バードリサーチニュース

シロチドリの腹濡らし

バードリサーチニュース2015年9月: 5 【論文紹介】
著者:奴賀俊光

 裸地環境に営巣するシロチドリやコアジサシでは、繁殖期の暑い時期、抱卵している親鳥や卵、ヒナは高温によるストレスを受けています。親鳥が腹部を濡らす行動や、濡れたまま巣に戻る行動が知られていますが、この腹濡らしが、卵を冷やすためなのか、または、親鳥自身が暑くて温度調節のために行っているのかを調べた南スペインでの研究を紹介します。AmatさんとMaseroさんは、シロチドリの放棄卵の中に温度計を入れた人工卵を用いて、放卵温度、巣の周囲の気温、放卵時間等を調べました(Amat and Masero 2007)。

写真1. シロチドリ

写真1. シロチドリ

写真2. シロチドリの巣と卵

写真2. シロチドリの巣と卵

 

図 シロチドリの卵温度と気温 (Amat and Masero et al.2007より作図)。 赤点線以上の気温では、シロチドリは抱卵を放棄する。

図 シロチドリの卵温度と気温
(Amat and Masero 2007より作図)。
赤点線以上の気温では、シロチドリは抱卵を放棄する。

 チドリ類の胚発生に最適な卵温度は35-38℃です(図1①)。Amatさんらが卵温度を測定した結果、抱卵している親鳥が腹濡らしのために巣から離れた時の卵温度は約37℃で(図1②)、その時の周囲の気温は約40℃(図1⑥)でした。親鳥が腹濡らしに行っている間、巣は直射日光にさらされるので、卵温度は約40℃に上昇しました(図1③)。しかし、親鳥が巣に戻ってきて卵を濡らした時、卵温度は巣を離れる時と同程度の約36.5℃にまで下がりました(図1④)。この実験の状況化では、卵温度は濡れた後に下がり、その後一定になりました。そして、親鳥が巣を離れるまで卵温度は上がりませんでした。一方、親鳥がいない人工巣では卵温度は約47℃にもなりました(図1⑤)。
 親鳥が腹部濡らしのために巣を離れた時の卵温度や、巣に戻ってから再び巣を離れるまでの卵温度は、胚発生に最適な温度の範囲内にありました。つまり、シロチドリは、卵が高温になったから腹濡らしに出かけるということではないことを示唆しています。
 また、周囲の気温が45℃以上では、シロチドリは体温調節ができず、抱卵を放棄し、腹を濡らして戻ってくることはありませんでした。高温によるストレスに耐えて抱卵しつづけるためには、腹濡らし(水浴び)に行って自分の体温の上昇を抑える必要があります。実際、親鳥の体温調整について、腹濡らしがどのくらい効果があるかもAmatさんらは調べています。シロチドリを捕獲し、人為的に腹部を水で濡らした後、なんと、シロチドリの体温は急激に1.5℃下がりました(Amat and Masero 2009)。この腹濡らしという行動は、暑い環境で営巣するシロチドリにおいて、体温を素早く下げるのに貢献していることを示しています。
 以上のことから、Amatさんらの研究結果は、シロチドリの腹濡らしの第一の目的は、卵温度を下げることよりも、高温によるストレスを受けている親鳥自身の体温を下げることであると結論しています。抱卵している間は、卵温度は高温にならず、親鳥が腹濡らしのために巣を離れた結果として卵は高温になります。卵の冷却は濡れた親鳥がそのまま抱卵した結果、二次的な結果として起きているようです。

  

 

引用文献
Amat, JA and Masero, JA. 2007. The functions of belly-soaking in Kentish plovers Charadrius alexandrines. Ibis 149: 91-97.
Amat, JA and Masero, JA. 2009. Belly-soaking: a behavioural solution to reduce excess body heat in the Kentish plover Charadrius alexandrines. Journal of Ethology 27: 507–510. (Short communication)