -標識とGPSロガーを用いた追跡-
   小丸奏(岐阜大学応用生物科部4年)
003 新しい渡り鳥調査手法 -夜に渡る鳥の識別とカウント-
   原星一
004 メジロは何をしゃべっているのか?
 -メジロの音声言語と混群構成種との関係-

   近藤雅也(名城大学農学研究科1年)
005 「ゴキブリの味はママの味!?」
 -餌の好みは親からもらった餌で決まる?-

   金杉尚紀1・白岩颯1・佐々木瑠太2・中村晴歌1・澤田明3
   (1.北大 2.立教大 3.国環研学振PD)
006 コウノトリは幼鳥の事故が多発中!
 -親元から旅立つまでの行動圏と期間を市民観察者との共同調査で解明したい!-

   伊﨑実那(兵庫県立大院博士後期課程2年)
007 リュウキュウオオコノハズクは都市で生きられるか
 -適切な保全に向けた基礎生態の解明-

   島嶼鳥学研究会 熊谷隼1・江指万里1・宮城国太郎2
   (1.北大・院・理 2.沖縄野鳥の会)
008 アオバズクの渡り戦略における島嶼の重要性の検証
   竹田山原楽1,2・細谷淳2・塩見こずえ1・田谷昌仁1
   (1.東北大学生命科学研究科 2.日本鳥類標識協会)
009 九州で冬を越すツバメの分布と利用環境
 -気候と土地利用に焦点をあてて-

   天野孝保(長崎大学大学院博士後期1年)
010 みんなで作る「標識コハクチョウ名簿」
 -カラーマーキング調査をロシアと共同実施-

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