バードリサーチニュース

生態図鑑(要約版)トラツグミ

バードリサーチニュース2015年10月:4 【生態図鑑】
著者:水田 拓 (環境省奄美野生生物保護センター 自然保護専門員)

○英名 Eurasian Scaly Thrush, White’s Thrush, (亜種オオトラツグミ Amami Thrush)

  学名 Zoothera dauma

○分類 スズメ目 ヒタキ科

○羽色
 雌雄同色.上面と翼は黄褐色で,黒いうろこ状の斑がみられる.下面は白地に黒い三日月形の斑が密にある.尾羽は暗黄褐色で外側は黒っぽく先が白い.トラツグミに比べ,オオトラツグミは上面が暗めでうろこ状の斑も大きく,全体的に暗く感じられる.また下面の白地も黄褐色味を帯び,腹部が汚れたようにみえる.トラツグミは腹部の白色がより鮮やかな印象である.上尾筒の模様も異なる.コトラツグミはトラツグミより上面の茶色味が強く,うろこ状斑の幅も狭い.また外側の尾羽の白い部分がほとんどない.

亜種オオトラツグミ [ Photo by 水田拓 ]

亜種オオトラツグミ [ Photo by 水田拓 ]

○鳴き声
 トラツグミは夜間に「ヒョー」と口笛のような声で鳴く.平安時代,これは「ぬえ」という化け物の声と考えられていた.オオトラツグミはこれと全く異なり,「ツィー,キョローン」と抑揚のある澄んだ美しい声で,おもに繁殖期の早朝にさえずる.オオトラツグミの警戒声は「チーィ」,「ゲッ」,「グワッ」など.コトラツグミの鳴き声は不明.

○生息環境
 3亜種とも森林に生息する.オオトラツグミは林齢の高い広葉樹林を好む.餌となるミミズが多いことがその理由の一つであると考えられる.オオトラツグミはあまり平地に下りないが,トラツグミは奄美大島以南の越冬地では平地でよく見られる.このためトラツグミはしばしば窓ガラスに衝突する.オオトラツグミの衝突は確認されていない.コトラツグミの生息環境は不明だが,1月の窓ガラスへの衝突例から冬期は平地にもいることが示唆される.

○抱卵・育雛期間,巣立ち
 筆者が調査しているオオトラツグミの抱卵期間は約16日間,巣内育雛期間は14~16日間.繁殖が確認された34巣のうち,1羽でも巣立ちに至った巣は19巣で,単純計算では巣立ち率は56%.ハシブトガラスによる巣内ビナの捕食が目撃されており,捕食が繁殖失敗の主要因であると考えられる.また抱卵期間中に巣の近くで林道工事が始まり,親が巣を放棄してしまった例もある.希少種の生息域での工事には配慮が必要であることを示す一例である.

○保護の取り組み
 NPO法人奄美野鳥の会は,絶滅が危ぶまれていたオオトラツグミの個体数とその変動を知るため,1994年から奄美大島の中央部でさえずりの数を数える調査を開始した.1999年以降は100名を超えるボランティアが全長42kmに及ぶ林道を歩く「オオトラツグミさえずり個体一斉調査」に発展し,これは現在も続いている.この調査によると,2000年代半ば以降,確認数は徐々に増加傾向を示している.1990年代に個体数が少なかったのは森林伐採の影響と考えられ,近年の個体数の回復は伐採の減少に伴う森林の回復によるところが大きい.奄美大島を含む琉球列島は,現在世界自然遺産登録を目指しており,環境保全の気運が高まっている.現在は絶滅危惧種であるオオトラツグミも,このまま生息地が守られれば絶滅の心配は少ない.とはいえ,今後も個体群の動態を見守っていく必要がある.

◆その他掲載記事
 ・翼長,尾長,ふ蹠長,露出嘴峰長,体重
 ・分布と生息数
 ・繁殖システム
 ・巣・卵
 ・食性と採餌行動

有料会員の方は,こちらから生態図鑑のPDFファイルをダウンロードできます
生態図鑑の一覧は,こちらのページでご覧になれます

Print Friendly, PDF & Email