ガンカモ類では毎年1月に全国で一斉調査が行われることもあり、厳冬期の個体数については経年的な変化が調べられていますが、秋から春までの個体数の季節変化はよくわかっていません。コハクチョウとカモ類の季節的な個体数変化を分析したところ、コハクチョウ、マガモ、オナガガモ、ハシビロガモについて、厳冬期に増加する山型の個体数変化が見られることが分かりました。
バードリサーチニュース2011年2月号の記事で、各調査地でのカモ類の季節変化を見ると、秋から春まで次第に数が増えて厳冬期に最大になり、そしてまた春に向けて次第に減少している種と、秋から春の間に何度も増減を繰り返す種があることを報告しましたが、そのときは各調査地の個体数変化を調べて、種によって個体数ピークの頂点が1つなのか、それとも2つ以上あるのかを比較していました。しかし、調査地によって個体数が増減する時期がずれていることが多いので、調査地を個別に見ていたのでは越冬地全体での増減時期がはっきりしません。そこで、多くの調査地の増減を総合的に分析すれば、個体数の増減時について種ごとの特徴が見られるかもしれないと考えました。
分析は、厳冬期に湖沼が凍結してガンカモ類がいなくなる地点を除外するため、太平洋側は宮城県以南、日本海側は新潟県以南の地域で、2014/15年に4ヶ月以上の調査が行われている地点を対象にして、該当するデータをTRIMという統計ソフトを使って計算しました。TRIM はヨーロッパの野鳥の繁殖調査で利用されているソフトで、調査が実施されていない地点があっても同時期の全地点の個体数変化と、未調査地点の他の時期の個体数から推定して、欠損値の影響が少ない結果を計算してくれます。TRIM について詳しくは、こちらのホームページで説明しています。
結果ですが、図1のように、コハクチョウ、マガモ、オナガガモ、ハシビロガモは厳冬期が最大になるひと山型の増減を示しましたが、それ以外の種では季節的な増減があまりはっきりしませんでした。マガモとオナガガモは前述の2011年のニュースレターに掲載した記事でもひと山型の増減を示す調査地が多かった種で(そのときはコハクチョウは分析対象にしていませんでした)、これらの種は徐々に越冬地で数が増えることや、越冬地間の移動が比較的少ないために、傾向がはっきり現れたのかもしれません。そして、それ以外の種は頻繁に越冬地を移動するせいで、ある時点で見れば調査地どうしの増減傾向が真逆になっている場合があり、増減傾向を打ち消し合ってしまったのかもしれません。増減が明確だった種の季節変化を見てみると、いずれも厳冬期に調査地全体の個体数指数が最大になりました。これまでも経験的に、ガンカモ類は厳冬期に最大数になると考えられていましたが、それが季節データの分析からも裏付けられたことになります。
渡去時期の違い
カモ類では飛来時期に比べて渡去時期の知見が少ないのですが、図1からはマガモとオナガガモは2月から減少し始めて、4月でほとんどの越冬地から姿を消すことがわかります。個体数指数は全調査地の合計値の変化を表しているので、今回の解析で季節的な増減が明瞭にならなかった種でも個体数指数が0になる時期には大半が渡去したと考えることができます。前述の種の他ではホシハジロが四月で0羽になり、この時期までに渡去が終わるようです。一方で、コガモ、ヒドリガモ、ハシビロガモ、キンクロハジロは4月でもまだ個体数指数が0にならず、カモ類の中では渡去時期が遅めであることが分かります。
今回は全国をひとまとめにして分析しましたが、実際には種によって渡りの中継や越冬に利用する地域・時期が異なるはずなので、今後は地域的な分析をできるようにしていきたいと思います。調査へのご協力を、よろしくお願いいたします。