バードリサーチでは環境省のモニタリングサイト1000の調査と連携し,森の鳥の繁殖に気候変動が与える影響について明らかにするための調査をしています。
2009年から徐々に調査地を拡げつつ実施しているこの調査は,7地点の調査地で各種鳥類のさえずり時期を調べ,気候との関係を調べています。さえずり時期は東京大学のサイバーフォレスト・プロジェクトのライブ音配信を聞き取ったり,調査サイトに設置したICレコーダーでタイマー録音した記録を聞き取ることで調べています。今回,これまでのデータを集計し,キビタキのさえずりが活発になる時期と気象条件の解析を行なった結果,キビタキのさえずりが活発になる時期が4月の気温と関係があることが見えてきました。
さえずりの活発になる時期を抽出
2014年の年報では,埼玉の秩父演習林での調査結果からキビタキやコルリの初認日と気温が関係していることを紹介しました。この時は「初認日」を使って解析したのですが,場所や年によっては,初認後にキビタキがいなくなってしまったりすることも多々ありました。おそらく渡りの途中の個体のさえずりを「初認」として記録してしまっているためだと思われます。そうだとすると,初認日は鳥の繁殖時期を示す指標としてあまり良くなさそうです。
そこで,今回は違う指標を使って解析をしてみました。この聞き取り調査は一定の時間を聞き取って,何分鳴いていたのか,というさえずりの頻度のデータがあるのが強みなので,それをもとにさえずりの活発な時期を推定してみたのです。
調査期間には,寒かったり雨だったりしたために,あまりさえずらない日があります。そんな日の影響を軽減するために,まずは,前後2日間を含めた5日間の平均(移動平均)をとって,データを平滑化しました。そして調査開始日から,移動平均値の最大値が出た日までのデータを使って,回帰線を引きました。そして,それが50%に達した日をその年のさえずりが活発になった日の指標としました。図1のようなイメージです。
4月の平均気温が影響?
各調査地で共通してみられるキビタキについて,各年のさえずりが活発になった日と気象情報を比べてみると,キビタキのさえずりが活発になる日は渡来時期にあたる4月の平均気温と有意な相関がありました(P= 0.001)。点の分布が右下がりになっていることから4月の気温が暖かい年ほどさえずりが活発になる時期が早くなることがわかります(図2:全地点のグラフはこちらから)。
埼玉県秩父演習林では,巣箱を使ってヤマガラの巣立ち時期を調査していますが,その結果では,4月までの積算気温(5度以上の日の積算値)と巣立ち日に強い相関があることがわかっています(図3)。積算気温は植物の開葉開花や昆虫の発生時期と関係の高い気候要素ですので,ヤマガラは気候変動で食物の豊富な時期がかわっても,ある程度それについていけそうです。しかし,繁殖時期の指標となるキビタキのさえずりの活発な時期と積算気温には有意な関係はなく(P=0.15),気候変動に対応できない可能性が考えられます。
ヤマガラは留鳥で,キビタキは夏鳥なので,留鳥と夏鳥では反応する気象条件が違うのかもしれません。ほかの種についても解析を進め,そのあたりも明らかにしていきたいと思います。