研究者のあいだでは「鳥と人とは違うんだから擬人化して考えてはいけない」とよく言われます。でも何か考えようとしたとき,自分の身に置き換えた方がうまく考えられることもあります。今回 Bird Research誌に掲載されたワシのバードストライクの論文もそう。オジロワシは風車をちゃんと避けていることがわかっています(植田ほか 2015)。それにもかかわらずバードストライクが起きています。なぜなのでしょうか。
人に置き換えて考えてみると,ぶつかりたくもないのにぶつかってしまうことと言えば,交通事故を思いつきます。ぼくも1回自損事故をやらかしてしまいました。その時は,眠くて気を抜いた瞬間に,スピンして雪壁に突っ込んでしまいました。ワシでもそんなこと,あるのかもしれませんが,ワシが眠そうかどうかは,ぼくには見分けられないので,ほかの事故原因を考えてみましょう。「急な飛び出し」や「よそ見」などが思いつきます。風車は急に飛び出しては来ないので,「よそ見」に注目して調査をしてみました。
植田睦之・福田佳弘・高田令子:食物の存在はオジロワシとオオワシのバードストライクリスクを高くする? Bird Research 12: A41-A46
ワシが思わず「よそ見」をしてしまう原因として,食物の存在を考え,給餌実験を行なったのがこの論文です。食物を置いたり,除去したりした時に,上空を飛んでいるオジロワシとオオワシをビデオ録画し,視線方向を記録したのです。すると,食物があると,ワシはそればかり見て,前を見ずに飛ぶことが多くなりました。さらに食物にほかのワシやカラス類が集まることで,他個体と追いかけあって飛ぶことも増えました。ワシの視野は意外と狭く,下を向いて飛ぶと前が見えないことが知られています。また,他個体と追いかけあっていた時に風車に衝突した事例も記録されています。したがって,風車の近くに食物があることで,バードストライクのリスクが高まると言えそうです。このことから,バードストライクの危険性を減らすためには,ワシの食べ物がよく打ち上げられる海岸線には極力風車を建てないようにすること,そして既設の風車がこのような場所にある場合は,見回りをして,風車のそばに食物があった場合には除去することが重要だと考えられます。
論文の閲覧 http://doi.org/10.11211/birdresearch.12.A41
給餌された食物を見て,下を向いて飛ぶオジロワシ