バードリサーチニュース

ヒドリガモの幼鳥率調査 中間報告

バードリサーチニュース2017年1月: 5 【活動報告】
著者:神山和夫
図1.  ヒドリガモの成鳥と幼鳥

図1. オスのヒドリガモ成鳥(上)は雨覆が白い、幼鳥(下)は茶褐色

毎年1月に行われている環境省のガンカモ類の生息調査によるとヒドリガモは2008年以降一貫して減少を続けていて(環境省 2016)、繁殖成功率が下がっているのかもしれません。遠くて広大なロシアの繁殖地で調査することは簡単ではありませんが、日本に飛来するヒドリガモの幼鳥率を調べることで、繁殖成功率の目安にすることができます。幼鳥率は春生まれの0歳個体の数を全数で割った数字で、この数字が高ければ、直前の春には多くのヒナが育ったことを示しているからです。カモ類は野外観察で成鳥と幼鳥を区別することが難しいのですが、ヒドリガモのオスでは比較的簡単に成幼を見分けることができます。図1に示すように、脇腹に見えている雨覆の色が白と成鳥、茶褐色だと幼鳥だと分かります。調査方法と詳しい識別方法は、こちらのページをご覧下さい

 

図2. 2017年1月のヒドリガモ幼鳥率。赤枠は調査した数が20羽未満のため参考値。

これまでに幼鳥率調査の記録を送っていただいた場所は関東地方が多いため地域的な傾向まで見ることはできませんが、昨年1~2月の予備調査では関東と大阪で幼鳥率が13~15%だったことと比べると、今年は大半の調査地が10%を下回っており(図2)、昨年より幼鳥率が低いのかもしれません。

あるいは、今年の冬は昨年よりも寒いので、幼鳥が南に集まっているせいで関東周辺の幼鳥率が低くなっている可能性もあるかもしれません。図3は2015年と2016年両年の12月にヒドリガモが30羽以上記録されている地点について、12月の最大個体数を比較した地図です(※)。北海道から本州にかけては昨年より今年の個体数が少ないか、同程度という調査地が多いのですが、九州では今年の個体数が多い調査地の方が多くなっています。今年は成鳥と幼鳥のどちらもが南に移動しているのかもしれませんが、幼鳥の方が寒さに弱く南で越冬する傾向が強いとすれば、そのぶん関東の幼鳥率が下がったのかもしれません。

※バードリサーチの身近なガンカモ調査、環境省のモニタリングサイト1000と渡り鳥飛来状況調査の記録を分析しました。

図3. 2015年と2016年の12月におけるヒドリガモ最大数の比較。白:両年の数の差が小さい、赤:2016年が多い、青:2015年が多い。

図3. 2015年と2016年の12月におけるヒドリガモ最大数の比較。白:両年の数の差が小さい、赤:2016年が多い、青:2015年が多い。

ところで、ヒドリガモの10%前後という幼鳥率は、かなり低いように思います。例えば、ハクチョウ類の幼鳥率は、環境省のモニタリングサイト1000の記録では10~20%あります。一般に寿命の長い鳥は一度に育てるヒナが少ない傾向があり、オオハクチョウの平均寿命は9年(BTO Bird Facts)ですが、ヒドリガモの平均寿命は3年(BTO Bird Facts)しかないので、ヒドリガモの幼鳥率が彼らより低いのは不思議なことです。海外ではイギリスで長年ヒドリガモの幼鳥率が調べられていますが、毎年30%前後という数字になっています(Mitchell et al. 2008)。日本はヒドリガモ越冬地の北限で、南は中国南部から東南アジアまで越冬していますから、もしかすると幼鳥はさらに南に渡っていくのかもしれません。

ヒドリガモを近くで観察する機会があれば、幼鳥率調査に参加していただけませんか。調査と報告の方法はホームページで説明しています

参考文献

環境省自然環境局 (2016) 第46回ガンカモ類の生息調査報告書(平成26年度).

Mitchell C, Fox AD, Harradine J & Clausager I (2008) Measures of annual breeding success amongst Eurasian Wigeon Anas penelope. Bird Study 55:43–51.